10代以下のコロナ死者数0人なのに自殺者数は24年ぶり水準に急増、若者世代の負担を考える

4月23日に発出された緊急事態宣言は、6月20日までまたも延長されました。その前の緊急事態宣言は1月8日から3月21日、4月5日からはまん延防止等重点措置がとられたことを考えると、今年はほとんどの期間で非常事態が日常となっています。

この異常な日常が日本の様々な面に影響を及ぼしていることは周知のことですが、今回は特に深刻と思われる若い世代への影響について考えます。

<文:ファンドマネージャー 山崎慧>


10代以下の自殺者数が過去最悪水準

4~6月期のGDP成長率は1~3月期に続き2四半期連続のマイナス成長に陥る可能性が高まっています。しかし、経済の落ち込みと比べると雇用市場の悪化は限定的です。政府は雇用調整助成金、時短営業の協力金、自営業者向けの持続化給付金などの大規模な財政政策を打ち出しています。

懸念された失業率も過去最低の2.4%からは上昇したものの、顕著に悪化したとは言えない水準にとどまっています。失業率は自殺者数と非常に高い相関がありますが、今回もその関係は続いており、失業率の上昇は限定的で自殺者数も急増を免れています。

一方、問題なのは10代以下の自殺者数です。昨年は777人と1986年以来の高水準となりました。10代以下の人口は1986年当時は3,495万人でしたが2020年は2,064万人(国勢調査推定値)まで減少しています。このことを加味すると自殺率はさらに高くなり、実態はより深刻です。ここまでの急増は新型コロナウイルスの感染抑制策の結果ととらえるのが自然でしょう。

部活動や学校行事、卒業式の大部分が中止に追い込まれ、大学ではオンライン授業によりキャンパスでの交流も損なわれ、成人式などのイベントも中止されています。社会人は緊急事態宣言下でも満員電車が続くなど、良くも悪くもコロナ前の日常に近い状況となっている一方、最も行動変容を強いられた世代が10代以下と言えるでしょう。

また、2021年の大卒求人倍率は1.53倍と前年の1.72倍から大きく低下しました。学生からの人気の高い航空、旅行業界では新卒採用の中止も目立ち、氷河期世代の再来が懸念されています。

日本のコロナ対策は若年層にツケを払わせている

日本で新型コロナウイルスによる10代以下の死者はゼロです。新型コロナウイルス死者の平均年齢が80歳を超えていることと合わせて考えると、彼らが強いられた行動変容は彼ら自身の健康よりも、「守ろう高齢者」のスローガン通り、公共のための犠牲の面が大きいと言えます。それにもかかわらず、政治家や首長、感染症専門家からは、十分なエビデンスが無いと認めながら、あたかも若年層が感染拡大の主因であるかのような情報発信が繰り返されています。

さらに、将来世代を考慮に入れると状況はより深刻です。厚生労働省の人口動態統計によると、2020年の国内の死亡数は前年からおよそ1万人減少し137万人となりました。死亡数は高齢化により年平均2万人程度増えているため、減少は11年ぶりとなっています。また、ウォールストリートジャーナルによると、2020年の日本の超過死亡(死亡者数のトレンドからの上振れ)のマイナス幅は世界最大となりました。新型コロナウイルス対策によって高齢者の命は例年を上回って守られたと言えます。

一方、出生数は前年比-2.9%、婚姻率は前年比-12.1%とともに大幅減少となりました。対面でのコミュニケーションの否定と移動制限は日本の少子化をさらに加速させています。

財政赤字の拡大も深刻です。IMF(国際通貨基金)によると、給付と貸し付けを合わせた日本の新型コロナウイルス対策の財政支出は対GDP比44%と、世界最大となっています。約1兆円あった東京都の財政調整基金の残高がほぼ尽きるなど、地方財政の悪化も深刻です。飲食店向け時短営業協力金などを一律に給付することは迅速な対応が必要な感染拡大初期には有効だったかもしれませんが、1年たっても同じことを繰り返しており、資金の使途として公正・適正だったかは大いに疑問です。

医療体制も先進各国と比較するといまだに脆弱なままです。1,400万人の人口を抱える東京都の重症者数のピークが1月20日の160人だったにもかかわらず、医療ひっ迫が連日叫ばれています。山中伸弥教授がファクターXと呼んだように、日本は厳格な罰則付き外出制限が行われた諸外国と比べて行動制限が緩やかなまま、新型コロナウイルスの感染者・死者は少ない状況を維持しています。それにもかかわらず、世界最大規模の財政赤字により次世代にツケを残し、出生数を減らし、若年層の自殺者を増やす結果に終わっているのです。

若年・将来世代こそ、支援され守られるべきではないのか

米国のバイデン政権は5月28日に2022年度の予算案を発表しました。大規模なインフラ投資案が注目を集めていますが、その内訳で最も大きな比率を占めるのは子育て支援です。本来の意味でのインフラ投資ではないものの、子どもこそが将来的なインフラになるという意味では非常に意義がある予算だったと言えます。さらに言えば、外敵に襲われたとき、群れの中心に子どもを置き、周りを大人が取り囲み身を守るのは哺乳類に共通した習性です。

ひるがえって日本では若年・将来世代にしわ寄せが集中しており、さらにその財政的なツケを払うのも高齢者ではありません。日本の社会としての持続性(サステイナビリティ)が大きく損なわれ、もはや手遅れとなることを筆者は強く懸念しています。

※内容は筆者個人の見解で所属組織の見解ではありません。

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