日産「売らない店員」の接客術 試乗までさせて、営業の血は騒がないのか

「日産ブランドクルー」はセールストークを一切展開せず、日産の先進技術や魅力について語る

 日産自動車(横浜市西区)が、販売現場と連携して「売らない店員」の配置を進めている。セールストークを封印することで来店の心理的抵抗を軽減し、体験プログラムで先進技術を堪能してもらう試みという。接客の現場をのぞくため、神奈川日産自動車百合ケ丘店(川崎市麻生区)を訪ねた。

◆難しい仕組みをやさしく解説

 「こちらへどうぞ」

 店舗に入ると、間仕切りのある商談ブースではなく、開放的な空間のテーブルへと案内された。「お客さまにプレッシャーを感じさせないための配慮です。では、始めましょう」

 担当者は神奈川日産自動車(横浜市西区)の菅野卓哉さん(31)。セールス活動を展開しない「日産ブランドクルー」の一人だ。

 まずは自動運転や電動化の先進技術について説明を受け、試乗で使う「スカイライン」に乗り込む。高速道路の同一車線内であればハンドル操作や加減速が自動化され、手放し走行ができる運転支援技術「プロパイロット2.0」の搭載車だ。

 コースは往復44キロ、時間にして約90分を要する。最初は一般道で東名川崎インターチェンジ(IC)へ向かう。

 不意に聞かれた。「ハンドルが軽くないですか」。まさにそう感じていたので、大きくうなずく。いわく、タイヤの向きを電動で制御しているが故の「軽さ」なのだという。専門用語を避けながら、難解な仕組みを平易な言葉で解説してくれた。

◆価格の話は一切せず

 程なく高速道路の入り口に到着し、左車線に合流する。いよいよ「プロパイロット2.0」の出番だ。所定の操作を加え、恐る恐るハンドルから両手を離す。車は車線に沿ってわずかに曲がりつつ、極めて自然に、滑らかに加速していく。

 アクセルを踏み込む感覚がないせいか、運転時よりもスピードが出ているような錯覚に陥る。両膝に置いた手のひらに汗がにじむ。次第に前方車との距離が縮まり、車は自動的に減速して追従モードに入った。

 緊張がほぐれていくと、運転をせずに済む快適さが心地よくなった。事前に設定した出口まで自動で走るので、場所を間違える心配もない。菅野さんが言う。「疲れ果てた旅行の帰り道にこの機能があると、安心ですよ」

 高速道路を降りて店舗に戻る間も、価格の話は一切出なかった。顧客の反応次第ではセールスマンの血が騒ぎませんか、そう水を向けてみると、菅野さんはよどみなく答えた。

 「私の役割は日産のファンを増やすこと。お客さまが最新の技術に驚いたり、喜んだりしてくれることが何よりうれしいんです」

© 株式会社神奈川新聞社