もう“最強の1勝馬”とは呼ばせない「クリノガウディーと目指す夢・前編」

温かいクリノガウディーと筆者のツーショット

【赤城真理子の「だから、競馬が好きなんです!!!」】

競馬を知って3年。大好きな馬がたくさんできました。

私がもし、記者になる前から競馬ファンだったなら、きっとレースを見て馬を好きになっていたでしょう。もしくは競馬場のパドックで一目惚れすることもあったかもしれません。そして、その子たちの血が受け継がれた次の世代も好きになって、気付けば人間でいう孫、ひ孫…と応援していたんだろうな、なんて想像します。

でも現実の私は、競馬ファンになるより「競馬記者になった」のが先でした。競馬を見た経験はほぼゼロ。芝とダートコースなんてものがあるのも知らず、関西に住んでいながら阪神や京都競馬場の存在も知らなかった…。競走馬だって、日本に10頭くらいしかいないものだと思っていたんです。

何も知らずにトレセン記者になって、毎日が不安でした。こんなのに取材に来られたら相手も迷惑になるんじゃないか? 勉強していったところで所詮はにわか知識。余計に失礼になるのでは?

そんな不安を抱える毎日に希望の光をくれたのは、厩舎で会う競走馬たちでした。

「オーカショウ(当時はそう聞こえました)」というものすごいレースを優勝した馬だと紹介されたのがレッツゴードンキ。トレセンにいる馬はウン千万から億を超える値がすると教えられていたので、当時は近寄ることすら恐ろしかった私ですが、馬房から顔を出した彼女はこちらが勝手に感じていた分厚い壁を消すかのように、優しく鼻面を寄せてくれました。それがとても温かかった。

競走馬はオーナーの馬であり、厩舎の方々が精魂込めてお世話をしているのも踏まえ、敬意と遠慮とモラルを持って接さなければならないのは今も同じ。でも、ドンキとのふれあいで「近づくのすら恐ろしい」という気持ちが消え、本来の「動物が好き」だという気持ちを仕事においても取り戻せた気がします。そこからは、初心者にとっては難しい「競馬を見る」というより、「馬を見る」ことから始めるようになりました。

取材で訪れる厩舎で出会う、魅力的な競走馬たち。たくさんの馬に心を奪われ、その子たちがレースに出るときは胸が高鳴りました。頑張れ、頑張れと心から応援できるようになり、競馬を見るのが楽しくて仕方なくなったのです。一頭一頭についてはここでは語り尽くせませんが、今回は「この子の勝利が見たい」と願ってやまなかった馬についてお話しさせてください。

その馬の名前はクリノガウディー。私が初めて見た彼のレースは記者になったばかりの2018年朝日杯FS。同馬を管理する藤沢則厩舎の担当記者になり、レース前の厩舎で彼を見たとき、なんてキレイな馬なんだろうと思いました。光に当たると金色に見えるたてがみ、三日月型の流星。

「三日月というより、ひらがなの〝く〟じゃないかな? クリノガウディーの〝く〟、オーナーの栗本さんの〝く〟。いい模様だよねえ」と藤沢則調教師が笑ってそう教えてくれたのが懐かしいです。担当の丸田助手がレースのたびに「勝てる能力があるはずなのに…。〝最強の1勝馬〟なんて、本当は不名誉な称号ですよね。勝たせてあげたい」と願い続けてきたガウディー。

だからこそ、テレビの前で見ていた20年の高松宮記念は「勝った!!」と思ってしまっただけに、(1位入線)4着降着の結果には茫然自失となってしまいました。何度もパトロール映像を見て、「これは仕方ない」と分かっても、間違いであってほしいと願ってしまう。現場で藤沢則調教師や丸田助手はどんな気持ちなんだろう。想像するだけで悲しい気持ちになりました。

「(藤沢)則先生は、開口一番〝他の馬に迷惑をかけて申し訳ない。今から担当者を慰めてきます〟って言ってたよ。ほんと、人柄が出てる」

中京競馬場で仕事だった先輩からそう聞いたときは、余計に切なくなったのを覚えています。中京競馬場にいた他の調教師さんたちからも「ついみんなで則先生って応援してた。その場にいた全員が〝ガウディー!!〟って」とのお話を聞き、改めていつも優しい藤沢則調教師の人徳を感じました。

この高松宮記念を機に、その後は多少順調さを欠いてしまったガウディー。レース前に藤沢則調教師や丸田助手とお話ししていても、「あれ(高松宮記念)からどうも噛み合わなくて…」ともどかしい思いを聞くことが増えました。私は記者としても、ファンとしても応援することしかできないだけに、もう毎回神頼みするしかありませんでした。

ガウディーを勝たせてください、力を出し切るレースをさせてあげてください。

ずっとそう思ってきたので、今年5月の鞍馬S前に取材をした際、藤沢則厩舎の攻め専の一人である片山助手から「ガウディー、今回変わるかもよ」と聞き、取材そっちのけで質問攻めにしちゃいました。ガウディーにどんな変化が?

「今回、岩田(康)さんが乗ってくれることになったでしょ。この中間は岩田さん自身がそうしたいと言ってくれて、ずっと付きっ切りで調教をつけてくれているんだ。それがまた、ガウディーとファーストコンタクトを取った日から色々と考えてくれたみたいで、うちの調教パターンとは全然違うんだけど…。なんだか見ていてガウディーにハマっている感じがするんだよね」

その言葉どおり、最後の直線では若干インに切れ込みながらもズバッと伸びたガウディー。レース後は嬉し過ぎて、厩舎の大仲にお祝いのジュースをひと箱入れてしまいました。「重賞じゃないんだよ(笑い)。でも、ありがとう」と厩舎の方々には笑われましたが、それくらい嬉しかったんです。ガウディーが勝てたんだから。続く安土城Sも快勝し、もう誰にも〝最強の1勝馬〟とは呼ばれなくなりました。───なので私はずっと、“あの方”にお礼を言いたかったんです。(「クリノガウディーと目指す夢・後編」に続く)

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