空飛ぶクルマのデモフライト 〜 笠岡ふれあい空港で一般社団法人MASCが国内初の屋外試験飛行成功

海外で開発が先行している空飛ぶクルマのプロジェクト。

空飛ぶクルマは、自動車ほどの大きさで「動力はバッテリー・自動運転に対応・垂直に離着陸可能」などの特徴を活かし、インフラが整っていない場所でも安全に利用できる新しい移動手段として開発中の次世代モビリティです。

その空飛ぶクルマの国内初になる屋外試験飛行が、6月4日(金)の午前9時より笠岡ふれあい空港で行なわれました。

屋外試験飛行を実施したのは、2017年に任意団体として設立され、2021年に法人化した一般社団法人MASC(岡山県倉敷市水島地域への航空宇宙産業クラスターの実現に向けた研究会:以下MASC)です 。

試験飛行用の「EHang Holdings Limited(イーハン ホールディングス)」製「EHang(イーハン)216AAV」は、ときおり大粒の雨が降る悪天候のなかでも安定した飛行をみせ、ポテンシャルの高さをアピールしました。

備後とことこも屋外試験飛行の取材に立ち会うことができたので、国内初の空飛ぶクルマ屋外試験飛行のようすと、記者発表会の概要をレポートします。

空飛ぶクルマとは

日本国内でも2020年8月に株式会社SkyDrive(スカイ ドライブ)が豊田テストフィールドで公開有人飛行試験を成功させるなど、空飛ぶクルマのプロジェクトは現在注目されています。

国土交通省は、2023年に予定されている空飛ぶクルマの事業開始に向けて、空飛ぶクルマの機体開発を後押しする「空の移動革命に向けた官民協議会」を2018年に立ち上げました。

そのような追い風のなか、MASC(マスク)が屋外試験飛行を実施した空飛ぶクルマとはどのようなものなのでしょうか。

空飛ぶクルマの特徴

空飛ぶクルマの正式名称は「電動垂直離着陸型無操縦者航空機(eVTOL:electric vertical takeoff and landing)」。

空飛ぶクルマは以下のような特徴があります。

  • 電力で駆動する
  • 運転が簡単であり自動運転にも対応している
  • 垂直に離着陸が可能

電力で駆動する空飛ぶクルマは低コストでの運用が可能なこと、内燃機関を持たないことから離着陸や運行時の騒音が抑えられることなどが利点にあげられるのです。

今回の空飛ぶクルマ EHang216AAVの屋外試験飛行は、操縦者が乗らない自動運転で行なわれました。

飛行のルートなどは、地上から制御・管理することが可能なため、自動運転でも安全に荷物を運ぶことができるとのことです。

また、空飛ぶクルマは垂直に離着陸できるので、狭いスペースでの運用が可能。

このことは、航空機のインフラが整っていない場所から場所への移動にも対応できるということ。

利点を含んだ特徴はあるものの、2023年の空飛ぶクルマ実用化に向けて乗り越えなければならない課題はたくさんあります。

しかし、空飛ぶクルマが実用化されると、笠岡諸島のような人とものの移動手段は船だけの地域にとって、物流の新たな手段として使えるため「より便利になるのは確かだなあ」と、屋外試験飛行に立ち会ってみて感じました。

日本国内初の屋外試験飛行をレポート

それでは、空飛ぶクルマの屋外試験飛行のようすをお伝えしましょう!

大粒の雨のなか、セレモニーが開始

空飛ぶクルマ EHang216AAVが格納庫から登場しました。

近くで見ると想像していたよりもコンパクトな機体です。

午前9時からEHang216AAVの前でセレモニーが開始されました。

倉敷市の伊東 香織(いとう かおり)市長や笠岡市の小林 嘉文(こばやし よしふみ)市長も参加してのセレモニー。

関係者のテープカットで屋外試験飛行のスタートです。

集まっていた報道関係者は、離陸場所より離れた取材ブースに移動し、渡されたブルーのヘルメットをかぶったあと、カメラやマイクをスタンバイして離陸の瞬間を待ちます。

空飛ぶクルマ離陸準備

いよいよ国内初の空飛ぶクルマ屋外試験飛行のスタート。

空飛ぶクルマ EHang216AAVを離陸位置まで係の人が数名で押していきます。

タイミングよく雨脚が弱くなってきました。

国内初の空飛ぶクルマ屋外試験飛行には絶好のチャンスです!

