県境住民「一律」往来自粛に困惑 佐世保と佐賀 通勤、通院…「同じ生活圏」

佐賀県と長崎県の車が往来する県境付近の国道。電光掲示板は「県外往来自粛」を求めている=佐世保市木原町

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、県は全国の都道府県と足並みをそろえ、住民に「県外往来の自粛」の呼び掛けを続けている。ただ、佐世保市三川内地区と隣接する佐賀県有田町は、窯業などで築いた歴史的な関係が深く、双方の住民は日常的に県境を行き来する。地元からは「一律の自粛を求められても…」と戸惑う声もある。

◆周囲の目

 三川内地区に住む50代女性は毎朝通勤のため、自家用車で県境を越えて有田町の会社へ向かう。「不要不急の県外往来自粛を」-。国道の電光掲示板を見るたびにぼやきたくなる。「そう言われても…」。自宅近くにスーパーはなく、退社後は同町で食料品を買って帰る。
 佐世保市などによると、三川内地区と有田町の住民は買い物や通院などで行き来し、縁戚関係も少なくない。県境に接する三川内地区前平町内会の堀本等会長(62)は「有田町は同じ生活圏にある感覚。コロナが拡大した当初は仕方ないと思ったが、いまだに移動が県境で線引きされるのは違和感がある」と困惑する。
 佐賀県側の住民も同様の思いを抱く。県境に近い有田町原明地区にある理容店の男性店長(49)は「三川内は地元の一部。佐世保ナンバーの車が来ても全く気にならない」。ただ、佐世保の常連客には勤務先で県外移動の許可を取ってくる人もおり、「周囲の目があるのだろう」と思いやる。
 有田町民が越境する場合も複雑な心境があるようだ。60代男性は、地元にないスポーツ用品などは車で佐世保に買いに行くが、「佐賀ナンバーの車には、感染者が多い福岡県に近い鳥栖市なども含まれる。佐世保の人が不安に感じないか心配。“有田ナンバー”でもあればいいのに」とつぶやく。

◆信頼関係

 三川内と有田町は、近隣の東彼波佐見町などを含め、江戸時代から陶磁器の生産で交流発展してきた。窯業関係の仕事をしていた原明地区の永岩三夫区長(65)は「この地域には県境が引かれる前から培ってきた信頼関係がある。コロナで人々の交流が減らないだろうか」と懸念する。
 長崎県内には松浦市などにも住民の行き来が多い県境がある。「県外往来の自粛」の考え方について、県担当者は「必要な移動の自粛までは求めない。地域の状況に合わせ、感染防止の行動をしてほしい」とする。一方、注意喚起の言葉を見直すことに対しては「県外からウイルスが持ち込まれて感染が広がる流れは確かにあり、今後も訴える必要がある」と理解を求める。

 


© 株式会社長崎新聞社