「何が正しい選択か」 公表、検査、休校… 対処に奔走 クラスター発生の長崎玉成高・中

感染の連鎖を断ち切るために休校し、5月の授業は5日間しか実施できなかった=長崎玉成高

 関係者7人による新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が5月に発生した長崎市愛宕1丁目の長崎玉成高・同校付属中学部。どこまで保護者や市民に情報を伝え、いかに感染拡大を抑えるか。どうすれば生徒の心と学びの機会を守れるのか-。教職員は不安を抱え悩みながら、その時々の決断を迫られ、対処に奔走した。上村正和校長(65)は「ベストな対応だったかは分からない。とにかく一致団結して乗り越えるしかなかった」と振り返る。
 最初の感染者が判明したのは5月初旬。保健所の指示を受けながら検査対象者を洗い出し、関係者を自宅待機にした。だが同19日までに計7人が感染。「どこまで増えるのか」。教職員は不安に駆られた。
 上村校長は迷わず校名を公表した。「伏せるのではなく、広く理解を求めたい」。感染状況をメールや印刷物で保護者らにも随時伝えた。ただ、個人の特定を避けるため、感染者全員を「学校関係者」と表現するにとどめた。
 鳥越実路教頭(62)は情報を伝える際の葛藤をこう明かす。「言うべきことを言わなかったり、情報を『後出し』したりすれば混乱する。それを避けたかった。しかし、説明時にどこまで配慮が必要か迷った。何が正しい選択か分からないままだった」
 関係者の検査にも追われた。感染者や体調不良者が出ると、速やかに体育館や広い教室に検査会場を設けた。同高には「衛生看護科」があり、看護師経験のある教員が複数いる。彼らが防護服を着用し、唾液検体を採取した。「学校の総力を挙げて当たった」(鳥越教頭)結果、教職員64人全員、高校と中学部の全校生徒(561人)の6割程度を検査した。
 感染の連鎖を断ち切るため休校した。5月の授業は5日間しか実施できず、生徒には宿題を郵送。突然の休校で不安になった生徒を把握できるよう、今の「自分の思い」を書いて提出してもらうなど、心のケアにも努めた。
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 感染を公表したことへの疑問や、感染者や検査対象者に関する詳しい説明を求める声など、学校にはさまざまな意見が寄せられた。「医療業界を目指す人材を育てる学校が感染者を出すのはおかしい」といった批判がある一方、対応に追われる教職員を気遣う激励もあった。
 6月1日、約2週間ぶりに授業を再開した。路線バスの運転手は久しぶりに登校した生徒一人一人に「いってらっしゃい」と声を掛けていた。
 以前からマスク着用や消毒、3密の回避を徹底していただけに、感染を防げなかった校内の動揺は大きかった。上村校長は「対策を取っていても感染してしまう。それだけ怖い感染症だと思い知らされた。今回を教訓としてマイナスをプラスに変えていかなければならない」と語った。


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