プロ野球新記録へ導いた“新人王からの脱皮” 西武・平良に求められる次なる偉業

「開幕から32試合連続無失点」のプロ野球新記録を樹立した西武・平良海馬【写真:荒川祐史】

記念のウイニングボールは「どうもしないです」

■西武 4ー3 中日(13日・メットライフ)

西武の平良海馬投手が13日、本拠地メットライフドームで行われた中日戦で、1点リードの9回に登板し1安打2奪三振無四死球無失点。「開幕から32試合連続無失点」のプロ野球新記録を樹立し、今季6セーブ目を挙げた。最速160キロを誇る速球は抑え気味に、カットボール、スライダーなど変化球を駆使するところに、新人王に輝いた昨季からさらなる進歩を遂げたことがうかがえる。

前人未踏の境地に達しても、沖縄・石垣島出身の21歳はあっけらかんとしたものだ。記念のウイニングボールについては「どうもしないです。自分で持っときます。ロッカーに置いておきます」と受け流した。

32試合で被安打17、12四球1死球。だいたい1試合に1人走者を許している計算だが、ホームを踏ませない。現役、指導者を含めて長いキャリアを持つ辻発彦監督も「すっごいことだと思うよ。決して完璧に抑えている時ばかりではない。普通はエラーで失点することも多いものだけれど、32試合にわたってそれがないというのは、よほど内容がいいということでしょう」と驚くばかりだ。

基本的に1イニング限定だが、それなりに“立ち上がり”には不安を持っている。この日も先頭のビシエドに対し、初球と2球目のスライダーが連続して内角高めへすっぽ抜け、揚げ句に遊撃内野安打で出塁を許した。

それでも慌てることはない。「今日は結構球数を投げたと思うのですが、徐々にあったまってきました」と表現。続く福留を外角高めのカットボールで三邪飛に。堂上に対してはカウント0-2から、この日最速の153キロ速球でファウルを打たせた後、外角のスライダーを振らせて三振を奪った。最後の打者となった代打・木下拓は、カウント0-2から4球目の152キロで空振り三振に仕留めた。

剛速球一辺倒は捨てた 変化球の精度上げて進化

この日の16球中、速球は5球で、スライダーが最多の6球、カットボールが5球。54試合で53イニングを投げ11失点。防御率1.87をマークした昨季は、ストレートが56.5%を占めていたが、今季は30%台で推移し、スライダー、カットボール、チェンジアップの割合をが増えている。1つ1つの球種の精度が上がり、打ち取るパターンが増えたことが、無傷の快進撃の背景にある。

知名度、露出も大幅アップ。右肩にのしかかる重圧も増しているはず。辻監督は「新記録を達成したのだから、そういう風な話題にはもう触れなくてもいいじゃん。おとなしくしてやって」と報道陣に要望したが、「開幕から」に限らなければ、2003年の西武・豊田清(現西武1軍投手コーチ=ブルペン担当)、14年のオリックス・比嘉幹貴がマークした「34試合連続無失点」のパ・リーグ記録、06年の阪神・藤川球児が保持する「38試合連続」のプロ野球記録がある。それを聞いた辻監督は「う~ん、豊田はウチのコーチだから……豊田くらいは抜かしてやれ!」と苦笑した。

平良がこの調子でいけば、新記録達成どころか、東京五輪で侍ジャパンの守護神の重責を担う可能性が十分ある。仮にそうなっても、発展途上の若者が日の丸を過剰に意識する必要はないだろう。あっけらかんと重圧を受け流してほしい。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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