足浮梨ナコ - 「人見知りの足浮さん」から「アイドル:足浮梨ナコ」へ! 楽しい世の中にするために怒りを明るく歌ってやる!

好きなアイドルが引退しちゃって悲しくて、「じゃあ自分がアイドルになろ」って思った

──YouTubeにアップされている「俺、一生少年説」は本当に名曲でした。いま、足浮さんのことが気になっている人はとても多いのではと思います。

足浮:うれしい!ありがとうございます!

──足浮さんの活動のきっかけを教えてください。

足浮:もともとはグループのアイドルをやりたかったんです。でもよく考えたら、グループに入るよりも、自分の着たい衣装を着てやりたい曲をやったほうが楽しそう!って思ったんです。「ガレージバンド」というソフトがあれば曲が作れるっていうのを知ったので、じゃあやってみよ〜!って思ったら曲が作れました(笑)。

──やってみよ〜! で曲が作れちゃうのは才能とタイミングがぴったりだったんですね。理想のアイドルさんはいたんですか?

足浮:モーニング娘。さんがずっと好きなんです。主にハロー!プロジェクトさんが好きです!

──ちなみに”推し”はどなただったんですか?

足浮:今だと、小田さくらちゃんと佐藤優樹ちゃんが好きです。

──まーさく!歌が上手なペア!

足浮:そう!歌が上手なペア!!! 好きです!

──足浮さんはそこに負けない個性がありますが、実際、ハローに応募はしなかったんですか?

足浮:15期に応募したんです。オーディションを受けたのはそれが最後かな。育成所にも入ったんですけど、そこでいろんな子を見ていたら、自己プロデュースをしている子がたくさんいて、グループでやるのも楽しそうだけどひとりでやったほうが自由にできそうって思って、曲を作ったら以外とできちゃって、「やったできちゃった〜!」ってそこから3ヶ月くらいはずっと作り続けました。ライブをしたことはなかったんですけど、南波一海さんの「アイドル三十六房」に突然メールを送ったんです。

──ライブもまだしていない時期にすごい行動力!

足浮:だから10円玉で決めたんですよ(笑)。表だったら送る、裏だったら送らないって。そしたら表だったので送りました。

──10円玉に託したのは緊張や不安もあったからですか?

足浮:それもあったのかもしれないです、だから、もう10円玉で決めちゃお〜って思って。

──アイドルになりたかったのに、突然、楽曲制作に目覚めて。その3ヶ月の間にどのくらいのストックがあったんですか?

足浮:10曲くらいは作っていて、「俺、一生少年説」もそのときに作りました。見た目がかっこいいからギターをはじめたんですけど、今もコード6個くらいしかわからないです。でも、弾いているうちに、弾き語りできそうじゃない?って思ったんです。わたし、アイドルオタクのおじさんがすごく好きだから、じゃあおじさんの歌を作ろう! って。

──そこが面白いですよね(笑)。なぜおじさん側に共感しちゃったんでしょうか。

足浮:もう活動していないんですけど、めっちゃ好きなアイドルさんがいたんですよ。もうその方が大好きすぎて、ああ、おじさんもたぶんこういう気持ちでアイドルを応援しているんだろうなって急に思ったんです。アイドルって不思議で、いろんな形があるけど同じ目標があるっていうか。

──アイドルって、音楽のジャンルも違えば、ライブのやり方や、キャラクターの作りこみ具合とか、みんながバラバラなことをしているけれど同じ「アイドル」というテーマは共通していますよね。

足浮:そう、同じテーマがあるんです! ジャンルが違うのにちゃんと同じ! そんなアイドルによっておじさんが笑顔にされているのが好きなんです。

──その関係性、たしかに美しいですよね。そういったお話しを聞いていると、足浮さんってアイドルになりたい人ではあるけど、アイドルグループのプロデューサーさんぽくもあるなって思いました。

足浮:そうそう、そうなんです! 自分もなりたいけど、見ていたいし、そのライブの雰囲気を作りたい!

