【レースフォーカス】クアルタラロに起こったレーシングスーツのアクシデント、そして“もうひとつのペナルティ”に呈した疑問/MotoGP第7戦

 MotoGP第7戦カタルーニャGPの決勝レースで、優勝争いを演じていたファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)にアクシデントが発生した。レーシングスーツのファスナーが、レース中にもかかわらず大きく開いてしまったのだ。クアルタラロはこのアクシデントが起因して、ペナルティを受けることになった。クアルタラロはこのレースでもう一つ、異なる要因でペナルティが科されており、これが疑問を残す形となったのだが……、まずは展開を整理していこう。

 クアルタラロはカタルーニャGPの決勝レースをポールポジションからスタートした。スタートはよかったものの、1コーナーでは2番グリッドスタートのジャック・ミラー(ドゥカティ・レノボ・チーム)が先行。クアルタラロは後退したが、その後、レース中盤にはトップを走っていたミゲール・オリベイラ(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)を交わした。ただ、その後クアルタラロはオリベイラにパスされ、2番手に後退していた。
 
 この週末のクアルタラロは速く、強かった。ただ、レース後のコメントによれば、レースではそれまでとは感じが変わっていたそうで、リヤタイヤのフィーリングがあまりよくなく、おそらく優勝は難しかっただろうとも語っている。
 
 そうだとしても、そのときまでクアルタラロは2番手をキープしていた。事が起こったのは残り5周を切ったころである。クアルタラロのレーシングスーツ前部のファスナーが大きく開いた状態となっていたのだ。そしてまた、レース中に胸部プロテクターが外されて飛んでいく様子が映像で確認されている。
 
 クアルタラロの後ろを走っていたヨハン・ザルコ(プラマック・レーシング)は、「3コーナーでファビオが胸部のプロテクターを外したんだ。『何をしているんだろう、腕に何か痛みがあったのかもしれない』とは思った。でも(状況が)わからなかった」と語っている。
 
 クアルタラロ自身は、レース後の取材のなかでこのときの状況を次のように説明した。
 
「何が起こったのか、わからない。ただ、1コーナーでレーシングスーツが完全に開いたのだけはわかっている。たぶん残り5周だったと思う。走るのが難しかったけど、残念ながらそういうこともあるんだ」

「ファスナーを閉めようとした。僕が言えるのはそれだけだ。レースでは普通に走ろうとしていたよ。ただ、レーシングースーツの前が開いている状態では、ストレートの最後の部分(ブレーキング)では難しい。でも、そのときはあまりほかのことを考えていなかった。表彰台のことを考えていた」

 クアルタラロはこの取材が終わったあと、6月7日午前1時、結果に対し3秒加算のペナルティが科されることになった。これについて、少し補足しよう。
 
 クアルタラロは、レースでは3番手でチェッカーを受けていた。しかし、残り3周の1、2コーナーでショートカットしたことにより3秒加算のペナルティが科され、最終結果は4位となっていた。このとき、クアルタラロは4位の結果で取材に臨んでいる。しかしその後、レーシングスーツのアクシデントが要因でさらに3秒加算のペナルティが科され、最終結果が6位なった、ということだ。
 
 このペナルティは、胸部プロテクターを装着せずに(レース中に外して)走行したものに起因する。MotoGPのレギュレーションによれば、胸部プロテクターは『サーキット走行中、常に正しく装着しなければならない』装具の一つとして記載されている。

 今回は6月7日にバルセロナ・カタロニア・サーキットでMotoGPクラスのテストが行われ、クアルタラロはテスト後の取材会を行ったので、この“2度目のペナルティ”についてのコメントを聞くことができた。しかし、クアルタラロにとってはこのペナルティよりも、ショートカットによるペナルティの方が納得できないものだったようなのだ。

■クアルタラロが呈したショートカットに対するペナルティへの疑問

「まず、あの出来事(レーシングスーツの前部が開いたこと)を振り返って思うのは、今は終わった話であり、納得できるってこと。認めるのは難しいけれど」と、まずは胸部プロテクターを装着せずに走行したことで受けたペナルティについて語った。

 そのあと「ただ、ショートカットのペナルティについては納得できない」とも言及している。つまり前述した、残り3周での1、2コーナーのショートカットについて科されたペナルティのことだ。
 
「フェアじゃないと思うんだ。僕は0.7秒(ショートカットで)失った。でも、もし僕が1秒ロスしていたら、ペナルティはなかった。どうやって1秒ではなく0.7秒だけロスしたってことをバイクに乗りながらわかるんだろう。ちょっとばかげているけど、受け入れるよ。もちろん怒っている。でもゼロポイントよりはいい」

「安全性については、どんどんよくなっていっている。でも、今、ムジェロ(第6戦イタリアGP)での(ジョアン・)ミルとミゲールの最終ラップみたいに好きになれないものも入ってきている(最終ラップ、ふたりがトラックリミットを超過した出来事。ふたりともに超過したため、結果に変動はなかった)」

「僕は(1コーナーで)真っ直ぐに行きたくなかった。でも、フロントを失いそうで、クラッシュするとわかっていたんだ。直進するしかなかった。もしそこがグラベルだったら、僕はグラベルに行っていただろう」

「僕はショートカットして3秒加算された。でも、ショートカットは通常よりも遅くなるんだ。それは“ショートカット”じゃない。僕にとってということだけど、ルールはどんどん、どんどん厳しくなっていっているんだ。僕たちはいつも、ライン上で本当に正確に走ることができる。でも、ミスもあるかもしれない、ロボットじゃないんだから。だから、ちょっとくらいのミスはライダーに許されると思うし、24周も限界ぎりぎりで走らなければならない場合はなおさらだ」

 今回、中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)も同じような状況にあった。中上はレース序盤、1、2コーナーをショートカットして“アドバンテージを得た”としてロングラップ・ペナルティを受け、レース中にこれを消化しなければならなかった。レース後、中上は状況をこのように説明していた。
 
「なぜロングラップ・ペナルティを受けたのか、わかりません。何周目かわからないのですが、レース序盤に1コーナーで止まり切れず、真っ直ぐに行きました。そして、安全にレースに復帰しました。つまり、僕はポジションを落としたんです。何もメリットはありません。でも、ペナルティを受けました。ロングラップ・ペナルティを消化したあと、僕のレースは終わってしまいました」

2021年MotoGP第7戦カタルーニャGP決勝 中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)

 カタルーニャGPでのレース自体、厳しいレースだったという。14番手からスタートし、13番手でレースを終えた。しかし、そうしたなかでリズムを崩すようなペナルティを受ければ、状況はさらに難しくなることは想像できる。そしてまた、中上がレース後に語っていたのは、クアルタラロと同じような疑問だった。
 
「確かに1コーナーでは止まり切れませんでした。もしポジションやタイムでメリットがあったのなら、ペナルティを受けるべきです。でも、そのときはラップタイムもポジションも落としました。走りながら、『どうしてロングラップ・ペナルティを科されているのだろう』と思っていました。理解したいし、(監督の)ルーチョ(・チェッキネロ)と話したいと思います」

 言うまでもなく、ふたりのペナルティはルールに則ったものである。ただ、クアルタラロの「僕たちはロボットじゃないんだから」という言葉は、ライダーがいかに厳密な状況下で戦っているのかを物語っているのではないだろうか。安全性は言わずもがな重要であるし、厳密さは公平性に大事だろう。ただ、テクノロジーの進化とともに、おそらくライダーには許される“余裕”が少なくなっていっているのかもしれない。

© 株式会社三栄