歴代ロマンスカーが海老名に大集合

 【汐留鉄道俱楽部】小田急新宿駅から快速急行で45分、神奈川県の海老名駅のすぐ隣に「ロマンスカーミュージアム」がオープンした。鉄道史に残る名車のSE(3000形)から、2018年に引退したLSE(7000形)まで、歴代の小田急ロマンスカー5形式が大集合。オープンから約1カ月たった5月下旬に足を運んだ。

 

(左奥から)SE、NSE、LSE。1963年に誕生したNSEは、ロマンスカーで初めて運転席を2階に上げ、最前部が展望席となった

 インターネットで予約したチケット(大人900円)を購入し、エスカレーターで2階から1階へ下りたところが「ヒストリーシアター」。1927年の開業当時の電車「モハ1」が鎮座するすぐ隣の壁には、小田急の歩み、ロマンスカーの軌跡をたどるショートムービーが投影されている。アップテンポのジャズ、タップダンスの靴音に合わせて画面がどんどん切り替わる。レトロな車両に漂う重厚感と、映像のスピード感のミスマッチが不思議な雰囲気を醸し出していた。

 薄暗い廊下を少し歩くと、いよいよお目当ての「ロマンスカーギャラリー」。入り口に近いところからLSE、NSE(3100形)、SEと、バーミリオンオレンジとグレーに塗り分けられた3形式が並ぶのは壮観だ。天井の配管がむき出しの展示スペースは、検車庫をイメージしたという。照明を落とした空間に、現役さながらに前照灯、室内灯をつけた名車たちがくっきりと浮かび上がった。

 その中で、やはり目を引くのはSE(Super Express)だ。国鉄との共同開発で1957年にデビュー。優美な流線形のボディーに当時の先端技術を数多く取り入れ、同年9月には狭軌鉄道の当時の世界最高速度(145キロ)をマーク。第1回のブルーリボン賞を受賞し、新幹線開発の礎にもなった。

 

御殿場線仕様に改造されたSEの先頭車。この時に8両編成から5両編成に短縮されたため、ショートのSをつけて「SSE」とも呼ばれる

 SEは先頭車、中間車、先頭車の3両編成での展示。二つの車両を一つの台車でつなぐ「連接構造」は、現役のVSE(50000形)にも受け継がれている。中間車のドアが内側に開け放たれて中に入れるが、座席部分には行けない。それでも昭和の空気をまとった飾り気のない車内をじっくり観察することができた。最近の車両と違って、側面に座席ごとの小窓が整然と並ぶスタイルも好ましかった(窓が大きいほど景色は見やすいので、あくまでも撮り鉄目線です)。

 逆サイドの先頭車両を見ると、これが同じ形式?と驚くだろう。オリジナルの丸みを帯びた〝顔〟とは正反対の武骨な印象。これは68年の国鉄御殿場線電化後の乗り入れに際して先頭車に正規の連結器を設置し、その周囲を四角いカバーで覆ったためだ。〝目〟に当たる前照灯の位置も変わった。この編成は93年の保存に当たって一方の先頭車が原形に戻され、両端の顔が違う形になった。

 このほか、譲渡先の長野電鉄と富士急で活躍中のHiSE(10000形)、RSE(20000形)も保存されている。スペースにはゆとりがあるが、現役のVSE、GSE(70000形)、MSE(60000形)、EXE(30000形)が〝殿堂入り〟できる広さがどうかは微妙な気がした。一角では「展示車両の記憶」と題された搬入までのドキュメンタリー映像も見ることができる。

 再びエスカレーターで2階へ。施設のコンセプトは「〝子ども〟も〝大人〟も楽しめる鉄道ミュージアム」とのことで、ここから先はやや鉄分少なめだ。「ジオラマパーク」では、引退したロマンスカーと現役のロマンスカーの模型が、小田急の沿線風景を再現した巨大なレイアウトの中を駆け抜ける。大人気の運転シミュレーターなど、子どもが体験して楽しいコンテンツも充実している。

 役目を終えたロマンスカーを大切に保管し、ミュージアムの開館を実現した小田急に対し、最大の敬意を表したい。ただ、映像やジオラマでは「時間」の情報が欲しかった。計ってみるとショートムービーは4分間、搬入のドキュメンタリーは22分間の〝大作〟(それにしてはモニター画面が小さい)。ともに繰り返し流されていたが、足を止めて見るか、さらっと見て次に向かうか迷った。

 筆者がジオラマパークのフロアに足を踏み入れたとき、そこはほぼ真っ暗。大音量のサウンドとプロジェクションマッピングを駆使したショーが終わってようやく明るくなった。聞けば、始発から終電までの1日を30分間で再現し、15分間のショーを組み合わせた計45分のサイクル。昼の時間と夜の時間は同じ割合とのことだったが、せっかく精巧に作り込まれたジオラマを、ノーマルな光の下で楽しまずに帰る入場者がいるかもしれないと少し心配になった。

☆共同通信・藤戸浩一 スポーツ特信部勤務。SEは1編成が静岡県の大井川鉄道に譲渡され、筆者は1984年5月に蒸気機関車の〝ついで〟に撮影していた。NSEは向ケ丘遊園が最寄り駅だったころ、同駅停車の「さがみ」で乗っているが、写真は96年6月の箱根家族旅行で駅撮りした1枚しかなかった。

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