バイデン政権の主要政策での実績と課題を考える 民主主義の修復、中間層のための外交、インド太平洋戦略

 バイデン政権は発足直後から入国禁止措置や気候変動対策、新型コロナ対応のため、異例の数の大統領令を多発し、強い指導力を発揮しながらバイデン色の政策を進めてきた。外交面でも、先週末のG7首脳会談にて、「アメリカは戻ってきた」と宣言し、民主主義国が結束して課題に立ち向かう重要性を訴え、バイデン時代の新しいアメリカ外交や国際協調の姿を示している。

 内政・外交の両面でトランプ前政権の政策を一転させ、民主主義の修復やグローバル課題への国際協調を進める覚悟を改めて強調したバイデン大統領だが、多くの難題が山積している。就任から約半年を迎えたバイデン政権の主要政策はどう進み、どのような課題に直面しているのか。各分野の米専門家3氏と一緒に考えた。

民主主義の修復の面では、まず過激派対策、多様性ある政府、人権擁護に注力

 「バイデン大統領の支持率を見てもアメリカの分断は根深い」と米世論調査機関ピュー・リサーチ・センター前ディレクターのブルース・ストークス氏は切り出した。
 「100日時点での支持率は、59%と歴史的に高い水準。しかし、高支持率は、支持率90%以上の民主党支持者や無党派層で支えられており、共和党支持者の支持率は18%程度に過ぎず、党派で大きな開きがある」と話す。

 世論調査結果からも改めてアメリカの分断の深刻さが再認識されたが、この約半年間、バイデン政権は「アメリカの民主主義の修復」にどう取り組んできたのか。

 カーネギー国際平和基金にて民主主義や社会の二極化問題を専門とするシニアフェローのアシュリー・クアルクー氏は、バイデン政権が就任後すぐに取り組んだこととして、3点を挙げる。

 まず、国内の過激主義対策、次に、女性やマイノリティを多く登用した包摂的な政権づくり、そして、ヘイトクライムなどの人権侵害への対応である。クアルクー氏は、様々な政治的・社会的イシューで意見が党派で大きく異なる米国内において、バイデン政権はまずは広く国民が支持する問題に注力する戦略を取ったと見ている。

 一方で、クアルクー氏は、民主主義の修復には難題が多いと話す。その一つである、「投票制限」の問題は、現在、議会で拮抗する民主・共和両党の勢力に直接影響をもたらすものとして支持者の間で意見が大きく対立する問題として政治化している。
 同様に国内を分断する問題として重要なのは、移民政策である。米国の世論もメキシコからの難民に強い反発を示しており、バイデン政権はこうした移民への排外主義的意識に真っ向から取り組めない状況が続いている。

 「投票権と移民政策への対応の是非がバイデン政権の試金石になる」とピュー・リサーチ・センター前ディレクターのストークス氏が指摘するのはそのため。国民の間で大きく意見が分かれる課題や感情的に高まる移民への反発にどのようにバイデン政権が対処するかも今後力量が試されると課題だと話す。

民主主義の修復は国内問題であるが国際的に結びついている重要課題

 バイデン大統領は、米国内の民主主義の修復と同時に、世界の民主主義国との協力も掲げている。米国だけではなく、世界中で民主主義が後退現象がみられる中で、バイデン大統領は何に取り組もうとしているのか。

 まず、重要なのは、ロシア政府による反政府リーダーの逮捕やミャンマーの軍事クーデターなど民主主義や人権の侵害に対し、バイデン大統領が一貫して断固とした措置を講じ、強力なシグナルを発信してきたことだ、とクアルクー氏は指摘する。

 同氏は、「世界で民主主義が後退している今だからこそ、アメリカが主導し、民主的な価値や規範を世界で今一度提唱すべきだ」と強調し、バイデン政権の取り組みを支持する。

 加えて、バイデン氏が意欲を示す「民主主義サミット」の開催について「民主主義国間の連帯を活性化する良い機会」であると評価し、選挙介入などの権威主義の影響から、民主主義国が一致団結して自由で開かれて民主的な制度を守り、支えていかなければならないと伝えた。

 そして、ストークス氏、クアルクー氏の両氏が一致した点は、民主主義という国内の課題も国際的な連携を持って取り組むべきだという意見だ。

 クアルクー氏は、国民目線から民主主義の正当性や問題解決力が薄れる中、各国が直面する問題をどう対処すべきか、民主主義国間で共通認識を共有し、連携することが重要だと主張する。加えて、ストークス氏も、「民主主義を国内政策の問題と思わず、他国の民主主義に問題があれば、民主主義国同士で声を挙げるべきだ」と語る。アメリカの民主主義が健全か否かは欧州やアジアの民主主義にも影響する、相互に関係する国際的な問題として各国が認識し、場合によっては非難の声を上げる必要があると語る。