──アイドルに救われた人が、自分もアイドルになって救う側になりたいって思うのはかっこいいですね。

足浮:ありがとうございます。自分の好きなアイドルが卒業したときに、めっちゃ悲しくて、「もうやだ〜!」ってなったんですけど、その1時間後くらいに、「じゃあ自分がアイドルになろ」って思ったんです。それがはじまり。だから自分は音楽をずっとやっていたいし、残していきたい。

──アイドルって存在自体だから、オケで歌ってもいいし弾き語りをしてもいいしなんでもできますもんね。

足浮:それがアイドルの好きなところです! なにをしてもみんな全部アイドル! それが好き。

──さっきハロー!プロジェクトさんが好きっておっしゃってましたが、つんく♂さんの洗礼を受けたから世代を限定しない歌詞の引き出しが多いのかなとも思いました。

足浮:つんく♂さんの逆バージョンみたいな(笑)!つんく♂さんは心の中の少女を歌うから、わたしはおじさんを歌ってる感じです。

──自分の中のおじさんは足浮梨ナコには救われていますか?

足浮:救われてると思います! ……わたしは前世でおじさんだったのかもしれない。

「人見知りの足浮さん」から「アイドル:足浮梨ナコ」へ

──「俺、一生少年説」はテーマとしておじさんのことを歌っていますけど、全社会人が号泣する名作だと思います。この詩を15歳が書いたの?! ってすごく驚きました。

足浮:これは電車で書いたんです。目の前におじさんが座っていて、その姿を見て勝手に、「こういう人がアイドルを好きになったら世界が変わったりするのかな」って妄想をし始めて。もしアイドルを好きになる可能性があるんだったら、こっちの世界に引きずり込みたいなって思ったんです(笑)。それを歌にしてみました。

──そのおじさん、本人が気づいていないうちに名曲のモチーフに(笑)。

足浮:そう、あの人はすごい人です(笑)!

──いろんな表現方法があるなかで、どうして曲を作ってライブをしようって思ったんですか?

足浮:わたしはめっちゃ飽きやすいタイプなんですけど、歌はずっと好きなんです。自分で歌う側も好きだし、アイドルのライブを見るのも好きで。今は、自分の感情をすべて歌にしようって思ってます。言いたいことを言葉で伝えるのは苦手だけど、歌だったら言えるから。

──普段はすごく明るいポジティブな印象を受けますし、ロフトプラスワンでのプレゼン大会に出演されたときも、こんなに上手にしゃべる中学生がいるんだと思って印象的でした。でも、YouTubeにアップしているドキュメンタリーでは、「すごく人見知り」とおっしゃっていますよね。そこをカバーするものとして音楽を始めるのは自然な感じがします。

足浮:そうなんですよ! ライブで足浮梨ナコになると大丈夫なんです。今、高校生になったんですけど、周りの人も全然知らないし、最初は人見知りで大変でした。でも、ライブをしたり、こうやってちゃんと話せば大丈夫になるんです。足浮梨ナコなら大丈夫。わたしのなかでなにか切り替わりがあるのかもしれないです。

──じゃあ普段の「足浮さん」にとって、「アイドル:足浮梨ナコ」になる手段を手に入れたのは大きなできごとですね。

足浮:はい、不思議な感じです。小さいころから妄想をするのが好きで、自分にもしたくさん兄弟がいたら、とか、自分がもし海外に住んでいたら、とか妄想ばかりしていたんです。だから足浮梨ナコも妄想の人物みたいな感じ。

──いろんな想像のうちのひとつとして。

足浮:そうです、妄想・足浮梨ナコ!

──「アイドル:足浮梨ナコ」になっていないときって、どんな感じなんですか?

足浮:めっちゃ落ちこむとかめっちゃ怒るとかはないんですけど、20分泣いて、20分怒って、もうその次は笑ってたりする感じなので、こういう感情の波は全て歌にしようって思ってます。

──その上がり下がりがあると自分自身も疲れちゃうから、心をフラットにするためにも必要な作業なのかもしれないですね。

足浮:はい、言葉で伝えようとするとトゲがあることでも、音楽にしたらスっと入ることがあって。伝えやすいんです。

──「主張」ではなくて「音楽」として受けいれられますよね。

足浮:そう! 主張じゃなくて、曲・音楽だと自分の気持ちがわかってもらいやすいんです。悲しいとか、楽しいとか、無理! とかそういった感情を書くことが多いんですけど、「熟年夫婦」や「俺、一生少年説」は歌っている間に自分が熟年夫婦になれたりおじさんになれたりするし、歌っている間は自分がなんにでもなれるんだって思うんですよ。いろんな人になりながら、自分の思っていることを歌っています。

この生きづらい世界を怒らずに明るく歌ってやる!

