【MLB】菊池雄星、独特のレトリックに込めた投球の奥儀 “風邪の予兆”が高めた修正能力

インディアンス戦に先発したマリナーズ・菊池雄星【写真:AP】

13日のインディアンス戦では7回3安打無失点の好投も9回に中継ぎが追いつかれる

マリナーズの菊池雄星投手は12日(日本時間13日)の敵地インディアンス戦で、7回を3安打無失点、6奪三振の好投を見せた。勝利投手の権利を持ってマウンドを譲ったが、3点リードの9回に3番手のモンテロが2死から追い付かれ4勝目は消滅。チームは延長10回、タイブレークの末、サヨナラ負け。後味の悪い試合となったが、菊池は「自分の価値を見せられた」と胸を張った。

報われなかった7回0封の力投は、不安から始まった。

午後4時12分の開始時刻の気温は約23度。さほど高くはないが、エリー湖の南岸に位置するクリーブランドは、この時期から夏場にかけて湿度の高い日が続く。試合前のブルペン投球から汗が止まらず、プレーボール後も「試合に入り込めない」予感があったと言う。

3回まで、すべて先頭打者を許し、常に走者を背負った。4回、ばらついていた制球を安定させるため、片足の挙上位の姿勢を長めにして、反り気味だった体の中心線を本来の位置へと戻す修正を試みた。そこから安定し、降板する7回までの4イニングで許した走者は1人。この日の94球を新たな自信に変えた左腕は「こういう試合こそ、自分の価値を見せられると考え方を変えて頑張りました」と柔和な表情を浮かべた。

子どもの時は風邪を引くのか分からないが「大人になるとひき始めが分かりますよね」

序盤のもたつきを相殺できるのが今季の菊池である。5月半ばのタイガース戦では気負いが一因となり、横振りになった体をテイクバックで修正しているが、この日の問題点はどこにあったのか。あえて水を向けると、めずらしく、思っていることを効果的な言葉に変換するレトリックを使って説明した。

「小さい頃はどこから風邪をひくのかって分からないですけど、大人になるとひき始めが分かりますよね。僕の場合は、喉からよくきます。喉にきたら風邪をひくなっていうサインで、よくのど飴をなめているんですけど。のど飴をなめているから風邪をひかないっていったらそうでもなく。ピッチングって、そんな感じかなと思います」

難解ではあるが、「風邪の兆候」も「のど飴の効果」も、仮説は立てられる――。

初回、1番のヘルナンデスに四球を与えると、菊池は右足の着地点までスパイクを交互に出しステップをチェックした。制球を乱した際の修正ポイントの一つに挙げられる、歩幅の確認は「のど飴」を求めた時ではなかったか。それでもひきかけの風邪は進行する。「連動して出てきてちょっとバランスが崩れていた気はしています」。右足を挙げた立ち姿の微妙な反りがその症状だった。

菊池は、問題点に関して「それが分かれば1球で直せますから」と焦点化を嫌ったが、件のレトリカルな表現は、投球の奥義に触れる“あや”と言えば穿ちすぎだろうか。

いかなる日の投球も、担保になるのは体調の維持である。

「コンディションがベストの試合はなかなか多くはないと思うので、こういう試合をいかに立て直して1イニングでも長く投げる考えにすぐ切り替えました。結果的に7回までいけてゼロで抑えられたので、貴重な試合になったのではないかなと思います」

止まらない汗が一因となったバランスの崩れを克服し試合を作った菊池雄星。

ここまで足りなかったのは、「運」。これから先、左腕は、それを味方につけられるか。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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