<レスリング>【東京オリンピック・プレーオフ・特集】「レスリングが僕に貴重な時間を与えてくれた」…高橋侑希(山梨学院大職)

 

(文=布施鋼治、撮影=保高幸子)

計量時、カメラに向かって余裕を見せる高橋侑希(山梨学院大職)

 「本当に諦めなくてよかった。今はホッとしているというのが正直なところ」

 6月12日、東京・味の素トレーニングセンターで行なわれた、男子フリースタイル57㎏級の東京オリンピック代表決定プレーオフ。高橋侑希(山梨学院大職)が樋口黎(ミキハウス)を4-2で撃破。試合後に行なわれたオンライン・インタビューでは安堵の表情を浮かべた。

 「リオの前はミスってしまったので、僕にとっては6年越しのオリンピックになります」

 苦難のスタートは2015年12月にまでさかのぼる。翌年のリオデジャネイロ・オリンピックの出場権がかかった全日本選手権。大会前、高橋は優勝候補に挙げられていたが、3回戦で敗退しオリンピック出場のチャンスを逸した。

 「あのときの悔しさがいきた。(最後の)最後でチャンスをモノにすることができた」

 リオデジャネイロの前だけではない。当初の青写真では、2019年の世界選手権でメダルを獲得。その時点で東京オリンピックの出場を決めようと思っていた。同選手権は準々決勝で敗北。その直後の全日本選手権では樋口に敗れ、東京への道は一度ついえたかのように見えた。

妻からもらったハンカチが背中を後押し

 「僕自身を客観視すると、正直かわいそうな選手だなと思う。でも、悲観的に考えてしまうと全然楽しくない。逆に『この経験は二度とできないんじゃないか。レスリングが僕にこういう貴重な(試練の)時間を与えてくれた』と考えるようにしました。だったら、どんな辛いことがあっても、絶対乗り切れる自信がありました。

終了のホイッスルまで隙を見せなかった高橋

 それも、家族や山梨学院大の周囲の手厚いサポートがあったからこそ。高橋は「今回の試合のために、妻はハンカチを縫ってくれたんですよ」と相好を崩した。「それを大会前日にもらったんですけど、『試合前に泣いちゃうじゃん。感動させるなよ』という感じになりました。もちろん試合のときにはシングレットの中に入れました。そのハンカチが(僕の)背中を押してくれたと思う」

 苦労に苦労を重ね、つかみ取った出場権だからこそ価値がある。目前に迫った東京オリンピックで高橋は金メダルしか見ていない。

 

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