【インドネシア全34州の旅】#21 バリ州(ヌサペニダ島)  断崖絶壁と白砂ビーチめぐり

文と写真・鍋山俊雄

バリ島は間違いなく、インドネシアで最も有名な国際的な観光地だろう。ジャカルタは知らなくても、バリ島は南国の観光地として、日本でも有名だ。

バリ州はそのバリ島が中心だが、今回はバリ島ではなく、その東に位置するヌサペニダ島をご紹介する。

ヌサペニダ島に興味を持ったのは、機上からの眺めである。ジャカルタから東へ行く時にはいつも、バリ島を通り過ぎた後、わりと大きくて、鬱蒼とした緑に覆われた島が眼下に広がる。気になったのは海岸線だ。切り立った絶壁が多い。絶壁の下には、きれいな白砂の、まるでプライベートビーチのような小さい砂浜が見える。

バリ島の東にはレンボンガン島という小島があり、そのさらに東にあるのが、このヌサペニダ島だ。ダイビング・スポットしてダイバーには有名だが、陸地の絶景にも注目され、徐々に観光客が訪れるようになっている。バリ島のサヌール海岸発でヌサペニダに渡る日帰りツアーや、1泊2日のツアーも、ここ数年、増えている。

今回の旅では、1泊2日のツアーを手配した。午前7時半にサヌール海岸に集合なので、ジャカルタからの早朝便では間に合わず、前日深夜着の便でバリに入り、集合場所に近い宿に1泊した。サヌール海岸からはスピードボートで1時間少々で、ヌサペニダ島の中央にある船着場に到着する。海の色はバリに比べてさらにコーラルブルーが美しい。

サヌールの海岸に並ぶスピードボート

サヌールからスピードボートで約1時間

ヌサペニダ島に到着

予約していた車に乗り込み、海岸線沿いに、1日目は島の東側を中心に見て回った。海岸線沿いにある漁村はまだ観光地化されておらず、素朴な漁村の人々の生活を垣間見ることができる。

まず到着したのは、アトゥ・ビーチ(Atuh Beach)。舗装されていない山道を進み、車を止めた所からしばらく歩くと、素晴らしい眺めの絶壁が見えてくる。日本であれば、滑落防止に、かなり厳重に柵を作りそうなものだが、まだほとんど柵はない。一方で、「滑落注意」、「セルフィー撮影注意」、「自己責任」といった看板が目につく。

アトゥ・ビーチに向かいます

アトゥ・ビーチへと向かう途中にも、周囲には絶景の岸壁と、その下の素晴らしい白砂の海岸が目に入る。まだ下に降りることはできないが、斜め下に向かって通路を掘る工事が進んでいた。見ていると、職人が数人、数十メートル下で岩を掘り進んでいる。完成時には手すりは作るのだろうが、「え?この高さをホントに歩いて降りるの?」というような高さから降りる、長い長い階段になりそうだ。

アトゥ・ビーチに向かう途中で見た、別のビーチに向かう、工事中の階段

工事中の階段

アトゥ・ビーチの方向へ進んで行くと、目の前には切り立った岸壁が迫り、はるか下を見下ろすと海岸があり、観光客がくつろいでいるのが見える。ドライバー兼ガイド氏に「どうやってあそこへ行くのか?」と聞いたら、「そこから降りる」と言う。確かに、岩肌には一応、セメントで固めた階段がある。結構、急な階段で、降りるのもゆっくりだし、登るのもこりゃ大変だ、と思いながら、手すりのない階段を降りること15分ぐらい。海岸に降りて振り返ると、あんな所から降りたの?という感じ。

アトゥ・ビーチに向かって急階段を降りる

アトゥ・ビーチから、降りて来た階段を振り返る

アトゥ・ビーチ

帰りに、同じ坂を登り切った後、ドライバー氏に、ほかの場所もこんなのかと聞いたら、このアトゥ・ビーチが最も距離が短くて楽なんだそうである。一抹の体力の不安を覚えながら、次のサウザンド・アイランド・ビュー(Thousand Island View)へと向かう。

おなじみになった注意看板を通り過ぎ、まずは、崖からの眺めを楽しむ。青い海原に、ゴツゴツと切り立ってそびえ立つ島々の眺めが美しい。

今度はロープの手すり付きの階段だ。これまた20分ぐらい降りただろうか。展望ポイントから、「Thousand」とは言わないが、多くの岩礁の眺めを楽しんだ。

サウザンド・アイランド・ビューのポイント

これら2カ所の階段の上り下りを済ませた後、初日最後の目的地はスウェハン・ビーチ(Suwehan Beach)である。初日の3カ所の中では、最も階段が整っていて、手すりもしっかりしているが、降りる距離は最も長い。ドライバー氏も付いて来ずに、車で待っていると言う。通常は、降りるのに30〜40分、登るには、ペースにもよるが、1時間以上かかる、ということだ。下のビーチは、季節や時間帯によっては、満潮や波浪で立ち入りできない所となり、絶壁の麓に降り立った眺めは素晴らしいらしい。

