マドンナの勝利の方程式が確立したヒット曲「パパ・ドント・プリーチ」 1986年 6月11日 マドンナのシングル「パパ・ドント・プリーチ」が米国でリリースされた日

現在もポップミュージックの最前線で活躍するマドンナ

マドンナ、マイケル・ジャクソン、プリンス―― 80年代のポップアイコン3人は奇しくも1958年生れの同い歳である。

キング・オブ・ポップという称号を与えられ、常にメガヒットを宿命づけられたマイケル・ジャクソン。

ポップミュージックのイノベーターとして、常にラディカルであり、聴いたことのない新しい音楽スタイルの発明を宿命づけられたプリンス。

この2人はすでに歴史上の人物となってしまった。

そして、マドンナは現在でもポップミュージックの最前線で活躍を続けている。

マドンナが80年代というマテリアルワールドを生き抜き、使い捨てのポップアイドルとして消費されずに今日まで生き抜いてこれたのかを考えてみると、ラディカルな視点をポップミュージックに取り入れ続けることで常に新鮮さを失わず、大衆に飽きられなかったことが最大の勝因だと言えるだろう。

そして、ラディカルとポップの両立は音楽性だけではなく、ポップスターとしての立ち位置やイメージ戦略、ビデオクリップ、歌詞を含めた言動など全てにおいてマドンナという存在そのものに反映されており、“過激なポップスター” というイメージを作り上げることに成功しているのだ。

マドンナ初のメッセージソング「パパ・ドント・プリーチ」

では、マドンナはデビュー当初からラディカルとポップの融合に成功していたのかというと、そんなことはない。

私が、彼女の表現にそうした芽生えを感じたのは1986年にリリースされたサードアルバム『トゥルー・ブルー』からのシングル「パパ・ドント・プリーチ」だった。

この曲は、“未婚のティーンエイジャーの妊娠” をテーマにしており、妊娠した10代の女の子がそのことを父親に告白するという内容。サビの部分で「お父さん、お説教はしないでね」と歌われる。

当時、社会問題になっていた10代の妊娠をテーマにし、人工中絶に対する問題提起にもなっており、マドンナのレパートリーとしては初めてのメッセージソングと言えるだろう。

ビデオクリップに感じた違和感

さて、ここで「パパ・ドント・プリーチ」のビデオクリップを観てみよう。

ショートカットになったマドンナが妊娠してしまうティーンエイジャーを好演する印象的な作品となっている。

内容はと言うと、小さい女の子が父親に育てられ、10代の少女に育っていく。年頃になった少女はイケメンのボーイフレンドができ、妊娠してしまう。そのことを父親に告げるシーンへとテンポよく映像は展開されていく。

そして、サビの「♪ パパ・ドント・プリーチ」と歌われる部分になると、胸元も露わなセクシーな衣裳のマドンナが踊りながら歌う映像に切り替わるという唐突な展開を見せる。

当時、14歳の中学生だった私だが、この映像に相当な違和感があったのだ。だって、「お父さん、怒らないで…」って歌詞のところでいきなりセクシーに踊り出すのって「変じゃねー?」って思ったのだ。

ポップアイコン・マドンナが提起するからこそ注目した社会問題

そんな違和感だらけのビデオクリップなのだが、本稿の冒頭で述べたマドンナのラディカルとポップの両立というスタンスに照らし合わせて考えてみると、サビの部分はセクシーに踊り、歌うポップスターとしてのマドンナのショットを入れる必然があることに気付かされる。

ただただ、シリアスに社会問題を提起するだけではマドンナという表現にはなりえないのだ。10代の妊娠という重たいテーマとセクシーに歌い踊るポップなマドンナの両極端な要素の同居がどうしても必要だったのだ。

大衆はポップアイコンとして魅力的であり刺激的なマドンナが提起する社会問題だからこそ注目し、目と耳を傾けるのだ。

マドンナはこうした自分の置かれた立ち位置には自覚的であったはずだ。それはこれ以降のマドンナの作品や活動を参照すれば明らかと言えるだろう。

マイケルとプリンスから引き継いだポップ&ラディカル、現在も闘うマドンナ

今日のマドンナは圧倒的なスーパースターとしてショウビズ界のトップへ君臨している。しかし、その表現はスターになればなるほどラディカルなものへとシフトしている。そして、ラディカルなだけではなく、同時にポップであることへの担保も決して怠らない。

そう考えると、マドンナの勝利の方程式を確立したエポックメイキングなヒット曲が「パパ・ドント・プリーチ」だったと言えるのだ。

80年代を共に生き抜いた戦友であるマイケル・ジャクソンとプリンス。マイケルのポップであることの宿命とプリンスのラディカルであることの宿命を引き継いでマドンナはタフに刺激的にポップシーンで闘っている。御歳62(2021年6月現在)になるマドンナの果敢な闘いはまだまだ終わることはなさそうだ。

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追記
私、岡田浩史は、クラブイベント「fun friday!!」(吉祥寺 伊千兵衛ダイニング)でDJとしても活動しています。インフォメーションは私のプロフィールページで紹介しますので、併せてご覧いただき、ぜひご参加ください。

カタリベ: 岡田浩史

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