若者の起業家がすくすくと育つスウェーデン、なぜ? 学生が体験する実践的教育【世界から】

今年の地域の若者起業家大会で優勝した企業「HIT ME UF」の高校3年生5人(同社提供)

 まだ世に出ていない、新たなビジネスモデルを開発する「スタートアップ企業」。そのエコシステムが構築されたスウェーデンは、世界の中でも人口当たりのスタートアップ企業が多い国の一つだ。EU各国のイノベーションに関する評価をまとめた「欧州イノベーション・スコアボード」では、2020年の総合指数で10年連続のトップに輝いた。学校では社会と接点をもって起業する教育が1980年から始まっている。若者起業家を支援するプログラムには多くの人が参加、実際に起業する体験が、この国のイノベーションの発展を後押ししている。(スウェーデン在住ジャーナリスト、共同通信特約=矢作ルンドベリ智恵子)

 ▽高校生3万人以上が起業

 若者の起業を支援する非営利団体は各自治体にあり、この団体が学校や企業と連携し、学生が起業をスタートするところから最終的に会社をたたむまでの一連の流れをサポートしている。この支援を受けて起業する高校生の数が年々増えており2019年まで全国で3万人以上の高校生が起業した。高校を卒業した後、本格的に起業する人もいるらしいが、その多くは大学に進学して経済学や経営学を学ぶ場合がほとんどのようだ。

「欧州イノベーション・スコアボード」では、2020年の総合指数でスウェーデンはトップに輝いた(EUホームページより)

 実際に起業する際は、起業登録庁にネットから指定フォームを記入し登録する。登録料は一つの会社ごとに約300スウェーデン・クローナ(SEK、約4千円)となっており、これが保険料の代わりとなっているようだ。

 各企業との連携もあり、ある高校ではPwC(プライスウォーターハウスクーパース)などの大手の会計コンサル会社から経営管理、会計、監査などについてアドバイスを受けることができる。

 ▽社会課題に取り組む

 このプロジェクトで大事な目的の一つは、自ら社会の問題・課題を見つけ、その解決策を見いだすこと。活気のある社会をつくるためには、若者自体が主体性をもって社会問題や意思決定のプロセスに関わることが大切だとスウェーデンでは考えられている。

HIT ME UFは地域の若者起業家大会で優勝し、10000スウェーデン・クローナを獲得した(同社提供)

 若者起業支援プログラムは、通常、経済プログラムの高校生の必須科目となっており、授業の中で一年間かけてアントレプレナーシップ(起業家精神)を学ぶ。1年目と2年目はビジネスモデル作りから営業、マーケティング、販売、会計、簿記、リーダーシップ、経営学などについての理論、その後、3年生で若者起業家支援のプログラムに参加し、実体験を通じて経営そのものを学ぶというわけだ。

 コロナ禍前は毎年ストックホルム国際展示場で若者起業家支援のための見本市があり、展示ブースを出したりできたようだが、今年は開催されなかった。毎年、優秀な若者起業家グループは約10000SEK(約13万円)の賞金(奨学金)を獲得することができる。

 ▽プロジェクト例

 ちなみに筆者が住むストックホルムの郊外、テービー市で見事優勝した高校生の起業家グループは、「HIT ME UF」という会社を立ち上げた。グループの中の二人がゴルフをやり、プレーしている間にいつまにか自然界に消えてなくなってしまうゴルフボールの消費について、疑問を持つようになったという。

新たに商品として生まれ変わった使用済みのゴルフボール(「HIT ME UF」提供)

 そんな疑問が彼らのビジネスアイデアとなった。ゴルフの打ちっぱなし場で使用されたゴルフボールを安く買い上げ、そのボールにユニークなステッカーを貼り付け、新規のゴルフボールとして販売するというものだ。販売はホームページによるネット販売、ゴルフ場やスポーツショップなど、プレゼント用として購入する人が多いようだ。

 ビジネスコンセプトは中古のゴルフボールを再利用、ユーモアたっぷりの新しいボールを作り上げること、新規の生産や過剰な消費を減らし、ゴルフというスポーツを持続可能なものにすることだ。

 この事例からスウェーデンの教育は非常に実践的であり、社会とつながっているということが分かる。日本においてもこのような若者起業教育のシステムが公的機関や企業と連携して、地域社会で起業人材が育つことになることを期待したい。

再利用された使用済みのゴルフボールを持つ販売・商品担当の男性(「HIT ME UF」提供)

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