「第17回東京-北京フォーラム」をどのような対話にしていくか

~事前協議を終えて~

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 6月9日に行われた「第17回東京-北京フォーラム」の事前協議終了後、同フォーラムの実行委員長の明石康氏(国立京都国際会館理事長、元国連事務次長)、同副実行委員長の宮本雄二氏(元駐中国大使)、山口廣秀氏(日興リサーチセンター理事長、元日本銀行副総裁)、木寺昌人氏(元駐中国大使)にご参加いただき、今回の事前協議を振り返ると共に、10月に開催する「第17回東京-北京フォーラム」でどのような議論を行うか、語っていただきました。司会は言論NPO代表の工藤が務めました。

工藤:先程行われた中国側との事前協議で、今年で17回目となる「東京-北京フォーラム」が開催することで合意しました。まず、今日の協議に参加されての感想を、まずお聞かせください。

まだまだ存在する日中間の認識ギャップ

それでも、10月には一歩踏み込んだ議論ができる可能性が出てきた

明石:今日の会議は、お互いに冷静に、かつオープンな形で問題点がどこにあるかということを議論することができて、よかったと思います。

 また、宮本さんから日本における中国のイメージがいかに深刻なものになっているか、ということを指摘して頂きましたが、それがどれぐらい中国側に理解されたかという点については、多少の疑問が残ります。今回の協議にも参加していた楊伯江さんの日本感は、まだ時代遅れではないかと感じました。日本における中国イメージが如何に深刻になっているか、ということをどのようにすれば中国側によりよく理解してもらうか、という点は非常に大きな宿題だと思います。

宮本:中国は間違いなく、今回の協議をいいものにして、日中関係に少しでもプラスになるようにということをひしひしと感じました。それだけ国際条理における中国の立ち位置が厳しいものになっているということは、中国の有識者間での共通の認識だと思います。その中で、日本に対してどのように対応していくのか、という観点から今日の協議に臨んだと思います。

 私が期待していることの1つに、5月30日に習近平さんは政治局の会議で、宣伝という言葉を使わず、対外伝達ということで重要な指示を出しました。それは、中国のイメージを正しく伝えるように、関係部門はトータルにやり直せ、というかなり明確な指示を出しました。相手を見て、相手のことをよく勉強して、相手にわかる言葉とロジックで説明しろと言っています。その学習の効果が10月にどれぐらい出てくるか。中国側が昨年と同じプレゼンテーションを行えば、習近平さんの指示を学んでいないということになります。どのような形で、中国が日本を含めた国際社会に対して中国の立場を提示しようとしているのかを見る、一つの良い場になるのだと思います。

 そうした意味で、なぜ日本で中国のマイナスイメージが拡大しているのかということについて冷静に勉強する必要があります。工藤さんが苦労しているこのフォーラムを、中国側ももっと高く評価するべきだと思います。ですから、あえて日本国内の状況がいかに厳しいかを伝えました。そういう習近平さんの指示を基に、10月には従来よりも一歩踏み込んだ議論に転換すれば、我々にとっては追い風になるし、色々な課題に対して、中国と実効的な対話ができる可能性が出てきたと思います。

山口:中国側は日本との関係を従来以上に大事にしているという感じを受けました。その上で以前、日本側の実行委員会でも話をしたことですが、経済界、あるいは金融界も含めて、日本の中では中国との関係について、クエスチョンマークを付けていることは間違いありません。そうした中で、私が特に関係している経済分科会のまとめ方、あるいは経済分科会で日本が中国に対してどのような発信をしていくか、非常に大きな注目が集まると思います。中途半端に妥協してもいけないし、一方で、妙に強気になってもいけないし、その辺りの間合いの取り方が非常に大事ですし、その辺りの知恵を日本の財界、金融界の方から強く求められていて、我々もそれを強く意識しながら、今回のフォーラムに臨む必要があると思っています。

