歴史を体験し次世代へ繋ぐ「昭和レトロの収蔵室」、KYOWAクラシックカー&ライフステーション(新潟県三条市)

KYOWAクラシックカー&ライフステーション 内観

「若者のクルマ離れ」──そのような言葉が囁かれるようになって久しいが、自動車業界への注目度は未だ高く、そして自動車・二輪車のファンも根強い。近年は特に、マンガ・アニメといったカルチャー面から火がつくケースや、キャンプなど他分野との関わりで注目されるケースも特徴的だ。

自動運転など最新技術を搭載した車や、新規参入の企業などに注目が集まる一方で、「古き良き時代」の名車たちを愛好するファンも多い。新潟県内でも糸魚川市では「日本海クラシックカーレビュー」が実施されており、新型コロナウイルスの影響により中止となった昨年度分をとり返すように、2021年5月の開催には多くの人が集まった。

そんな中、近年SNSや動画サイトなどを中心に「昭和レトロの世界にタイムスリップできる」とにわかに話題となっているのが、新潟県三条市の「KYOWAクラシックカー&ライフステーション」だ。元々は企業が自社の社員教育のために始まったという異色の経歴を持つ施設には、連綿と続いてきた「ものづくりの歴史と理念を伝える」という思いが根底に流れていた。

目次

◎日本の産業を支えてきたモータリゼーション
◎社員教育から始まった展示
◎人々の生活をつくったプロダクトたち
◎自分たちのルーツを知る場所

日本の産業を支えてきたモータリゼーション

「荷車から“車”へ」

「オースチン・セブン」と「ダットサン17TC」

展示場へ足を踏み入れて右手側、順路を進んだ先ではまず、整然と並んだ日本のモータリゼーションの先駆けたちが目に入る。

中でも、戦前に造られた1933年式の英国車「オースチン・セブン」と、それを模倣した「ダットサン17TC」、彼らに対峙する数々の三輪オートなどは、現代の公道上ではまず目にかかることのないフォルムであり、まるで映画のセットの中のような気分が味わえる。当然こうした車両たちは、それぞれが今や自動車産業界にとって記念碑的な1台だ。

モータリゼーションを象徴する名車たち

順路を進むと、経済成長期までの「元気のあった日本」を象徴する名車が並ぶエリアに入る。圧巻なのは、その台数だ。マニアであれば1台でも垂涎の品であろう名車が、広い旧工場の中に整然と並んでいる。

日本最初の大衆車として「マイカー」という言葉を定着させた「スバル360(昭和33年式)」、法人・要人向けの最上級車両として存在感を放つ「日産プレジデント(昭和40年式)」など、大衆車から高級車、国産から欧米の車両まで様々で、1台1台見て回っても飽きない。

2階・3階へかけてのエリアには、またしても多種多様な二輪車が展示されている。

そこには、かつて数多くの名車を輩出してきたことで知られる目黒製作所(現在の川崎重工業株式会社へ吸収合併)の「メグロ ジュニアS8(昭和38年式)」、ヤマハ初のオートバイで「赤トンボ」の愛称で知られる「YA-1(昭和30年式)」、さらには、現代に続く二輪界の超ロングセラー「ホンダ カブ」の元祖、自転車へエンジンを取り付けていたタイプの「F型(昭和27年式)」まで、日本のモーターサイクルの源流が顔を揃えている。

「スバル360(昭和33年式)」

元祖カブ「F型(昭和27年式)」

社員教育から始まった展示

KYOWAクラシックカー&ライフステーションを運営する共和工業の歴史を物語る品々

貴重かつ膨大な展示であるが、驚くべきことに同施設は公営の博物館ではない。民間企業が独自に集めた品を展示している体験型の施設なのだ。

「KYOWA クラシックカー&ライフステーション」を運営する共和工業株式会社は1968年創業。半世紀以上に渡り、三条市でプレス加工やプラスチック形成を通して、自動車に用いる大型部品から日用品まで幅広い業界の製造に関わってきた。

