EV普及で恩恵をうける企業と淘汰される企業…群雄割拠の自動車業界で日本企業の現況を探る

コロナ禍では、感染拡大を防ぐため、多くの国や地域で人の移動が制限されました。中国やインドでは自動車の利用が一時的に少なくなったことで、都市部では綺麗な空が広がったとも言われたそうです。

環境問題については、従来から各国で様々な取り組みは掲げられていましたが、近年は企業単位でも明確に環境に対する対外的な目標が掲げられています。

各国がガソリン車から環境対策に適したEVや燃料電池車(FCV)へシフトしていく目標が掲げられたことで、従来のガソリン車販売は各国で規制が始まるでしょう。各国の完成車メーカーの開発競争がより一層激しくなっていくことが予想されます。

今回は、転換期を迎える自動車業界の今を様々な観点から解説するとともに、日本企業の動きを紹介します。


EVによって恩恵を受ける人と淘汰される人

自動車は様々な工業製品の集まりです。高速で走るためには安全性を確保することも含め、様々な技術が必要となります。EVでは、その技術力という点でいくらか負担が軽くなる可能性があります。

EVはガソリン車と比べ、必要な部品点数が約2/3になると言われています。部品点数が減ることによって、技術力が高くない新興メーカーや異業種からの参入増加が考えられます。また、単距離移動用の小型車や用途別の車種の広がりが予想され、低所得者や若者もEVが購入できるようになるでしょう。自動車市場の規模拡大が考えられます。限られた性能でも、今まで車が高く買えなかった層がEVを購入するという現象は実際に起こっています。

一方で、ガソリンエンジンに関わる部品メーカーは淘汰されるでしょう。懸念されるのはガソリン車の生産や部品の供給に携わる人の雇用問題です。部品点数に減少は自動車生産に携わる人の雇用の問題に繋がります。

2021年1月に本田技研工業(7267、東証1部)系自動車部品メーカーであるケーヒン、ショーワ、日信工業の3社と日立オートモティブシステムズが統合し、日立Astemoが設立されました。表向きは各企業の強みを活かしConnected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(カーシェアリングとサービス/シェアリングのみを指す場合もある)、Electric(電気自動車)の頭文字をとった造語、CASEに関する取り組みを統合し、競争力を強化するというものです。

同じような自動車部品メーカーであるデンソー(6902、東証1部)とアイシン(7259、東証1部)は、いずれもトヨタ自動車(7203、東証1部)と縁の深い企業です。日立Astemoの設立には、日産自動車(7201、東証1部)を中心として国内外メーカーと幅広く取引している日立オートモティブシステムズを軸に、合併により企業体質を強化し、競争力を付けグローバルで戦える企業にしようという意図があると筆者は考えています。同時にそれだけ危機感があったとも言えるでしょう。

また、本田技研工業は中高年やシニアの正社員向けに早期退職の募集を発表しています。同社は2017年に定年を60歳から65歳に延長したばかりでしたが、車の電動化などが急速に進み若手やソフトウエア技術に強い中途社員へのニーズが高まっていることが理由なようです。その裏にある意図を推察するにガソリン車の関わる技術者の削減も意味するのではないかと考えます。

自動車のトータル設計がEVでも強みになる

工業製品の結晶といえる自動車はトータル設計が重要であると考えている会社がデンソーです。2020年の販売台数は世界一となったトヨタグループの中核をなす自動車部品メーカーで、売上収益規模、技術力ともに世界有数です。多種多様な自動車部品を取り扱っていますが、近年ではHV用製品などの電動化対応製品、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転技術などを強化しています。

EVはバッテリーの容量で走行距離が変わります。モータを主たる動力源とするPHEVやEVにおいては、エンジンの動力で廃熱が得られなくなるため、空調稼働時には電動コンプレッサによる冷房や電気ヒータによる暖房など電気による冷暖房手段が必要となります。このため、電気エネルギー消費量が増大し、夏場にエアコン、冬場に暖房を使えばその分エネルギーをバッテリーから供給するため、走行距離は短くなります。バッテリーが熱を持つため冷却する必要が生じますが、車の総合的な設計ができれば、それらの熱を有効に利用できます。

また、デンソーが45%、アイシン(7259、東証1部)が45%、トヨタ自動車(7203、東証1部)が10%を出資するBluE Nexus(ブルーイーネクサス)という会社では電動化のためのモジュールの開発、適合、販売を行っています。アイシンのトランスアクスル、デンソーのインバーターは世界トップシェアを誇り、モータの開発においても両社がトップレベルの高い技術力を持っています。

さらに、車両目線でシステムアップできるトヨタが融合したことで、電動駆動モジュールから電動化システムまで幅広い品揃えを実現すると共に、技術コンサルティングや開発サポート、アフターサービスまで一貫したサービスを提供さすることで、世界中の顧客の要望にしっかりと応え、電動車の更なる発展を加速させ、普及に貢献していくとしています。

EVによって潜在的なニーズが顕著に

EV市場においては中国メーカーの存在も気になります。その特徴の1つはスピード感です。商談から製品の納入までが早く、この要求に応えるためにも生産能力を予め確保しておく必要がありそうです。また、製品として日本では不完全な形に見えても、市場にリリースされています。

米ゼネラル・モーターズ(GM)系の乗用車大手、上汽通用五菱汽車が作った小型EV「宏光ミニ」です。2020年7月に発売、価格は現地価格で2.88万元です。1元=17円計算で約49万円という格安の値段設定が話題になりました。値段が安い理由は性能に制限があるからです。全長290センチ、幅150センチのモデルで、約6時間充電すれば、約120キロメートルを走行できるそうです。

一番安いモデルは冷暖房機能がありません。必要に応じてオプションを付け、電池の容量を大きくしたり、冷暖房機能が付いたりします。安っぽく見えるかもしれませんが、本来車を買えなかった層や自宅周辺等での利用のニーズ、駐車場スペースも小さい等のメリットも多いのです。

EVの普及だけでは環境への配慮にはならない

EVの普及の話題は完成車メーカーが中心になりますが、EVが普及しても製造過程でも多くのCO2を排出すると、環境対応とは言えなくなります。また、EVが普及しても火力発電由来の電気で充電し走行しては環境に優しいとは言えません。充電ステーションの普及もEVの普及と同時、または、前もって整備する必要があります。

環境に優しい乗り物を作ることも大事ですが、長くその製品を使うことも地球環境に貢献すると考えます。バッテリーのコストや材料の問題、充電施設や電気等のインフラ面での問題があり、ガソリン車がすぐに無くなるというのは現実的ではないかもしれません。しかし、自動車業界のマーケットにおいて、EVは新しいカテゴリーとして地位を確立しつつあり、電動車のシェアは今後、上がることが予想されます。

EVやFCV、HV等、幅広い技術、ラインアップを持つトヨタに優位性はあると考えますが、遠出の際はガソリン車、トラックやバスは拠点に戻るので水素で動くFCV、短距離での移動はEVと、用途に合わせた車種や駆動方式が適していると考えます。自動車業界は群雄割拠の時代ですが、日本企業の活躍に期待しています。

<文:投資情報部 杉浦健太>

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