残した六つの大技と未来への種 体操・白井健三の軌跡

会見終了後、大学時代の同級生から花束を贈られ、笑顔の白井(中央)=日体大(立石 祐志写す)

 体操男子で2016年リオデジャネイロ五輪団体総合金メダルの白井健三(24)=日体大教=が16日、現役引退を表明した。

 「幸せな体操人生だった。これで後悔があるといったら周りの人に申し訳ないくらい」。

 若くして世界の頂をつかんだ逸材は、晴れやかに第一線を退いた。

 未練はないという。「(東京五輪の)最終選考会で自分の演技が床でできたので、満足した気持ちで終えることができた」。

 一点の曇りなく言い切る。

 世界デビューは鮮烈だった。

 岸根高2年時、17歳で挑んだ13年世界選手権。床運動で後に「シライ」と名付けられた新技を決め、五輪、世界選手権を通じて日本史上最年少の金メダルを手にした。高難度の技で果敢に攻める若武者は、周囲の熱視線に応え瞬く間に駆け上がっていった。

 16年のリオ五輪では床運動と跳馬で団体金メダルに貢献。種目別の跳馬でも新技を繰り出し、銅メダルをつかんだ。

 その後はスペシャリストからの脱却を図り、17年世界選手権の個人総合で銅メダル。次世代のエースへの道を突き進んでいた。

 だが、19年に暗転する。

 年明けに左足首を痛めた影響で世界選手権代表の座を逃すと、夏場には左肩を負傷。出来栄えを示すEスコアがより厳しく評価されるようになったこともあり、圧倒的な点数を稼ぐことができなくなった。

 苦境にあえぐさなか、芽生えた思いがあったという。「一度代表を外れてからはどんな形でも自分の体操を東京(五輪)の年までやりたいという気持ちが強くなった」。

 5年前に描いた帰結ではなかったかもしれない。それでも、現役最後の試合で振りまいた笑顔は理想を追い求めた競技人生を集約していた。

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