伸び続けているローカルフリーペーパー「Otonari(おとなり)」の作り方

ファンの声に支えられ、クラウドファンディングに挑戦

鷲崎さんと吉川さんをはじめとする「Otonari」編集部員は現在6名。もともと同じ事務所でフリーペーパーを制作していたメンバーだったのですが、コロナの影響で休刊となり、事務所も閉鎖になったそうです。
それでも、紙のメディアに可能性を感じるメンバーが集結。クラウドファンディングで「Otonari」のプロジェクトを立ち上げました。

ーどうして紙媒体、しかも無料のフリーペーパーというスタイルを選んだのですか?ウェブ媒体の台頭やコロナの影響で休刊になった冊子も多い中、立ち上げに不安はなかったのでしょうか?

鷲崎さん
それまでフリーペーパーを作っていたからという理由もありますが、ネット社会だからこそ、紙媒体がいけるんじゃないかと思ったんです。ウェブ媒体が普及し始めた10年前には、多くの企業がウェブに移行されたんですよ。でも、今はウェブで広告を出しても、露出量で大手企業には勝てない。他社に埋もれてしまうんです。

フリーペーパーなら、掲載枠は確保されるし、読者にとっては意図していなかった情報が得られる面白みもあります。実際にお客様の中にも、 “紙文化”が無くなるのは寂しいとおっしゃる声が多いんですよ。「Otonari」としてフリーペーパーを制作すると決まった時にも、お客様からたくさんのエールをいただきました。

リターンの中には、編集部からのお礼の手紙も。Otonariへの意気込みや支援へのお礼をギュッと詰め込んだ

吉川さん
クラウドファンディングでページを立ち上げた時も、10代の方からご年配の方まで幅広い年齢層の方々にご支援いただきました。ご支援くださった皆さんがコメントを書いてくださるんですけど、それが本当に嬉しくて。一件メッセージを頂くたびに編集部みんなで共有していたんです。

クラウドファンディングは100%を超える支持を得て、いよいよ「Otonari」が走り出しました。タイトルの前に掲げられたのは「地域に寄り添う情報誌」というキャッチコピー。それは支援してくれた人への感謝の気持ちでもあり、編集部の決意でもあるようです。

事業者と共に考える営業が、地域を盛り上げるカギに

クラウドファンディングの段階で、すでに地域還元を考えていたという「Otonari」編集部。コロナ禍でお土産需要が減少している地元企業の応援になればと、リターンには、「福太郎のめんべい」や「天ぷらのひらおの塩辛」など、福岡の特産品を採用。創刊後は、クラウドファンディングで集まった金額分を掲載額から割引するキャンペーンも始めました。地域に対する優しい目線は、フリーペーパーの営業にも大いに発揮されているようです。

人気の街歩きページ。足で稼ぐネタは地元の人々にも驚かれるほどディープ

ー実際に発行されてからの状況はいかがですか?

鷲崎さん
おかげさまで、ページ数も伸ばしています。収益性も以前携わっていたフリーペーパーより良くなったぐらいなんですよ。でも「Otonari」は、商売っ気を出すと長くは続けられないと思うんですよ。出稿いただいても、お客様の結果が出なければ次に続かないですから。

吉川さん
そうなんです。出稿してくださいと売り込むよりは、お客様のたどり着きたい目標やお悩みをしっかりヒアリングして、一番マッチするプランをおすすめするよう心掛けています。

鷲崎さん
そうそう。他社が良かったらそちらを進めますし、むしろウェブをおすすめする場合もあります。お客様にとって一番ちょうどいい費用感で続けていただきたいんです。こういう営業スタイルになったのは、今まで広告の世界で数々の経営者の方と向き合ってきたから。その時の経験を生かして新しいお客様のお悩みを解決する。それが私たち編集部の強みであり、ひいては地域全体の活性化につながっていくのではないでしょうか。

吉川さん
読者の皆さんからも「家族と一緒に読んで、会話のネタにしています」とか、「友達と週末出かける場所をここから選んでます」とか、嬉しいご意見をたくさん頂いているんですよ。

街を巡って、触れ合いながら、ココロを動かす媒体を目指して

「Otonari」では、毎月の特集も読者のライフスタイルに沿ったテーマを提案、そこから出稿先を集めているそうです。出稿するお客様に合わせた内容ではなく、編集目線での誌面づくりも支持される理由の一つ。

ー特集のテーマやネタ集めはどのように動いていらっしゃるのでしょうか?

吉川さん
今は4つのエリアで発行しているのですが、各エリアに一人ずつ営業担当がいて、車や徒歩で現地をまわって情報収集をしています。あとは SNSも活用していますね。各エリアで持ち味は全然違うのですが、最近はどこも緊急事態宣言下でシャッター閉めてらっしゃるお店も多くて、やっぱり寂しいなと。

前回の宣言時は地域のお店を盛り上げるためにテイクアウト特集を企画しましたが、今も何かお手伝いができないか考えています。

年末の大掃除特集では細かいポイントまで写真付きで紹介

ー今では誌面では伝えきれなかった情報を届けるInstagramやYouTubeチャンネルなどもスタート。さらにイベントも企画中だそうですね。

鷲崎さん
9月で創刊一周年なので記念企画を皆で考えています。人気コーナーの「スナックゆみこ」を一晩だけ実現とか。このコーナーは読者のお悩みに応える投稿コーナーなのですが、毎回お便りが多いんです。しかも、読者の方から「このスナックはどこで営業しているの?」なんて問い合わせが来るほど反響が大きいんですよ(笑)。

たまにはこんな企画会議も。編集者=ハードワークというイメージを払拭するべく、定時退社や有給消化率100%など働き方にも気を配っている

ーそれは楽しみですね!編集部と読者のリアルな交流で、関係性がもっと深まる気がします。今後、「Otonari」はどんな方向に向かっていくのでしょうか?

鷲崎さん
読者の皆さんには、「Otonari」を読んで動いて欲しいと思っているんです。消費行動としての動きはもちろんですが、ほんの少し「クスッ」と笑って頂いたり、「なるほどー」と思って頂いたり。「心」や「感情」が動くきっかけになれば嬉しいですね。そのためにも、各エリアをディープに掘り下げたい。幅広い情報よりも“深さ”を意識して事業展開を進めたいと考えています。

編集者というよりも、“お隣さん”さながらの親しみがこもった表情で語ってくれた鷲崎さんと吉川さん。ウェブ広告が岐路を迎え、世の中的にもコロナ禍で暗いムードに包まれる今、求められているのは、ココロを動かすメディアなのかもしれません。「地域に寄り添う情報誌」をテーマにした「Otonari」のように。

地域に寄り添う情報誌『Otonari(おとなり)
クラウドファンディングサイト「CAMP FIRE」で募集開始。100%を超える反響で2020年9月28日からポスティング型フリーペーパーとして創刊。現在は、東区・新宮の「ひがし版」、粕屋・志免・篠栗・宇美・須恵の「かすや版」、大野城・春日・那珂川の「おおのじょう版」、筑紫野・太宰府・小郡・筑前の「ちくしの版」の4地域で各35,000部、計140,000部、毎月最終金曜日に発行。誌面だけではなく、ウェブサイトやInstagramにも展開中。
https://www.adbk.jp

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