ついに屋外試験飛行をこれから行なうとアナウンスが流れました。

空飛ぶクルマの屋外試験飛行開始

空飛ぶクルマ EHang216AAVは「1、2、3」のかけごえと同時に垂直にスーッと上昇し、地上数メートルのところでホバリングします。

同じようにローターを回すことで上昇するヘリコプターと比べ、空飛ぶクルマ EHang216AAVのローターが回る音は意外に小さかったのが印象的でした。

上空30メートルまで上昇のあと約550メートルを旋回しながら移動

上空でホバリングのあと、垂直にさらに上昇し、水平に移動を開始。

あっという間に機体が小さくなり、短時間でかなり離れたところまで移動したようです。

デモフライトの飛行距離はおよそ550メートル。

ブレることもなくとても安定しています。

ホバリングのあと旋回し、再びこちらに戻ってきます。

取材陣が見守るなか、離陸したポイントの上空でホバリング。

そして垂直に降下し着陸です。

無事着陸。

空飛ぶクルマの国内初屋外試験飛行は成功です!

空飛ぶクルマ EHang216AAVの機体

屋外試験飛行が無事終了したあとは、空飛ぶクルマ EHang216AAVの撮影会です。

屋外試験飛行に使われた空飛ぶクルマ EHang216AAVとはどんな機体なのでしょうか。

EHang216AAVの性能

記者発表資料をもとにEHang216AAVの性能をまとめてみました。

航続距離が35キロメートルなので、近隣のエリアに物資を届けるなど活用法が想定されます。

空飛ぶクルマはコンパクト

係の人と比べてみるとコンパクトな機体であることがよくわかります。

▼電動モーターは8アームに2基の合計16基装備。

屋外試験飛行は無人で荷物を運ぶ想定なので、機内に輸送物資に見立てたダンボールを載せています。

▼機内にはシートが2つあり、2名乗車可能です。

▼機内前方にはモニターがあるだけです。

▼2名乗車時はどのようになるのか、小林 笠岡市長と伊東 倉敷市長が確かめてくれました。

コンパクトで取り回しがよさそうな空飛ぶクルマ EHang216AAV。

横幅はあるものの、大きさ自体は通常の車サイズです。

駐車場のスペース2台分に収まりそうな機体を実際に見て、「ある程度のスペースさえあれば離着陸できる謳い文句は本当なんだ」ということを実感しました。

写真撮影は午前10時に終了し、今度は場所を笠岡ふれあい空港から笠岡総合体育館に移しての記者発表会です。

笠岡総合体育館で空飛ぶクルマの記者発表会

午前11時から笠岡総合体育館でMASC、EHang216AAV製造元のEHang Holdings Limited(億航:イーハン)による記者発表会が行なわれました。

空飛ぶクルマの事業概要や、EHang216AAVの機体の詳細、今後の事業展開などについて約1時間の発表会のスタートです。

MASCと空飛ぶクルマ

MASCの名前は以下のキーワードからとられています。

  • M→水島
  • A→エアロ
  • S→スペース
  • C→クラスター

岡山県倉敷市の水島地域をエアロスペースビジネスの城下町にすることを最終目標として、精力的に活動しているとのこと。

航空宇宙産業を核にし、周辺関連産業の創業や新規事業を興すことにより、地域のものづくりを発展させて先進的な技術を地域から創出することも考えているそうです。

これまでの主な活動内容は以下のとおり。

  • 離島物流プロジェクト社会実験
  • 子供向けドローンフェスタ
  • 高校生向け宇宙開発ワークショップ
  • 「航空宇宙ビジネスフォーラムin倉敷」開催 など

