アメフトに転身した元DeNA石川雄洋氏 一見クールな男が“初代主将”を任された理由

引退セレモニーに登場した石川雄洋氏【写真提供:横浜DeNAベイスターズ】

社会人アメフトXリーグ「ノジマ相模原ライズ」に入団、秋のリーグ戦出場を目指す

ハマの元主将が、ファンに別れを告げた。5日に横浜スタジアムで行われたロッテ戦後、今季限りでプロ野球選手を引退した元DeNAの石川雄洋氏が、自身の引退セレモニーで晴れ晴れとした表情を見せた。横浜高から2004年ドラフト6位で横浜(現DeNA)入団。プロ16年間で通算1003安打、打率.256をマークした。DeNA初年度の2012年から3年間はチームの主将を務めた。昨季オフに戦力外通告を受け、当初は現役続行を希望していたが、今年3月に引退を表明。社会人アメリカンフットボールのXリーグ「ノジマ相模原ライズ」入団を発表し、異例の転身が決まっている。

「最初は疑問を感じました。非常に寡黙で、覇気が足りないように見えた。自分からアピールするわけではなかった。しかし、周りが徐々に彼の努力、野球に対する姿勢を認め、引き込まれていった」

引退セレモニーで流れたVTRの中で、恩師の横浜高・渡辺元智前監督はそう語っていた。石川氏の人柄をうまく表現されている気がした。

一見クールで、我が道を行くタイプ。選手間の話し合いで主将就任が決まった時、「本当にタケなの?」と目を丸くするOBもいた。しかし、熱い思いを胸に秘め、他人を深く思いやる男だ。

主将時代、当時の中畑清監督と衝突し2軍に落とされたこともある。その中畑氏はVTRの中で「お互いに嫌いだったんじゃない? 一癖も二癖もあって、ちょっと俺を成長させてくれた」と笑わせた後、「あの熱量は半端ない」と評した。2015年に石川氏から主将の座を受け継いだ筒香嘉智(現ドジャース)は「(石川氏は)本気で他人のことを思える人。僕にとってはただの先輩ではない」と感慨深げに語った。

「これからは少しでも自分をわかってもらえるように…」

引退セレモニー中、石川氏が現主将の佐野恵太外野手にかけた言葉も「試合が終わってみんな疲れているのに、ごめんな」だった。

昨季主将に就任した佐野からは、何度も相談を持ち掛けられてきた。「佐野は昨年、規定打席数をクリアしたことがない中でキャプテンになって、4番も任されて、いきなり首位打者を取った。柔らかく見えて、芯を持っている。僕から言うことは何もない。このまま、ちょっと緩い雰囲気で頑張ってくれればいいんじゃないかと思います」とエールを送った。

佐野が「柔」のキャプテンなら、石川氏は自身をどんなタイプの主将と認識していたのだろうか。本人に聞いてみると、「後輩から見ると、取っ付きにくかったかもしれない。そういう雰囲気を出しているつもりはなくて、僕はウエルカムだったのだけれど、噛み合っていなかった」と苦笑した。時間さえかければ、誰もがそんな人柄を愛した。

「万人に好かれようとは思っていなかった。それが良くない所。これからは少しでも自分をわかってもらえるように頑張っていきたい。また一から友達を作らないといけないので」と付け加えた石川氏。

34歳での劇的な転身。アメフトでは俊足を生かし、パスを捕球する役割のワイドレシーバー(WR)を務める。当面は9月に始まる秋のリーグ戦出場が目標。「もちろんメンバーに入れるように頑張るけれど、ド素人がいきなり入れるものではない。一生懸命練習するしかない」と野球同様、地道に努力していく覚悟を決めている。新天地に幸多かれ、そして理解者に囲まれた第二の人生となることを祈りたい。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

© 株式会社Creative2