Vol.05 みちびきSLAS搭載の水上ドローン、マリンスポーツ活用へ[ドローン実証実験レポート]

ドローン・ジャパンは2021年5月、ウィンドサーフィンなどのマリンスポーツで、立ち入り禁止区域などを示すための水上ドローン、いわゆる「自律ブイ」の実証実験に成功したことを明らかにした。

みちびきのサブメーター級測位補強サービスSLASをブイに搭載しており、あらかじめ連携した管理システムから遠隔で指示すると、ブイが自律的に停留ポイントへと移動して、その場に停留できる。オープンソースArduPilotを使用してソフトウェアを開発することで低コスト化、複数台自動航行および停留の制御簡素化を図ったほか、3つの機体を用意して差異を比較した。

Mission Planner上で機体を制御する

「自律ブイ」実証実験の概要

本実証は、N-Sports tracking Lab.が開発したシステムと連携して実施された。同社は、「ウィンドサーフィンやヨットなどのマリンスポーツは、陸上からの観戦が難しいため一般的な認知が上がりづらい」という課題に焦点を当てて、GPS装置やSLASタグを選手に配布することで競技艇の位置をリアルタイムに観れるようにするといったシステムの開発を手がけている。

SLASを搭載した自律ブイはこのシステムから指示を受けて、自動航行で停留ポイントへ移動する。停留ポイントに到着後は、ターゲット座標から半径5m以内にとどまることを目標としたが、波や風などの影響をたえず受けつつも、半径1〜2m以内に停留することができたという。

立ち入り禁止区域を示すブイは試合開催中も、潮の満ち引きなどの海象に応じて移動が必要になることも多い。ブイの位置情報をシステム側でリアルタイムに把握して遠隔操作できれば、これまでのように人が船で行って作業するという負荷を軽減でき、機動性も向上する。

3種類の機体でSLAS精度検証を実施

全長1mの機体(カタマラン型)
全長1.5mの機体(カタマラン型)
全長2.5mの機体(ゴムボート型)

今回の実証では、3種類の機体が用意された。1つめは、SLASとの精度比較を目的とした、GPS搭載(SLAS未搭載)の全長1m、イタリア製のカタマラン(双胴船)。2つめは、SLASを搭載した全長1.5 mのカタマラン(双胴船)で、こちらはアトラックラボが開発したフレームを使用した。両機体とも、自動車で持ち運びができる大きさだ。3つめは、SLASを搭載した全長2.5mのゴムボート。こちらは現地に運んでから組み立てる時間を要するが、人が乗ることができるくらいの大きさで安定感がある。

いずれも、既存のフライトコントローラーを水上用に転用し、オープンソースArduPilotを使用してコントロールソフトウェアを開発。これにより、ソフトウェア開発の低コスト化、複数台自動航行および停留の制御簡素化を図ったという。また、3つの機体の制御方法は、左右に2基のスラスターを搭載して左右の回転差を用いることで統一し、各機体の比較を行いやすくした。

ドローン・ジャパン取締役会長の春原久徳氏は、SLASとGPSの精度を比べて、みちびきSLAS活用の利点をこのように話した。

春原氏:停留ポイントまでの自動航行でSLASとGPSの精度を比べると、ターゲット座標との誤差において0.5m~1mの差が生じ、SLASのほうが精度が高かった。最近のGPSは、RTKを使えるランクの製品であれば、一般的にSLASを使えるようになっている。コストをかけずに精度を向上できるうえ、海などでは安定しやすいのではないか。

一方、停留ポイントにとどまるという制御においては、機体自らの動きに対してアクションを起こすというアルゴリズムを設定しているため、SLASとGPSとの差異はほとんどみられなかったという。

また、海上での使用となると気になるのがバッテリーだが、複数台使用すれば半日は持ちそうだとのこと。

春原氏:全長1.5mのSLAM搭載カタマラン型には1万mAのバッテリーを1つ搭載したが、海上で3.5〜4時間ほど持ちそうだった。機体にはバッテリーを複数台載せることができるので、半日は海上を動かせると見ている。

ドローン・ジャパンは今年、ドローンオープンソースソフトウェアArduPilotの世界リードエンジニアであるランディ・マッケイ氏とともに合弁会社「アルジュ・エックス」を立ち上げたばかり。空・陸・水上・水中また屋内外の環境に応じた自律型移動ロボットの機体制御の開発・実証の支援を行うとしている。

本実証で手がけたマリンスポーツ以外にも、立ち入り禁止区域を示すなどの用途で使える水上ドローン「自律ブイ」が活躍する場面は多そうだが、今回の実証実験を見て、「港湾のインフラ点検にもこの技術を活用できないか」という相談も寄せられているそうだ。また洋上中継機として水中ドローンと組み合わせて使うという可能性も広がる。今後の利活用への進展に期待したい。

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