ポルティマオのBoP変更は「計画されたプロセス」。LMH内のバランスが目的も、LMP2との階層化には逆行/WEC

 WEC世界耐久選手権のハイパーカークラスに、新型ル・マン・ハイパーカー(LMH)『トヨタGR010ハイブリッド』で参戦しているトヨタGAZOO Racingのテクニカル・ダイレクター、パスカル・バセロンは、WECのトップクラスであるハイパーカーとLMP2との階層化にマイナスの影響を与えているにもかかわらず、トヨタはポルティマオにおけるBoP(性能調整)に満足していると述べ、今回のBoPの背後にあるプロセスについて説明した。

 GR010ハイブリッドは、開幕戦のスパ・フランコルシャンに比べ、BoPにより最低重量が26kg増やされた。また、ノンハイブリッドLMP1マシン『アルピーヌA480・ギブソン』でハイパーカークラスに参戦するアルピーヌ・エンデュランス・チーム(アルピーヌ・エルフ・マットミュート)も、22kgの最低重量増加を受けている。そして両車ともに、出力の抑制措置もとられている。

 これらの調整はノンハイブリッドLMHマシンであるグリッケンハウス・レーシングのグリッケンハウス007 LMHがこの第2戦から新規参戦することを受けてのものであり、トヨタおよびシリーズの共同オーガナイザーであるACOフランス西部自動車クラブによれば、GR010ハイブリッドが優勝した第1戦スパにおけるパフォーマンスが反映されたものではない、という。

「それはまさにBoPプロセスの一部である」とトヨタのテクニカル・チーフであるバセロンは、ポルティマオでの記者とのミーティングにおいてSportscar365に語った。

「BoPプロセスには、ホモロゲーションデータに基づく、いわゆるイニシャル(初期)バランスが含まれている」

「FIAとACOには、我々のクルマに関する多くのデータがある。マシンの特性は、ザウバーの風洞で測定された。彼らはエンジンデータや、重量も把握している」

「それらに基づき、彼らはおおまかなイニシャルバランスをとることができる。したがって、今回の調整はグリッケンハウスの参入を反映したものだ」

 このように、バセロンはポルティマオのBoPについて、LMHの発表時にすべてのハイパーカー車両のホモロゲーションデータのバランスを保証するための、「計画されたプロセス」であると説明する。

 しかし一方で、LMHの車重を増やしてパワーを減らすというポルティマオでのBoPは、ハイパーカーとLMP2を適切に分離するための試みに対しては助けにならないことも、バセロンは認めている。

「我々が直面する状況でネガティブなのは、このBoPによって0.6秒くらい(ポルティマオで)遅くなることだ」とバセロンは説明する。

「スパのレースアベレージでは、LMP2よりは1.3秒速かった。今回は、LMP2とのギャップがさらに縮まるということだ。これは、どうにも大きな問題だ」

「だが、LMH側からすると、避けることができない。なぜならこれは(LMH内で)合意されたプロセスの一部だからだ」

 ACOのダイレクター・オブ・コンペティションを務めるティエリー・ブーべは、ポルティマオのBoPは“スターティング”BoPであり、すべてのハイパーカーが充分なデータを提供したとシリーズの技術チームが認めれば、すぐにレースパフォーマンスをベースとした“ローリング”BoPに引き継がれる、と説明した。

「これはパフォーマンス調整のためのBoP変更ではない」とブーべは述べている。

「これらはすべて、技術的パラメーターから導き出されたものだ。フィールドをレベルアップしようとすることはまったくない。LMHのレギュレーションでは、パフォーマンス・ウインドウのターゲットがあるが、そのウインドウはすでにかなり狭いものとなっている」

「我々が注視しているのは、それらの数値ががどれほど(ウインドウから)外れているか、そしてそれらの違いを修正することだ。我々がコース上で目にするもの(実際のマシンのタイム)とは、何の関係もない」

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