施設の始まりは1980年代。当時の代表が「社員へものづくりの仕事に携わることの誇りを感じて欲しい」という意向で、自社が関わった自動車から収集を開始した。

フライス盤や旋盤といった共和工業の歴史を支えた機械たち

1969年製の型削り盤

当時を知る三条市の金融関係OBは「(一般公開していなかった)当時は、社員教育や会社への来客の時に見せていたと聞いている。私も、地元企業の代表と共に訪れた際に見学した経験があるが、あれだけの収集には皆驚いていたし、その熱量には圧倒された」と語る。

収集は基本的に2000年前後まで行われており、社員教育のために用いられ続けていたが、移転に伴い空きが生まれた上須頃の旧工場へ収集品を集め、近年一般にも公開を始めたのだ。

人々の生活をつくったプロダクトたち

様々な農具

昭和レトロな駄菓子屋を再現したような一画も

これまで豊富なコレクションを見てきたが、「クラシックカー&ライフステーション」という名称の通り、これらは施設の半分に過ぎない。2階から上にかけてのエリアには、明治から高度経済成長期にかけての農具・民具や家電製品、カメラなど、生活用品が並んでいる。

収集品の多くは共和工業が購入、もしくは取引先や地域住民から譲り受けたものである。特に生活用品は、住宅などを取り壊す際に発見した物や、所有者が「不要にはなったが思い入れがあり、捨てがたい」として譲った物品も多く、染み付いた生活感にリアルな迫力を感じる。

大正時代のラジオから、レトロフーチャーな雰囲気のアメリカ製テレビまで

生活用品のコレクションも膨大だ

共和工業の松井義敬氏は語る「例えば、洗濯用品であれば洗濯板ほど古くなれば貴重なもののようにも見えるが、1世代前の洗濯機などは型落ち品としか見られず、捨てられることが多い。しかし、それが消えてしまえば、時代の趨勢も生活感も一緒に消滅してしまう。家電の歴史に、1つのミッシングリンクが生まれる」。

ところ狭しと並べられている生活用品は、全てが系統樹によって結び付けられている。そしてそのそれぞれに、代替し難い人々の生活の記憶と背景が込められているのだ。

自分たちのルーツを知る場所

ホンダ S800

そして松井氏は、この場所が単に古いモノを展示している施設ではなく、「体験」ができる場所であることを強調する。

基本的に、展示物は実際に手を触れることができる。数多く並んだオートバイには跨ることが可能で、時代劇から飛び出したかのような籠には親子連れで来た子供を乗せるサービスをすることも多いという。

極め付きは、ナンバーを取得した「マツダ コスモスポーツ」や「ホンダ S800」「ホンダ CBX400F」を試乗体験できることで、往年の名車を操れることに感動を覚える利用者は多い。

こうした、モノを文化財として保存・研究することを基本としている博物館とは異なる立場について松井氏は「『ものづくり』には、日本人が日々の糧を得るために培ってきた、謂わば『先人の知恵』が詰まっている。実際に触れ、使って楽しむことで、タイムスリップできる。ぜひ当時の価値観に触れてほしい」と説明する。この施設は、単なる郷愁や保存の場所ではない。実体験を伴った知恵の継承の場なのであり、「石油などの資源の無い日本が、生き残るための手段を示唆する場所でもある」(松井氏)。

KYOWAクラシックカー&ライフステーション──社員教育のために始まった収集は、「自分たちの生業のルーツを後の世代へ教える」という当初の理念を受け継ぎながらも拡大し、博物館ともまた異なる独自の「体験ができる場所」となって魅力を放っている。見学の際にはぜひ親子や祖父母連れで来て、思い出と知恵を次世代へと受け継いでほしい。(文:鈴木琢真)

【KYOWAクラシックカー&ライフステーション】

KYOWAクラシックカー&ライフステーション

◯見学料 大人:1,300円/小学生まで:900円(施設の見学は予約制)
◯定休日 毎週火曜日・木曜日
◯電話申込 0256−34−4440 / 080−2182−4387(担当:松井義敬)
◯ネット申し込み (アソビュー!)

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