『Fairy蘭丸』が只者じゃない理由。“人間の弱さ”を大人にこそ見て欲しい

『キンプリ』などの菱田監督が贈る話題のTVアニメ『Fairy蘭丸~あなたの心お助けします~』。「夜のニチアサ」とも称される本作を大人にこそ見て欲しい理由とは?

見た瞬間、土曜の夜7時台にテレビに張りつき夢中になっていた戦闘変身ヒロインアニメのことを思い出しました。日曜朝8時台のアニメが頭をよぎった人もいるかもしれません。

このように子どもの頃を思い起こさせるにもかかわらず、監督自らが「子どもは見てはいけません。(中略)大人になったあなたには最適なアニメです」(Twitterより引用)と発言した作品が2021年4月から始まっています。

それが、TVアニメ『Fairy蘭丸~あなたの心お助けします~』(以下、『Fairy蘭丸』)です。

当初、筆者は「なぜ『セーラームーン』や『プリキュア』を彷彿とさせるこの作品が?」と首をかしげてしまいました。ですが、物語に引き込まれるにつれて“大人にこそ最適”の意味を実感していったのです。

TVアニメ「Fairy蘭丸~あなたの心お助けします~」公式サイト

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キレイごとばかりじゃ生きていけない“大人の弱さ”

『Fairy蘭丸』は、夭聖(ようせい)と呼ばれる5人の青年が、悪人に虐げられ苦しむ人を救う勧善懲悪アニメです。

この概要を見ただけではきっと、子どもが見てはいけない理由を理解できないでしょう。

筆者が『Fairy蘭丸』を「子どもは見ちゃダメ」と感じた理由は「大人の弱さ」がしっかりと描かれているからです。

そもそも夭聖たちが人間界にいるのは、何らかの理由で衰退した夭聖界の再興に必要な力「愛著(あいじゃく)」を集めるため。人の心が大きく動く瞬間に生まれる愛著は、悪人の中に根付く「邪魂(じゃこん)」を浄化することで手に入るため、夭聖たちは苦しむ人を必死に救うのです。

ただ、この作品の場合、その救った結果が必ずしもすっきりキレイな結末を迎えないことが珍しくありません。例えば、売れない頃から支えてきた俳優の彼氏に浮気され傷ついた依頼人を、夭聖が救済した禁忌其の参『嫉妬』。

浮気男への成敗は真っ当な正義のように見えます。しかし実は依頼人も彼を独占したいあまりネットに匂わせ投稿をするといった過度な束縛行為をしていたため、自身も夭聖から罰を受ける結末となっています。

他にも、誰かを勇気づけられるアイドルになるべく努力してきた女の子を救う禁忌其の肆『堕落』では、ファンと過剰な接触をさせることで依頼人を蹴落とそうとする先輩アイドルに鉄槌が下されました。

しかし救ったはずの依頼人がその後、成敗したアイドル同様の手法で人気を獲得するようになってしまったという、同じ過ちを繰り返す様子が描かれています。

『Fairy蘭丸』には、当初抱いていた純粋な夢や想いが、いつの間にか富や名声、プライドで闇に染まってしまう、そんな人の業の深さ、大人の弱さが見え隠れします。

「キレイごとばかりじゃ生きていけない」という言い訳を盾に、理不尽なことも受け入れてしまっている大人たちの情けなさがありありと描かれている『Fairy蘭丸』。もしかしたら「子どもは見ちゃダメ」は、「子どもには知られたくない」という大人の本音と言った方が正しいのかもしれません。

痛みを忘れさせてくれる圧倒的なパワー

大人の痛いところを突いてくるアニメ『Fairy蘭丸』。しかしそれをなかったことにするくらいの勢いで吹き飛ばす、圧倒的なコメディパワーを持った作品でもあります。

この作品がSNSでトレンド入りを果たした際、「ムード歌謡」というワードが飛び交いました。その理由は、夭聖たちが戦闘に向かうシーンにあります。

Fairy蘭丸挿入歌「愛らんらんらん」/阿以蘭丸(CV坂田将吾)

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一度聴いたら脳にこびりついて離れない懐かしいメロディと、力強く渋い和風フォントの歌詞テロップ。「艶歌」と呼ばれるキャラソン演出が突如始まった瞬間、このアニメが只者ではないことがヒシヒシと伝わってきました。

またエンディングテーマを初めて耳にした時の衝撃も忘れられません。エンディングまでもが、歌謡曲チック。

今が令和時代であることを忘れてしまいそうです。しかもこのエンディングの歌詞が、夭聖たちの苦労を歌ったものでありながらも、“大人の疲れた心”に染み入る内容となっているのです。

Fairy蘭丸ノンクレジットED「夭聖哀歌」/5 to HEAVEN

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しかもこのエンディングの歌詞が、その内容は、「己を騙しながら、毎日他人(ひと)のために一生懸命働く」という夭聖たちの苦労を歌ったものでありながら、“大人の疲れた心”に染み入る内容となっているのです。

人情、思いやりが大切だとは分かっているけれども、世の中にはそれを利用する人もいる。そんな世知辛さも受け入れながら、自分を騙し騙し生きていかなければならない――。

“大人の突かれて痛い部分”を歌ったものではあるものの「分かるわ~」と言いたくなる共感性の高い歌詞が、なにかと疲れている大人に寄り添ってくれるのです。さらに普段は人間に擬態している夭聖たちが悪人と戦うため本来の姿に戻る変身シーンに感じる色気も、懐かしさと危なっかしさとがごちゃ混ぜになって、脳の処理が追いつきません。

夭聖たちの肉体美を余すことなく見せてくれるカメラワークは、後光が差すタイミングが一歩遅れてしまえば危うく露出狂になってしまうラインスレスレ。また衣をまとうタイミングもカメラが向いた瞬間ギリギリなので、見ているこちらは常にハラハラさせられます。

加えて変身のトリガーとなる「あなたの心いただきます」という決まりセリフと、依頼人の口に落とされる優しいキス。その際に夭聖たちからこぼれる吐息はあまりにも甘く、バックに流れるムーディーなトランペットのBGMもあいまって、夭聖たちの色っぽさが天井知らずの状態になっているのです。

“セクシーの独壇場”とも言える『Fairy蘭丸』の変身シーンは、子どもたちにはちょっと早い刺激かもしれません。情報量の多さ、天下一品。混乱必至の『Fairy蘭丸』。とりあえず最初は何も考えず、夭聖たちの世界へいざなわれてみてください。気づけば艶歌を口ずさんでいる自分がいるかも……!?

(執筆:クリス)

TVアニメ「Fairy蘭丸~あなたの心お助けします~」PV第1弾

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