 特に、全体として経済の議論というのは、中国側からの発言を聞いても、彼らの問題意識というのは、先ほど明石さんが指摘された通り、必ずしも今の状況をきちんと捉えた上での発言という感じはしませんでした。この日中間のギャップをどのように埋めていくのか、ということを、我々日本サイドから押し出していかないと、我々自身の背中が、日本国内から切られてしまうということになりかねない、ということを感じました。その辺りを、我々なりに知恵を出して、どのように臨んでいくかを考える必要があります。このことは、他の分科会でも当然繋がってくる話ですから、今度の経済分科会は、いつも以上に他の分科会との連携を意識しながら展開していく必要があると思いました。

木寺:中国側の発言を聞いていて、少し波長があっていないなと感じました。まだ色々な現実や情報に接していないと思われる部分がありました。

 今回の「東京-北京フォーラム」について、大体の合意ができてよかったと思いますが、特に経済については、山口さんがご指摘になった様々な点で問題があります。私は中国共産党が社会主義市場経済に対して、色々な工夫をもって中国式市場経済の中に、ここは入ってはダメ、ここは両面通行でいきましょう、ここは一方通行でいきましょう、といったように、グリップを強めることと、介入の度合いを強めていると感じています。中国が大きくなってしまったがために、中国内の影響にとどまらず、国外の我々も影響を受けるという世界になっている。その辺りの問題意識を踏まえながら、これを知らないと大変だ、という貴重なお土産を用意していく必要があるのかな、と気がしています。

 中国もだんだん、自分たちがくしゃみをすると、誰かが風邪をひくということは分かってきているでしょうから、そうした観点から、大きなメッセージを送れればと思いました。

工藤:今年のフォーラムは、世界の中でも非常に大きな可能性を持っているのではないかと感じています。つまり、米中対立や中国の行動に対する反発などで、世界が不安定になっているという問題と、国際的に協力しなければならない問題が分断されてきている。それを真正面から日中間で議論してみたいということから、今回のフォーラムの全体テーマは「日中両国は不安定化する世界の国際協調の修復にどう取り組むか」ということで、基本的な論調というか考え方は、今回の議論で合意されました。

 今、世界で起こっている不安定さに真正面から議論し、その中で協力できること、一緒に考えられるものをオープンな場面で示していく、という流れになると思います。皆さんは、今年のフォーラムをどのような対話にしていきたいと思っていますか。

今回のフォーラムでは、中国を国際舞台に即した姿勢、行動様式に変換させていく一歩を実現できるかがポイントに

宮本:先ほどの協議でも申しましたが、これからの米中関係は、今バイデン政権がやろうとしている競争と協力を軸にして、どのような内容にしていくかという点で、これから米中のせめぎ合いがあって、力比べが始まりますから軽々には言えません。しかし、これは極めて繊細な精緻な外交を要求されます。アメリカと中国のように、あまりに違うものを箱に入れても、うまくいくはずはないのです。うまくいかせるためには精緻なプログラムと、極めてデリケートなハンドリングというものを必要とするのですが、中国問題のアメリカにおける位置づけというのは、民主党が共和党とコンセンサスをとれる数少ない分野ですから、議会対策とか選挙といった観点でデリケートな外交政策が取れない可能性が高いと、私は思っています。

 そうなってくると、日本としてはバイデン政権が追求しようとしているものを、我々が上手にやればいいと思っています。つまり、対立しなければならない分野においては対立するのですが、協力が必要な分野は協力していくということなのです。こうした考え方の第一歩を、10月までに何か打ち出せればいいと思います。協力するから対立しないのではなく、協力もしながら対立もするのです。これが日中関係にも組み込まれてきた。そうした難しい関係をどのようにすれば構築できるのか、という知恵を出すことが10月のフォーラムに向けた我々の試みだと思います。

山口:経済の分野でいうと、日本経済は主要国の中では苦労しています。成長率が高まってこないし、企業マインドも早々には元気にならない、消費者マインドは改善の方向がはっきりしてこない、という状況です。これからワクチンが普及していけば状態は少し変わるかもしれませんが、今の日本の状態は、日本経済の持てる力に応じたことが起きている面があるのだと思います。したがって、日本経済が花開くように大きく浮揚していくということは、この一年、二年を展望しても出てこないだろうと思います。

