党首討論

 「57年前は高校生でした。記憶はいまだに鮮明です」…そんなふうに前置きすると、彼はやおら「1964年」の感動を語り始めた。昨日、国会で就任後初の党首討論に臨んだ菅義偉首相▲“東洋の魔女”女子バレーの回転レシーブやマラソンのアベベに「人間の底知れない能力」を思った、柔道のヘーシンクは敗者への敬意を忘れなかった、そうしたことを子どもたちに見てほしい…首相は時ならぬ力説を続けた。尋ねられてもいないのに▲党首討論は英国議会の「クエスチョンタイム」をお手本にして導入された制度だ。「クエスチョン」の対義語はもちろん「アンサー」。だが「討論」どころか「問答」にも程遠い-そんなやり取りばかり印象に残った▲都合の悪い「問い」に向き合わない、自分の言葉が不足している-どちらも、これまで繰り返し指摘されてきた首相の特徴である。残念ながらそこは今回も健在▲1時間足らずで散会。目新しい応酬がないことに落胆しながら、時間も短かったし、こんなものか…とも考えた。劇的な変化など望んでも無理-と首相の姿勢に知らず知らず慣らされつつあるのかもしれない▲「期待外れ」は「期待」のある場所でしか起こらないのだ、と改めて思う。ただし、これが好ましい状況でないことは言うまでもない。(智)

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