スウェハン・ビーチに向かう階段

10分ほど降りてみたが、階段の角度がかなり急で、段差が大きい。このヌサペニダ旅行の後、そのままバリ島で三都市対抗(ジャカルタ、スラバヤ、バリ)バドミントン大会に参加する予定だったので、筋肉痛への懸念から、最後まで降りるのを断念した。

10分ほど降りた所から下をのぞくと、海岸までは、まだかなりの距離がある。上に戻って、崖の端から直下の海岸を眺めたが、やはり相当、高い。ジャカルタの高層アパートの最上階から降りるような感じだ。

崖上からスウェハン・ビーチを望む

その後、西側のクリスタル・ベイ(Crystal Bay)という海岸で一休みした後、簡素だが、新しい宿に到着した。海岸で夕日を眺めながら、夕食を取る。

クリスタル・ベイの海岸

果たして翌日は、なかなかの筋肉痛だ。2日目は午前中のみで、島の西の2カ所を周る。最初はブロークン・ビーチ(Broken Beach)だ。ドライバー氏は、日帰りツアー客で混む前に、朝一番で行った方が良いと言う。勧めに従い、早朝から向かう。

エンジェルズ・ビラ・ボン(Angel’s Billa Bong)という名の、岩のゴツゴツした海岸近くに到着した。まずは階段がないことに若干ホッとしつつ、ブロークン・ビーチに向かう。ドーナツ型の切り立った岩の壁に囲まれたビーチだ。そこに降りることはできないが、岸壁の上から砂浜の眺めを楽しみつつ、ドーナツ上の入江を歩いて回ることができる。

エンジェルズ・ビラ・ボン

ブロークン・ビーチ

ブロークン・ビーチから海を望む

ブロークン・ビーチには、鶏によく似た鳥がいた。あんな所になぜ鶏がいるのかと思ったが、ドライバー氏の説明では、鶏ではなくて森に住む野鳥で、この岸壁上に飛んで上がれるとのことだ。

ブロークン・ビーチの眺めは素晴らしい。そこから反対側に視線を転じると、海岸線の岩場も素晴らしい。好天に恵まれて、岩に白波が当たる眺めをしばらく楽しんだ。

最後の訪問地はクリンキン・ビーチ(Klingking Beach)。ここからの風景がヌサペニダ島の観光のアイコンとなっている、素晴らしい絶景ポイントだ。岸壁から下をのぞき込むと、馬の背のようになった岩礁の脇にクリンキン・ビーチが見える。岸壁にはフォト・スポットがあり、観光客が長蛇の列となって、その馬の背を背景に、岸壁に座って撮影している。

クリンキン・ビーチの周辺は断崖絶壁

クリンキン・ビーチを望むフォト・スポット

フォト・スポットから10メートルほど進むと、木の根とツタに覆われた、下へと降りる急な崖道がある。ここには整備された階段はなく、岩や木の根で、ある程度整った、切り立った崖を降りていく。下の海岸までは少なくとも1時間、登りは2時間とのことだ。つまり、下での滞在も考えると、4時間近くは見ておいた方がいいことになる。観光客はおそるおそるのぞいたり、ちょっと試しに降りてみたりしているが、大半は降りずに、上で写真を取って終わりのようだ。

何人かの外国人が、下から汗だくになって登ってきた。一方で、地元の女性が崖下での商売用なのだろうか、頭の上にココナッツを入れた大きなかごを乗せて降り口に立ち止まったかと思うと、サンダルをさっと脱いで、かごを頭に載せたまま、スタスタと降り始め、あっと言う間に見えなくなってしまった。インドネシア国内の山岳地帯でもよく見かける光景だが、地元の人は、ひ弱な都会人を尻目に、大人も子供も、実に簡単そうに、難所をスイスイと行ってしまう。私もちょっとだけ降りてみたが、とてもじゃないが、あの女性のスピードでは降りられない。

クリンキン・ビーチに向かって階段を降りる女性

下まで降りればクリンキン・ビーチは近い

別の場所から見た、クリンキン・ビーチに降りる崖

クリンキン・ビーチの眺めを楽しんだ後、港に向かい、再びスピードボートでサヌールに戻った。

この島はダイビング・スポットとして知られているが、地上の絶景ポイントも本当にお薦めだ。高所恐怖症でなくて、相応の体力があれば、岸壁の下に広がる隠れビーチを楽しめるだろう。個人的にも、今度は2泊3日で、今回パスした海岸訪問のために、もう一度、訪れたい島である。

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