波佐見町「インスタ」フォロワー1万人超え 長崎県内自治体最速

波佐見町の公式インスタグラムの画面

 東彼波佐見町の公式インスタグラムが好調だ。本格運用から約1年でフォロワー数1万人を突破。県内自治体で断トツの多さで、東京都庁広報課のアカウントにも迫る勢いだ。急成長の背景には、若手職員が足で稼いだ地域情報と東大、京大の学生と連携した戦略的な発信方法がある。
 5月19日、町役場の会議室で町商工観光課の村川恵太さん(28)がノートパソコンに向き合った。インスタのアカウントを共同で運用する学生たちとのリモート会議。月1、2回のペースでフォロワーの反応や今後の投稿計画を共有する。
 この日は、プロジェクトの中核を担う東大大学院教育学研究科修士課程1年の小川護央(もりおう)さん(24)を始め学生4人が参加。通常の議題を話し合った後、投稿内容のジェンダー意識についてもテーマが及んだ。波佐見焼の新作を紹介した投稿中の「女性向け」という表現にフォロワーから疑問の声が寄せられたのだ。
 小川さんは「『かわいいから女性におすすめ』などステレオタイプな表現にならないように気を付ける必要がある。情報を届けたい人をイメージしつつも、その人のニーズにどれだけ刺さるかを大事にしよう」と提言。フォロワーの反応を敏感にくみ取りながら、投稿内容の質を常に更新している。

◎現地情報「多く」「厚く」で好反応

 東彼波佐見町のインスタグラムは2016年に開設。当初は町内のイベント周知などにとどまり、フォロワー数は千人程度だった。新型コロナウイルス感染拡大で観光事業が制約される中、ネットの情報発信を強化しようと昨年2月に「フォロワー数1万人」の目標を設定した。
 会員制交流サイト(SNS)に親しい世代の感性を生かすため、東大、京大の学生を交えたプロジェクトチームを編成。役場側の担当職員には町商工観光課の若手、村川恵太さん(28)を抜てきした。
 東大、京大学生とは、国の地方創生事業の一環で3年前から連携。中学生向けのキャリア教育や観光分野での助言を依頼していたが、コロナ禍の影響で従来の活動が難しくなり、リモートで協働できるインスタ発信強化を軸に据えることになった。学生側から「現地ならではの情報を毎日更新」という方針が提案され、運用が始まった。

リモート会議で学生と話し合う村川さん=波佐見町役場

 現地の取材と撮影は村川さんが担当。町内の陶磁器窯元や商社、飲食店などを巡り、取材メモや写真を学生に提供する。学生は写真を加工したり、記事を書いたりして投稿し、SNS上の反応を分析しながら次の投稿計画を立てる。
 東大大学院教育学研究科修士課程1年の小川護央(もりおう)さん(24)らは、人気のアカウントの研究や海外のマーケターから集めた情報を基に投稿の精度を上げた。検索でヒットしやすいように長文の投稿を増やし、画像に興味を引くキャプションを付けるなど工夫を重ねた。「ユーザーが自治体のアカウントに期待するのは正確で新しい情報。『デジタルパンフレット』をイメージし、情報を多く、厚くしたことで反応が良くなった」と話す。
 コメントには村川さんがほぼ全て返信し、着実にフォロワーを積み上げた。町の調べによると県内の多くの市町がインスタのアカウントを所有するが、3月末現在のフォロワー数は▽佐世保市約8千人▽大村市、西彼時津町約3千人▽長崎市(複数)約2千人~約5千人-など。他は2千人以下にとどまり、波佐見町が群を抜いている。
 本年度は更新頻度を週2~3回に減らし、情報の質を上げることで、獲得したファン層の誘客を目指す。町内を周遊するモデルコース提案や「カレー」にテーマを絞った飲食店紹介などが好評だ。
 「波佐見陶器まつり」の延期を知らせる投稿には応援や激励のコメントが多数寄せられた。村川さんは「『コロナ禍収束後に必ず行く』というコメントが多い。インスタの発信力を維持し、収束後の来町につなげたい。売り上げが落ちている町内事業所の支援に少しでも貢献できれば」と意欲を語った。


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