 その一方で、中国はどうかというと、先ほどの事前協議でも言いましたが、李克強さんが中国の問題として、金融面でのシステム的なリスクがあるのだ、ということを全人代ではっきり指摘し、不動産バブルの問題が中国最大のリスクだということを今年初めに言われた。この問題意識は非常に正しいのですが、それに応じて経済全体のスピード調整をするという方向にもっていこうとするとことはそう簡単ではありません。日本が1990年代の冒頭に行った総量規制や金融引き締めと同じように、どうしても行き過ぎてしまう面があると思います。そうなってくると、10月の終わりに開催されるフォーラムで、中国の経済状況は、思っていたよりは悪い方向に向かっているな、ということになっているかもしれません。一方の日本もなかなか上向いていかないな、ということになっているかもしれない。そのように双方に弱い状況ということが意識される中でのフォーラムになる可能性があるなと思っています。

 こうした状況が、我々のフォーラムを実り多い方向に持っていけるのか、ということはもう少し様子を見る必要があります。ただし、いずれにしても経済の分野においても、世界が注目していることは間違いありませんから、日本側の立場からすると、中国をどのような形で国際舞台に即した姿勢、行動様式に変換させていくことができるか、ということについて小さな一歩でもいいので実現できればいいと思っています。

木寺:今、山口さんが最後におっしゃられたことに同感です。要するに、中国が香港でやっていることもオウンゴールで、外から色々と言われて内政干渉だといって対話も何も成り立っていない世界になっています。そこでもう少し風通しよくできないのかと思っています。少しでも風が吹けば、ということが今回の目的だと思います。

明石:先ほど宮本さんがおっしゃったことにも関連しますが、先日、朝日新聞のオピニオン面に、防衛大学校長だった国分さんの発言が載っていました。国分さんは、東シナ海において日中両国の軍事部門の間で、戦闘勃発の一歩手前にあったことに背中が寒くなるようだったと回顧していましたが、そうしたことを一般の人には伝わっていません。

 今日の事前協議で中国側の人が理解していた日中間の軍事関係に関する認識が、日本と180度違うのではないかと感じてゾッとしました。こうした考えの人がいるのであれば、日中関係はまだまだ考えが一致していないと言わざるを得ないと感じましたが、宮本さんは、その発言をどのように感じましたか。

宮本:要するに、自分はこう思うということで終わりなのです。その時に、授業をしてもよかったのですが、歴史的にも文献学的にも中国側が指摘したような関係ではないし、台湾と日本の関係もそういうものではありません。しかし、中国ではそうした認識が出来上がって、その認識に基づいて日本は何だという話になっています。今回の例からも、日中間のベーシックなことに関して、さらに掘り下げた我々の議論が必要だと感じました。

 我々が課題解決に向かうという基本方針は正しいと思うのですが、随時、基礎的なことに関するすり合わせをしながら、解決に向かうということが現段階での一番いい方向だと感じました。

工藤:ありがとうございました。今、宮本さんが指摘したことにも関係しているのですが、10月の「東京-北京フォーラム」は、分科会でもある程度、議論の作り方についても、色々と詰めていく必要があると感じています。そうしないと風を起こせないと思っています。ただ、ベーシックな問題に関して、絶えず相互信頼の観点から中国側に伝えていくということは、このフォーラムでもそうですが、その前にもっと中国に継続的に意見交換をしたいと思っています。何とか、分科会ごとに中国側とフォーラム前に議論を進めながら、日本側はしっかり準備をして、この議論に臨んでいきたいと思っています。

 それぐらい今回のフォーラムは、私たちにとっても勝負をかけていくタイミングにあると思っていますので、必ずやり遂げたいと思っていますので、ぜひ皆さんも力を貸していただければと思います。今日はありがとうございました。