──新曲の「RTON FLOWER」は、「俺、一生少年説」の日常風景とはまた違って、とても開けた印象を受けました。「LOVEの形はまさにレインボー」「レインボーなコミュニティをもっともっと」とか「これは現実みんなで向き合え考えろ」とか、世界の閉塞感とか空気感をぶちやぶるようなパワーがある曲ですよね。

足浮:ふふふ(笑)。最近はコロナで社会が大変っていうのもあるけど、もともと社会問題のことを考えるのが好きで、最近はジェンダー関連の本をたくさん読んだんです。そういう本を読んで、いろんな世界を見たら、この生きづらい世界を怒らずに明るく歌ってやる!って思って作ったのが「RTON FLOWER」です!

──怒りを明るくってまさにアイドルだからできる強みだと思います。社会問題に関心をもったのはなにかきっかけがあったんですか?

足浮:『glee/グリー』っていうドラマが幼稚園から好きだったんですけど、15歳の今コロナの自粛期間で見返したら、「この人はこういうことで悩んでたんだ」とか、「これはこういう意味だったんだ」って気づくことがたくさんあったんです。もともと好きだったけど、こんなに素晴らしいドラマだったのか!と感動して、そこから海外ドラマの『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』を見て、世の中にはいろんな人がいておもしろいなって思いました。

──実際、中学校・高校で社会の閉塞感を感じることもありますか?

足浮:女の子はスカートっていうところから気になってきて、え、なんかちがくね?って思い始めちゃったんです。今は服装も髪型も自由な高校に入ったんですけど、これからの世界を変えられるのはうちらだぞ、諦めちゃダメだっていうノリです!

──自分は自由な学校に入れたからオッケー! で終わらないところが素敵ですね。

足浮:自分が楽しいとかヤダって思うのって、きっと他の人もそうだと思うから。みんなが弱いところをカバーしあって、おかしいところを指摘していって、楽しい世の中になってほしいんです。ちょっとずつ変えていけばカラフルな世界になるはずだから。

──怒りは怒りとしても伝えられるけれど、それでも自分はハッピーに笑顔に伝えるぞっていうのはなにかビジョンがあったんですか?

足浮:『RENT/レント』っていう映画のエンジェルが好きで、その話をミスiDでしたら「エンジェル賞」っていうのをもらっちゃったんです。だから、エンジェルになるしかねえ!って。

──名前がついたことでさらに自分自身にいい影響が戻ってきて。

足浮:名前ついちゃったし、賞ももらっちゃったし(笑)。わたしはりゅうちぇるさんみたいに優しく世界を変える人が好きだから、自分もそうなりたいです。

──常時エンジェルであり続けるのは疲れないですか?

足浮:そしたらそれも歌にしちゃいます、疲れた〜! って。

──すべてが楽曲の糧に! 弾き語りだけじゃなくて、「#全部ハブのせいだ」「Let’sダンゴムシ」のような打ち込み楽曲もありますよね。

足浮:ガレージバンドを使えば打ち込みもできるっていうのは知っていたので、遊びでポコポコ押してみたら「Let’sダンゴムシ」ができて、みんながめっちゃいいっていうから、これでいいの?! ってびっくりしました。これがアリなの?って思ったらどんどん曲ができちゃった!

──その引き出しの多さって、アイドル楽曲以外にもいろいろ影響を受けた人だからなのかなと思ったのですが、ふだんはどんな音楽を聴いているんですか?

足浮:最近はZoomgalsがすごく好きです! あと、女王蜂! わたしが楽譜がわからないから、ピコピコピコデンデンデンって思いついたらそのままその音を作ってるので、自分でもどんな曲になるのかわからないんです。自分の脳で思っていた曲と全然違う完成形になったりして、でもそれはそれでおもしろいからいいや〜って(笑)。

──未知数だとなんでもできちゃいますね。歌詞のストックはたくさんあるんですか?