「中間層のための外交政策」では、国民の声を外交政策に反映することを目指す

 次に、バイデン政権の外交政策について専門家はどう見ているのか。

 まず、バイデン時代の外交方針を判断する面で重要なのは、政権が発足1か月で打ち出した「中間層のための外交政策」という考えである。この外交政策については、米国外からはトランプ前政権時代の保護主義的、一国主義的政策の性格を引き継いだものではないかとの指摘もある。

 「これは自由貿易の理念に反する」と指摘するのは、外交・安全保障政策を専門とする新米国安全保障センター(CNAS)理事長のリチャード・フォンテーン氏である。例えば、政府調達で米国製品を優先する「バイ・アメリカン」法は、中間層の利益には叶うが、長年アメリカが推進してきた自由貿易政策とは相それない。また、トランプ政権時代に成立したアジア太平洋地域の二つの大きな貿易協定であるCPTTPやRCEPへの参加も近い将来は見通せないことから、トランプ政権から続く、内向き傾向や保護主義色は、バイデン政権化でも続くという判断だ。

 これに対し、クアルクー氏は、「中間層のための外交政策」は、アメリカ第一主義とは異なると説明する。バイデン政権は、歴代政権が国民の声を外交政策に反映させてこなかった点を反省。国民生活に密接に関係する政策については、市民を関与・教育をさせると同時に、外交政策への国民の関心を促し、バイデン政権が目指す「民主主義の修復」につなげる狙いがあると分析した。

中国とは長期的に競争関係、米世論も超党派で「強硬策」を支持

 最後に、重要な外交政策課題は、中国との関係だ。トランプ前政権時代に大きく悪化した米中関係であるが、バイデン時代はどうなるのか。

 フォンティーン氏は、「米中は先端技術や安全保障面など多くの分野で長期的に競争関係が続く」と分析。バイデン政権は何とか重要分野でアメリカが優位になれるよう努めるだろうと見通しを示した。

 これに加えて、世論調査分析を専門とするストークス氏は、「様々な政策課題で分断する米国民が党派問わず唯一一致する政策が対中強硬政策だ」と紹介し、世論の観点からも、バイデン政権は厳しい対中政策を取らざるを得ないとの見方を示した。

バイデン政権は、インド太平洋地域にアメリカの利益に資する地域秩序をつくるため、今後も多国間の枠組みを強化

 中国と対峙する上でもバイデン政権の外交政策の一つの要になるのがインド太平洋戦略である。元々はトランプ政権下で動き出した戦略であるがバイデン政権下でどう動くのか。

 フォンティーン氏は、インド太平洋戦略の中で特に日米豪印4ヵ国による「クアッド」との連携がよりバイデン政権下で進んだことを紹介。大統領就任後すぐに4ヵ国首脳会談を実施したことや、オペレーション面での4ヵ国間協力を進めるため、4ヵ国が同意しやすい感染症対策分野で東南アジアの国々に10億回分のワクチン供給を決めたことの意義を強調した。同氏は、バイデン政権のインド太平洋戦略は、最終的にこの地域にアメリカの利益に資する地域秩序をつくることにあるとして、今後も多国間の枠組みを強化するだろうと分析した。

 加えて、同氏は、この地域の平和と安定のために、日本の役割と日米連携の重要性を強調する。先の日米首脳会談では、この地域で最も紛争の危険性が増す台湾について、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を共同声明に明記するなどより踏み込んだ姿勢を示した日米政府だが、非公開の場では、台湾有事の際の対応まで議論がなされたのではないかとフォンティーン氏は見ている。「インド太平洋地域において、米中を除き最も力強い軍事力と能力を持つ日本との関係は特別である」と話す同氏は、日米同盟の役割を調整しながら、新たな脅威に順応していくことが大事だと締めくくった。

 バイデン政権がより民主的で包摂的、且つ人権重視の国内政策を打ち出し、対外的には多国間協力に軸足を置いていることは間違いない。「アメリカは戻ってきた」という言葉と共に、G7の民主主義国からも温かく迎えられた。難しい課題に残り約3年半の任期でどう進めるのか―各政策の成果は日本への影響も大きく、今後も注視したい。

記事:西村友穗(言論NPO国際部部長)
編集補佐:
 安部眞佳(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)
 久保田玲(ミシガン大学)
 日高実吹(明治大学)

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