Vol.06 エアロネクスト、ドローンのフードデリバリーにも着手[ドローン実証実験レポート]

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でもお伝えしたが、エアロネクストは2021年6月10日、吉野家、出前館、ACCESS、横須賀市立市民病院とともに、調理したて熱々の牛丼を医療従事者にドローンで届ける実証実験を行った。飛行ルートは、横須賀市立石公園の半島から海上を4.5km、河口から河川上空に入り0.7kmを通る合計5.2km。当日は約7m/sの速度で飛行して吉野家の牛丼4つを運び、出前館アプリから注文後約15分で市民病院の屋上で待機する医療従事者に手渡した。

なお本実証は、神奈川県のドローン前提社会の実現に向けたモデル事業「ドローン物流定期ルート開設に向けた実証実験」ならびに地域課題の解決を目指した「ヨコスカ×スマートモビリティ・チャレンジ」の一環として実施された。

4D GRAVITY搭載の「物流専用機」初お披露目

今回使用されたドローンは、エアロネクストとACSLが共同で開発した最新の試作機体で、エアロネクスト独自の機体構造設計技術「4D GRAVITY」が搭載された物流特化型だ。進行方向前方をトップに後方に向かって傾斜のある、滑らかな流線型デザインには理由がある。

配送という用途特性上、機体は基本的には前方にしか飛ばず、その1方向により速く飛ぶことが求められる。このため、飛行時に機体が前方に傾斜したときに機体と荷物が受ける空気抵抗を、最低限に抑えられるよう設計したという。

この試作機は、上部を一度開いて荷物を機体中央に設置し、再度フタを閉じてからネジを締めて固定するタイプ。一見手間だと感じたが、作業時間は荷物受け取りから1分ほどだったか、見ていた体感としてはスムーズだった。

従来の機体とは異なり機体のど真ん中に荷物を設置するため、荷物搭載時と降ろしたときの重心が統一され、また4D GRAVITYを搭載して飛行部と搭載荷物を分離させた結合部分にサーボを使うことで、離陸、飛行、着陸という一連の流れにおいて自動的に荷物が水平を保たれるようにしたという。

こちらは、前方からみた姿。サーボに接続された持ち手が、荷物をしっかりと挟む構造だ。

そしてこちらは、後方からみた姿。バッテリーは合計4本積んであるそうで、2本は後方に斜め向きに取り付けられていた。ちなみにバッテリー重量は1本あたり2kgとのこと。エアロネクストの鈴木CTOはこのように説明した。

鈴木氏:ややオーバースペックというほどのバッテリーを積んでいる。本格的な運用に入ったときに、バッテリーが空になることがないよう設計した。一定のバッテリー残量を維持して運用することでバッテリーの寿命を伸ばせる。

試作機のため最終確定の数値ではないが、機体サイズは幅170cm×長さ140cm×高さ45cm。最大ペイロードは5kg。最大飛行速度は10m/s。最長航続距離は20km。また、箱のサイズは幅31cm×奥行き26cm×高さ20cmとのこと。

出前館アプリで注文から、一連の時間を計測

今回の実証実験では、出前館アプリで吉野家の牛丼を注文してから、一連の時間が計測されていた。

まず、横須賀市立市民病院の屋上で、医療従事者の方が出前館のスマホアプリで牛丼を注文した。

離陸地点近くの吉野家キッチンカーに注文が入る。わずか10秒で牛丼が調理されて、出前館の配達スタッフに手渡された。

今回は、離陸地点が立石公園の半島(海岸沿い)と少し離れていたため、配達スタッフが手持ちで運んだ。その距離は150m。途中、昇り降りや足場の悪いところもあったが、なんとか“水平”を保って運びきった。

吉野家や出前館が今回の実証実験で確認したかったことのひとつは、「配送品質」だ。フードデリバリーという用途特性上、配送後の商品の状態はとても重要。いかに早く、料理が冷めていない状態で、いかに見た目に崩れることなく運べるかを試していた。

