【大学野球】一般就職も考えた 大阪桐蔭選抜Vの4番が苦悩の末に掴んだ大学全国切符

国学院大・山本ダンテ武蔵【写真:楢崎豊】

東都リーグトップの5本塁打、17打点で2冠引っさげ全日本大学選手権へ

4年前の春に全国制覇した大阪桐蔭の4番が、全国の舞台に戻ってくる。国学院大を全日本大学野球選手権(7日開幕・神宮球場、東京ドーム)に導いた山本ダンテ武蔵外野手(4年)は大学入学後は怪我に苦しみ、3年間で1本塁打だったが、春の東都ではリーグトップの5本塁打、17打点で2冠。打率.364はリーグ2位。MVPの称号を持って、大学でも頂点に挑む。

「大学で野球を辞めようと思っていました」

山本はリーグ戦前、大好きな野球に別れを告げるつもりでいた。

高校時代は1学年下の中日・根尾昂内野手らとともに、2017年の選抜優勝に貢献したが、大学では思うように力が発揮できていなかった。入学してすぐに右肩を故障、守備につくことができず、代打での出場が続いていた。

鳥山泰孝監督からは、ずっと期待をかけられていた。昨秋、新チーム始動時に「今年はお前中心で行くから」と指揮官からの言葉にうれしくもあったが、責任も感じていた。でも、思うように状態が上がってはいかない。当時は大学3年生。野球を続けないのであれば、一般就職を考えないといけない。“就活”に気持ちがシフトしていく自分がいた。

それでも大学野球の集大成。悔いなく終わりたい。持ち味である打撃を見直すことにした。自分の中で出した結論は「打点を稼ぐこと」。ミート力を上げ、確実性を高めることに注視した。

凡退の打席を分析すると、中から外のコースの球を三塁、遊撃方向に引っ掛けるゴロが多いことがわかった。バットのスイング軌道を内から外(インサイドアウト)を意識。フリー打撃では緩いボールを右方向へ打ち返す練習を繰り返した。

打点を稼ぐ意識をより強くするため、フリー打撃の最後の方には球種を混ぜ、「1死三塁」などという得点圏の状況を自分で設定。試合感覚を研ぎ澄ませた。

練習を見ていた鳥山監督もすぐに変化に気づいた。「突然、右に打ち始めたんですよ。来る日も、来る日も、右打ちをずっとしていたんですよね」。自分で気付いて取り組んでいるのだから、伸びていく確信があった。

しかし、野球の神様は山本に試練を与えた。

3月初旬に右太もも痛め、復帰戦では4打数ノーヒット

3月初旬にも右太もも裏を肉離れ。1か月ほど、野球ができなかった。気持ちが沈む時もあった。復帰戦となったENEOSとのオープン戦では、4打数無安打。だが、ある心の変化があったという。

「なんで、打てなかったんだろう……。悔しいなと思っている自分がいました。そこで、やっぱり、野球が好きなんだということに気づきました」。打てなかった悔しさを感じ、苦しんでも、楽しいと思える野球がそこにあった。

自分にはやっぱり野球だ。怪我が癒えた山本は、身につけた右方向への意識を持って、本塁打を量産。象徴的な本塁打があった。4月5日の亜大との春季リーグ開幕戦で、逆方向に第1号3ラン。この1本で山本は一気に波に乗った。本塁打、打点はリーグ2冠。「出来過ぎた部分もありましたけど、チームに貢献できてよかったです」と胸をなで下ろした。

終わってみれば、3冠王まであと一歩の活躍。社会人野球の強豪からの声もかかった。もしかしたら、プロへの扉も開くかもしれない。だが、それは胸にしまい、次の目標へと向かう。ただ、野球を続ける気持ちは沸いてきた。

全日本大学野球選手権は7日から神宮球場、東京ドームで行われる。「リーグ戦とやることは変わらないです。同じ気持ちで打点を上げていきたいです」。甲子園優勝に導いた男が、次は神宮の舞台で結果を残す。

野球をやめる決断は、まだもう少し先に……。いや、ずっとずっと先であってほしい。そう思わせる選手になってもらいたい。

【表】根尾、藤原ら2年生にプロ4人、2017年選抜V大阪桐蔭メンバーの今

【表】根尾、藤原ら2年生にプロ4人、2017年選抜V大阪桐蔭メンバーの今 signature

(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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