足浮:たくさんあります! それを見て、これは弾き語りにしよう、とか、これは打ち込み用だなって決めてます。ギターだと結構いい曲になるんですけど、打ち込みはもうどうなるか全然わからない! アゲな感じを作ろうと思ったのにバラードになっちゃったりします。

──そういったポップアイコン的存在なのに、「万人受けじゃない世界」と歌い切るところがかっこいいですよね。たとえ皮肉の言葉だとしても、こんなにPOPな表現にできるんだな、と。

足浮:自分のことを受け入れられない場面があっても、「でも自分はめっちゃ最先端だから!」って思ってます。Zoomgalsってすごく最先端だけど、彼女たちの曲にわたしは救われたから、そういう最先端な人に刺さってほしい。

自分や他人の怒りや感情を伝える

──足浮さんから最初に受けた印象と、楽曲をじっくり聴いてからの印象、そしてインタビューでお話しを聞いての印象がそれぞれカラフルで、いろんな間口のある方だなと思いました。

足浮:ギャップを大切にしたいから嬉しいです! 最初はめっちゃふざけているのに、途中でいい曲を歌って、最後は「Let’sダンゴムシ」みたいな。でも結局は、自分の怒りの感情や、人の怒りを伝えることを大切にしたいって思っているんです。今はあまりニュースを見ないようにしているんですけど、このまえもテレビを見ていたらLGBTのことでもうー! って思っちゃって。

──簗和生衆議院議員の「種の保存」発言ですね。

足浮:そうです!!! ああいうのはもう「はぁ〜?!?!」って感じ! だから「RTON FLOWER」をもっと世界に知らしめたい! ニュースを見すぎちゃうと、おこ!!! ってなるから、ちょっとずつ入れて、「オッケー、はい次!」って思いながら順番に取り入れています。

──ライブ活動が学校の友だちにバレたりはしているんですか?

足浮:中学の仲のいい人には言いました。そうなんだ〜、いいじゃん! って言ってくれてます。

──実際の生活のなかで自分の活動が知られるとちょっとやりにくかったり、バランスは難しくないですか?

足浮:自分からは言わないので、もし知られていたらそれは口コミで広がったって思うことにします。小学校のときも、アイドルになりたいってバレたら、あいつアイドルになりたいんだってーみたいに言われることもあって、でもそういうのを一周まわらせるというか……。

──一周まわらせて、巻き込んで相手を味方につけて。

足浮:そう! 巻き込んでく! 応援してもらえるようになろうって思ってポジティブにやってきました。そしたら、なにか言ってくる人とは逆に結構仲良くなれたりして。それでもまだ言ってくる知らん人たちはもう関わらなければいいやって。あの、中学生って反抗期だからサンリオとか一時期避けるみたいなのってあるじゃないですか?

──そのニュアンスすごくわかります、もうちょっと大人になって、高校生くらいになると急にすべて許されたりする感じですよね。

足浮:そうなんですよ! わたしはサンリオのシナモンが好きだったから、いろいろグッズを身に付けていたら、全然知らない人に「シナモン!」って呼ばれて走って逃げたりして。でもあまりにも言われるから、「シナモンでーす」とかやってたら、「なにあいつ、おもしろくね?」みたいになったんです。だから、うぇい!みたいなスタンスでいたほうが楽だなって。今までまわりにハロー好きな子はいなかったんですけど、高校に入ったらモーニング娘。が好きな友だちができたんです!今度その子に自分の活動を報告しようと思っていて、今ドキドキなんです!

──親友が推しになるかもしれないって最高ですね! コロナ禍で作品や心情に変化はありましたか?

足浮:実は、コロナの期間に活動をはじめたので、声出しとかされたことないんです。だから、通常のライブがどんな感じなのかわからなくて。

──まだまだ爆発しきっていない感じがして楽しみです。

足浮:ますます自由にできるかなって思うとコロナ開けが楽しみです! お客さんを煽ることもやってみたいです。あとはファンとバーベキューがしたいんですよ。どこでライブがしたいとかよりも、まずはオフ会がしたい!

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