<金口木舌>怪腕

 「怪」の字には「普通とは異なる」「不思議な」との意味がある。野球選手の中西太さんは高校時代、本塁打を量産して「怪童」と言われた。プロ入りしても殿堂入りしても「怪童」の愛称で親しまれている

▼ともに西鉄の黄金期を築き上げ、神様仏様と並び称された稲尾和久さんは「鉄腕」と呼ばれた。偉大な二人の先輩を意識してのことか、共同通信は金字塔を打ち立てた21歳投手を「怪腕」と書いた

▼埼玉西武ライオンズの平良海馬投手である。開幕から33試合連続で無失点を続け、プロ野球記録を更新中だ。新記録を懸けた13日の中日戦、4番からの好打順との真っ向勝負で出塁されながらも抑えた

▼登板機は試合終盤。勝っているか、同点の場面だ。僅差が多い。プロの打者がどうにか1点をと振ってくる。安打は許しても点は与えない。出番はいつか分からない。そのマウンドで最高の力を出せるよう常に備える

▼野球はあまり見ないという方にも分かっていただけるだろうか。これを3月26日の開幕から2カ月半以上、無失点で続けている。チームの信頼もあつく、ここまで全64試合の半数で登板した

▼八重山商工高時代の怪腕を見いだしたスカウトは強打者に挑む姿を江夏豊さんに重ねる。「記録にも記憶にも残る」大投手だ。レオファンやウチナーンチュの記憶に残り続けることは間違いない。

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