MASCは、空飛ぶクルマ EHang216AAVを購入するまでドローンを中心とした事業を展開していましたが、EHang216AAVを手にしたことにより、空飛ぶクルマを活用した事業展開を今後は行なうとのことです。

世界的にはまだ空飛ぶクルマについての法整備ができていないことから、屋外試験飛行を実施後にできること、法整備完了後にできることにわけてMASCは空飛ぶクルマの事業を進める予定。

▼MASCが屋外試験飛行実施後に考えていることは、以下のとおりです。

  • デモフライト及び実機の見学と水島・倉敷周辺の観光資源を組み合わせたモデルコースの提案
  • 地元地域の学生に対して興味関心をもってもらうための学習プログラムの提案

▼法整備が完了した後の事業展開は輸送中心。

  • エアタクシー、観光飛行等の旅客輸送
  • 山間部や離島等での宅配などの物資輸送と医療サービスの提供支援
  • 知識や技能を持った人材育成のための学校設立

これからすぐに行なえることは、空飛ぶクルマ自体を観光資源と結びつけ、水島・倉敷地域に観光客を呼び込むことです。

法整備が完了してからは、実際に輸送手段として空飛ぶクルマを活用する事業計画が立てられています。

空飛ぶクルマの活用について

MASCが考える空飛ぶクルマの活用についての説明を聞くなかで気になったキーワードが、山間部と離島の宅配です。

現在、早急に解決する必要がある山間部と離島への素早い物資輸送。

空飛ぶクルマの法整備が完了した後のことになりますが、現状より速い物資輸送が可能になれば離島に住んでいる人にとって、空飛ぶクルマは待望の物流手段になるはずです。

また、すばやい医療サービスを提供することにも期待がもてます。

2025年の大阪・関西万博で空飛ぶクルマの発表を目指す

MASC理事長の桐野 宏司(きりの ひろし)さんは、記者発表会で空飛ぶクルマに対する熱い想いを語りました。

水島地域に脈々と受け継がれている航空機製造のDNAを生かした航空宇宙産業を興し、次世代の夢につながる事業を実現したい想いから立ち上がったMASC。

発足から4年間はドローンで実験を繰り返してきたそうですが、2020年4月に空飛ぶクルマ EHang216AAVが入荷したことから、空飛ぶクルマの事業計画をたてたそうです。

事業計画を前に進めるためには、空飛ぶクルマ EHang216AAVを実際に飛ばさなければなりませんでした。

しかし、新型コロナウイルス感染症の流行が拡大し、飛行計画を立てるのも大変だったようです。

そして迎えた2021年6月4日の空飛ぶクルマ屋外試験飛行。

報道陣に飛行の感想を聞かれた桐野さんは、EHang216AAVが悪天候をものともせずスムーズに飛行する姿を見て、「心の中では泣いておりました」と答えていました。

MASCの活動の指針に瀬戸内「弁天(べんてん)」プロジェクト2025があります。

そのプロジェクトに沿って今後もMASCは活動していくとのことですが、目標として2025年の大阪・関西万博で空飛ぶクルマをお披露目したいと桐野さんは話しました。

世界的にみると2025年前後に空飛ぶクルマの事業が現実のものになるだろうと、発表会中に株式会社三菱総合研究所客員研究員の奥田 章順(おくだ あきのぶ)さんは予想。

渋滞の緩和、物資輸送の新たな手段、山間部・離島への医療サービス提供など、空飛ぶクルマの事業が現実になれば、私たちの生活も変わってくるだろうと思います。

空飛ぶクルマが示すビジョンも興味深いものでしたが、なにより桐野さんをはじめとするMASCのメンバーの倉敷・水島地域、そして高梁川流域を航空宇宙産業と受け継がれている地元の技術で盛り上げていきたい、次世代につなげたい想いが感じられた国内初屋外試験飛行と記者発表会でした。

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