フリーアドレスって、本当に効果的?

昨今の働き方改革ブームにともない、今までにはなかった新しいワークスタイルが、ここ数年でどんどん生まれてきています。そのうちの一つが「フリーアドレス」というスタイル。これは社員一人一人が自分専用のデスクを持たず、ノートパソコンなどを活用して、日によって使う座席を変えて働くというワークスタイルのことです。数年前からだんだん浸透してきた働き方で、もうすでに取り入れているという企業も多いのでは。あなたの職場ではどうですか?

実は私もつい最近知ったのですが、この「フリーアドレス」という言い方、和製英語だったようです。どうりでアメリカ人の同僚にそのままFree Addressと英訳しても「?」という顔をされたわけだ……。英語では「Shared desk」とか「Hoteling workstation」などといったフレーズを使うそうです(ちなみにこのフリーアドレスという言葉は、1983年に清水建設の技術研究所で使われたのが始まりだそうです)。

このフリーアドレスという働き方、多数のメリットがあるといわれています。まずはコスト面。オフィスに設置する座席数が減らせるため、スペースコストの削減が見込めます。また、ペーパーレスな働き方を促進し、共有備品の在庫管理を意識的に実践できるため、印刷用紙や備品などのコスト削減も期待できるといわれています。コスト面以外でのメリットといえば、部署を越えたコミュニケーションが活性化するとか、活発な意見交換によって新たなアイデアが創造される、などの点が挙げられています。お金も節約できるわ、社員のパフォーマンスもアップするわ、フリーアドレスってすごい!これはやるしかない!……って、まあ、そうなりますよね。事実、一時期は雨後のタケノコのように、そこかしこから「あの会社もフリーアドレス化するらしいよ」といった話を耳にしました。

しかし一転、誰が予想したであろう、このコロナ。コロナが始まってから、フリーアドレス化を再見直しする会社もちらほらと出てきたようです。というのも、フリーアドレスだと、座席や備品などすべてのものを不特定多数の社員とシェアしなければならないので、衛生的に不安ですよね。席を1つ飛ばしで座るなどしてソーシャル・ディスタンスの調整はできますが、やはり自分専用の席に座りたいと思う社員が多いようです。

また、フリーアドレスの一番の醍醐味が「今まで話さなかった他部署の人とネットワーキングする」「毎回違う席に座って気分転換をする」という点だったはずのに、結局毎日いつもの席に座るという人も増えてきているようです。ルール上では終業時に私物はすべてロッカーに戻し、別の人が翌日すぐに使えるようにするはずなのに、席に私物を置いてマーキングをする人もちらほらいるよう。結局私たちはなんだかんだ言って、いつもと同じ席に座り、いつもと同じ環境で仕事をするほうが落ち着くようにできているのかもしれません。そんな農耕民族的マインドな私たちに、遊牧民族の思考を強いるのは、少々無理があったのかも?

とはいえ、フリーアドレスという運用が始まって、まだ数年です。今すぐ結果を判断するのはちょっと時期尚早。特に若い世代の中には、フリーアドレスという働き方しか知らないという人たちもいずれ出てくるでしょう。そういった若者の声も興味深いですね。これからさらに働き方改革が進むにつれ、ワークスタイルのトレンドがどう変わっていくのか。今からとても楽しみです。

<参考>
・フリーアドレスとは? 成功企業と失敗企業の違い、導入手順、注意ポイント
https://www.kaonavi.jp/dictionary/free_address/
・フリーアドレスの意味とは?英語で通じる?収納や電話、気になるあれこれや使い方を徹底解説
https://chewy.jp/businessmanner/22117/

ライタープロフィール
北村祐子 (Yuko Kitamura)

在米23年。津田塾大学を卒業後に渡米し、ルイジアナ大学でMBAを取得後、テキサス州ダラスにある現在の会社で勤務すること20年目。ディレクターとして半導体関係の部品サプライチェーン業務に関わるかたわら、アメリカで働く日本人女性を応援しようと日々模索中。モットーは、「鳴かぬなら 鳴かせてみせよう ホトトギス」。

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