時代の象徴、交友関係から中也を読み解く2展示 「正午」「君に会ひたい。」開催中

▲企画展「正午」の様子

 中原中也記念館(山口市湯田温泉1、TEL083-932-6430)で、企画展「中也、この一篇―『正午』」が開かれている。2階展示室で7月25日(日)まで。    

 中也の代表作をじっくりと味わうシリーズ企画「中也、この一篇」。1回目の「サーカス」、2回目の「帰郷」に続き、3回目は、日本最大のオフィスビルとして知られていた「丸ノ内ビルヂング」、通称「丸ビル」での風景を題材とした詩「正午」を取り上げた。    

 この作品は、丸ビルで働く大勢の人々が、正午を告げるサイレンを合図にして一斉に外出する様子を、「出てくるわ出てくるわ」といったリフレイン(繰り返し)の技法を巧みに用いて描かれている。「正午」の詩中に使われている言葉「丸ビル」「サイレン」「月給取」をキーワードにして読み解くことができる。     

 展示は三つのテーマで構成され、作家で中也研究の第一人者として知られる大岡昇平がこの詩から読み取った意味を紹介する「正午」、詩の制作当時、あるものの象徴として捉えられていた「丸ビルとサイレン」、中也とは真逆の生活「月給取り」の観点から、時代背景なども紹介されている。     

 また、同館1階では第18回テーマ展「君に会ひたい。―中原中也の友情」も2022年2月13日(日)まで(7月29日~9月26日の特別展示期間中は除く)開催されている。     

 この展示では、中也の友人8人を紹介。友人の中には文学者のみならず、文部省の役人や喫茶店経営者もいた。さまざまな友人たちとの関わりを通して、中也の人間性を垣間見ることができる。     

 展示構成は、小林秀雄、河上徹太郎、大岡昇平との交友を紹介する「文学を通じて」、一緒に生活をした関口隆克、九州旅行をともにした高森文夫とのエピソードを取り上げた「一緒に生活/一緒に旅行」、現存している手紙の中から、正岡忠三郎、竹田鎌二郎、安原喜弘宛てのものを取り上げて考察する「手紙からあふれる思い」の3部からなる。なお、展示のタイトルにもなっている「君に会ひたい。」は、中也が小林に宛てた手紙の結びに記した一文だ。 

▲友人・安原喜弘に宛てた手紙は中也記念館に収められてから初の展示

 「コロナ禍の中で、大切な人に『会ひたい。』けれど、会えない時期だからこそ見てほしい」と同館学芸員の原明子さん。     

 入館料は、一般330円、大学・高専生220円、18歳以下と70歳以上は無料。月曜(祝日の場合は翌日)と最終火曜は休館。開館時間は、5月から10月は午前9時から午後6時、11月から4月は午後5時まで。

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