破れた代表の夢 聖火に託し/カヌー・矢澤一輝さん(西目屋) 「つなぐ役目果たす」

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西目屋村に移住して5年目を迎えた矢澤さん。選手としての東京五輪出場はかなわなかったが「聖火ランナーとしての役目をしっかり果たしたい」と話す
東京五輪代表選考のポイント争いでリードしていた矢澤さんだったが、最終選考会ではまさかの準決勝敗退、代表切符を逃した=2019年10月、東京都江戸川区のカヌー・スラロームセンター

 青森市の青い海公園で10日に行われる東京五輪聖火リレーの代替セレモニーに、2008年北京から3大会連続で五輪のカヌースラローム男子に出場した矢澤一輝さん(32)=西目屋村教育委員会=が参加する。東京五輪出場を夢見て、長野県から競技生活のサポートが受けられる同村に拠点を移したが、選手としての出場はかなわず。今も胸に悔しさが残るものの、「違った形で携われるのはありがたい」と聖火ランナーに立場を変え、憧れの大舞台を支える。

 矢澤さんは長野県飯田市出身。12年ロンドン大会で9位となった後、出家して競技から一時離れたが、五輪再挑戦を決意。僧侶との「二足のわらじ」で注目を集めた16年リオデジャネイロ大会では11位と不本意な成績に終わった。再度五輪を目指すことを決め、新たな環境を探す中で西目屋村との話が進み、善光寺大勧進(長野市)の僧侶を辞して17年4月、村へ移住。村教委に勤務しながら、職場近くの競技場で練習を重ねてきた。

 環境を一変させて臨んだ東京五輪代表選考では、ポイント争いで他の選手をリード。だが、最終選考会を兼ねた19年10月のNHK杯国際スラローム大会準決勝でまさかの転覆。逆転を許し、代表切符を逃した。「初めて目標がかなわなかった」。移住の目的を失い、応援してくれた村民らに、申し訳ない気持ちが募ったという。

 しかし「五輪に出る、出ない、どっちになっても西目屋で生活していく」と最初から決めていた通り、村で生きる道を選んだ。村民への恩返しの思いもあり、今は村職員としての生活に比重を置き、練習量は以前の半分以下。後進の指導にも汗を流すが、「本来、社会人としてやらなければいけない人生をやっとスタートできた感じです」と笑う。

 妹の亜季さん(29)はスラローム女子カヤックシングルで東京五輪出場を決めており、今もふとした時に悔しさがよみがえるという。一方で「悔しさが自分の中にあっても損ではない」と前向きな気持ちも芽生えた。

 そんな中、県実行委員会が推薦する聖火ランナーに決まった。村民の前でカヌーを操り聖火をつなぐ予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で村内のリレーは中止。代替イベントに変更となった。

 「カヌーと西目屋村を知ってもらう機会だったが、感染状況を考えると仕方ない」とした上で、「オリンピックの象徴である聖火をしっかりつなぎ、ランナーとしての役目を務めたい」。強い思いで、当日は自らの足で聖火をつなげる。