荷物を受け取ったドローンオペレーションスタッフがドローンに荷物を設置。

準備が完了したのち病院側にある遠隔運航管理からの指示で離陸した。

病院側で待つこと約10分。海上から飛来するドローンを確認できた。

屋上に着陸するところ。

そして静かに着陸。スムーズな着陸には、吉野家や出前館の関係者も「驚いた」と話していた。

着陸後、すぐに荷物を自動で切り離し、ドローンは再び浮上した。

今回は着陸地点に戻る実証は行われなかったが、この時点でバッテリー消費は約30%とのことで、ホームに戻った時点でバッテリー残量が十分残っていると予測される。

ドローンから切り離された箱をドローンオペレーションスタッフが運び、注文した医療従事者が屋上で食した。

(筆者の立ち位置からは見えなかったが)牛丼を開けた瞬間に湯気が出てきたそうで、吉野家が開発側にリクエストしていたという箱の密閉性、保温性もクリアしていたことが証明された。

横須賀市立市民病院は、現在は新型コロナウイルス感染症の入院が必要と診断された中等症の患者を受け入れる重点医療機関に指定されており、医療従事者はランチの時間もままならないときもあるという。牛丼を食した初期臨床研修医の岩崎衛さんは、このように話した。

岩崎さん:食堂は営業しているけれど、1時半くらいには閉まってしまう。普段はカップ麺やコンビニ自販機でランチをすませることが多い。作りたてのランチを食べられてとても美味しい。

今後は山梨県小菅村で機体検証へ

左から順にエアロネクスト代表取締役CEO 田路圭輔氏、吉野家代表取締役社長 河村泰貴氏、出前館代表取締役社長 藤井英雄氏、ACCESS取締役 専務執行役員 夏海龍司氏、横須賀市立市民病院 管理者 北村俊治氏

本実証に参加した各事業者は、フードデリバリーの実現には法規制や技術開発などまだまだハードルがあるとしながらも、それぞれに将来的なドローン配送活用を思い描いたようだ。

吉野家の河村社長は、「本当の意味でのフードデリバリーの社会実装に、ロボットの活用は欠かせないと考えている。ドローンについても、法規制や技術開発が進むいまの段階からしっかり検証を進めて、できるだけ早い時期にお客様にお届けしたい」と語った。

出前館の藤井社長は、「各家庭にドローンでお届けするのはすぐには難しいが、まずは今日のような施設、大規模集合住宅などに配送することについては、商品到着からビル内配送というオペレーションの課題さえ解決できれば実現できるのではないか」と話した。

かねてよりエアロネクストとともにソフトウェア開発を進めてきたACCESSの夏海専務は、「今後もドローンの社会実装に向けて、我々の技術を生かしていければ」と引き続き意欲を示した。

コロナ禍のなか本実証に協力した横須賀市立市民病院 管理者の北村氏は、「いままで想像もしなかったような配送が、どんどんできるようになる時代だ」と感想を述べ、オンライン診療も検討中であることを明かして「医薬品や医療部材の配送にも活用できるのでは」と話した。

本実証を統括したエアロネクストは、2021年4月から山梨県小菅村でセイノーホールディングスとともにドローン配送の常時運行を目指して日常的に試験を行っている。田路CEOは、「今日初お披露目できた機体を、さっそく小菅村に持ち込んで、さらに検証を進めたい。今年秋くらいには、さらに新しい都市を開拓していきたい」と今後の取り組みにも言及した。

吉野家をはじめ、多くの方に馴染みの多いチェーン店の味わいも、過疎エリアにおいては店舗がなく、人口10万人ほどの都市ではデリバリーサービスも普及しづらいため、日常的にいただくことは難しいという。今回のような「吉野家のキッチンカー×オンデマンドドローンデリバリー」という立て付けで、吉野家にとっては販路拡大、ドローンにとってはユースケース開拓が進むということも考えられる。今後のさらなる展開に期待したい。

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