コロナ重症化。がん患者の免疫力、治療法によって差。国立がん研究センター等が解明

 新型コロナウイルス感染症は感染者の8割が軽症または無症状であるとされる。重症化するケースは高齢者と基礎疾患を有するもので、その基礎疾患とは、厚労省の資料によれば、慢性閉塞性肺疾患、慢性肝臓病、糖尿病、高血圧、心血管疾患、肥満などとされる。がんはこのリストには載っていないが、高齢で合併症を有する割合が高く、薬物療法や放射線治療、手術療法などの治療によって免疫力が一時的に低下することから感染リスク上昇や重症化が懸念されている。しかし、感染リスクや重症化リスクについては十分な研究が行われていなかった。

 そこで国立がん研究センターとシスメックスは、がん患者における新型コロナの罹患状況とリスクを評価するために共同で抗体保有率や抗体量の比較研究を実施し、6月2日にその結果レポートを公表した。本研究では国立がん研究センター中央病院に通院している患者と健常人(国立がん研究センター職員)の新型コロナウイルスの抗体保有率と抗体量を測定した。その結果、新型コロナウイルスの罹患歴が明らかに無いがん患者と健常人における抗体保有率はいずれも低く、統計的にも有意な差が無いことがわかった。しかし抗体保有率に差はないものの、抗体の量では、がん患者の方が健常人と比較して低いことが明らかとなった。この差は、年齢や性別、合併症の有無、喫煙歴といった因子で調整しても統計学的に有意な差が認められた。

 そこで、がん治療が抗体量に与える影響について検証した結果、細胞障害性抗がん剤による治療を受けているがん患者では抗体量が低く、免疫チェックポイント阻害薬の投薬受けている患者では抗体量が高いことが明らかになった。免疫チェックポイント阻害薬を投与された患者に関しては、年齢、性別、合併症の有無、喫煙歴で調整しても、投与された患者では投与されていない患者に比べ有意に抗体量が高いことが確認された。一方、放射線治療や外科治療の有無による違いでは抗体量に差は認められなかった。

 本研究結果により、がんの合併、並びにがん薬物療法が抗体の量に影響を与える可能性が示唆された。レポートでは「今後、がん患者さんに対するワクチン接種の有効性を評価するため、ワクチン接種後の抗体量の推移を検討するとともに、がん治療が新型コロナウイルス抗体の産生に与える影響を明らかにしたい」としている。(本研究は米国医師会論文誌:JAMA Oncology(2021/05/28)に掲載されている)(編集担当:久保田雄城)

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