栃木県内で今年、農家からトラクターが盗まれる被害が相次いでいる。4月末までに前年同期比で約3倍となる26件が発生した。農作業中の所有者が目を離した隙に盗む従来の手口に加え、施錠されたトラクターを納屋から盗むケースも目立っている。特に狙われているのは、部品だけでも高値で売買される日本製だ。県警は複数犯による犯行とみて捜査を進めるとともに、盗難対策の強化を呼び掛けている。
「トラクターと関連器具だけ狙われたんだ」。茂木町、農業男性(85)が苦々しげに被害を振り返った。3月下旬の早朝、母屋から数十メートル離れた納屋に行くと、軽トラックや多くの農機具の中から、トラクター2台が消えていた。
エアコンやパワーステアリング機能付きのモデルで、購入価格は570万円と870万円。数年前に年金や貯金を取り崩し、やっとの思いで買い替えたばかりだった。土を耕す際に装着するロータリーもなくなっていた。「ロータリーは取り外して置いていた。中古でも高く値が付く部品を選んでいったんだ」
県警や県農業共済組合によると、昨年1~4月の被害は9件で、今年は同期間で17件増加している。県南部が最多の9件。県東部が7件で続き、県央部6件、県北部4件と被害は県全域に及ぶ。農繁期を控えた3~4月は被害が21件と集中した。
これまでは鍵を付けたまま田畑に放置されたトラクターが狙われてきたが、今年は納屋からの被害が目立つのも特徴だ。自宅から離れた納屋は、監視の目が届きにくいため特に狙われやすいという。
盗まれたのはいずれも「クボタ」や「ヤンマー」などの日本製。海外でもその土地の条件に応じた改造が可能で、分解して部品だけにしても高く売れるという。
捜査関係者からは「盗む役、見張る役、運ぶ役など役割分担して集団でやっているのでは」との見方も出ている。県警は地道な捜査を進める一方で、ハンドルロックやタイヤロックの実施、防犯カメラやセンサーライトの設置などを推奨している。