銀河中心の超大質量ブラックホールが成長を止めた現場を捉えることに成功

【▲ VLAとアルマ望遠鏡による電波を用いたArp 187の観測結果(疑似カラー。青色:VLAの4.86GHz、緑色:VLAの8.44GHz、赤色:アルマの133GHzにそれぞれ対応)。2つの電波構造が見えるのに対し、中心核がある中央部分は暗くなっている(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Ichikawa et al.)】

東北大学の市川幸平氏らの研究グループは、これまで困難だと思われてきた活動を止めつつある活動銀河核(研究グループでは「死につつある活動銀河核」と表現)を発見することに成功したとする研究成果を発表しました。活動銀河核では超大質量ブラックホールが周囲から物質を集めて成長しているとみられており、研究グループは今回の成果が超大質量ブラックホールの成長が止まる条件を知ることにつながるかもしれないと期待を寄せています。

■超大質量ブラックホールが成長を止めた「瞬間」を捉えた

ブラックホールに落下するガスは降着円盤と呼ばれる構造を形成してブラックホールを周回しながら落ちていきますが、このとき重力エネルギーが解放されることでガスは明るく輝きます。ブラックホールそのものは光(電磁波)で直接観測できませんが、周辺のガスから放射された可視光線、電波、X線などを観測することで、間接的にその性質や活動を調べることが可能です。

この宇宙に数多く存在する銀河の中心には太陽の数十万~数十億倍もの質量がある超大質量ブラックホールが存在すると考えられていますが、そのなかでも超大質量ブラックホール周辺が明るく輝いている銀河の中心核は活動銀河核(AGN:Active Galactic Nucleus)と呼ばれています。研究グループによると、活動銀河核を観測することで、超大質量ブラックホールがどのようにして成長してきたのかを探ることができるといいます。

【▲ 活動する超大質量ブラックホールを描いた想像図。降着円盤を形成する周辺のガスが明るく輝いた状態のものは活動銀河核と呼ばれる(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

今回、研究グループはエリダヌス座の方向にある銀河「Arp 187」をアメリカの「カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)」やチリの「アルマ望遠鏡(ALMA)」を使って観測しました。その結果、ブラックホール周辺から双方向に噴出するジェットに特有の広がった構造が見られたいっぽうで、中心核からの電波は非常に暗く、見えないことに気が付いたといいます。

研究グループが様々なスケールでArp 187の活動銀河核を調べたところ、100光年より小さな物理スケールでは活動銀河核の特徴がまったく見られないことが明らかになりました。これは、観測されている中心核の姿が活動を止めてから約3000年以内だとすれば自然に説明できるといいます。いっぽう、活動銀河核の周囲に約3000光年に渡り広がる電離領域(活動銀河核から放出された高エネルギーの光子によってガスが電離した領域)の一部では活動の影響がまだ残っており、活動中の様子を調べることができるといいます。

分析の結果、まだ輝いている電離領域の光度は太陽の約3兆倍であり、3000年前の活動が非常に活発だったことがわかるといいます。これに対し、アメリカ航空宇宙局(NASA)のX線観測衛星「NuSTAR」による観測ではArp 187からのX線が検出されず現在の活動銀河核の光度は太陽の10億倍よりも暗いことがわかったといいます。このことから、Arp 187の活動銀河核の光度は3000年で1000分の1以下になったとみられており、活動銀河核が「死につつある」瞬間を捉えることに成功したとされています。

【▲ 一般的な活動銀河核(左)と死につつある活動銀河核(右)の比較。一般的な活動銀河核では中心核と電離領域の両方が明るく輝くが、死につつある活動銀河核では電離領域だけが明るく輝く(Credit: Ichikawa et al.)】

研究グループによると、活動銀河核が終焉を迎えた、つまり超大質量ブラックホールが成長を止めた現場を捉えるのは非常に困難であり、これまで発見されていなかったといいます。というのも、超大質量ブラックホールが活動を止めるとその周辺は速やかに輝きを失ってしまい、電磁波では観測できなくなってしまうからです。

市川氏は今後の展望について、同様の手法を用いて「死につつある活動銀河核」をより多く探すことを検討しており、超大質量ブラックホール周辺の分子ガス分布の調査を通して、どのような環境でブラックホールの成長が止まるのかを明らかにする予定だと語っています。

関連:銀河どうしの衝突で超大質量ブラックホールの活動が停止する?

Image Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Ichikawa et al.
Source: 東北大学
文/松村武宏

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