<社説>通常国会閉会 立法府の責務放棄した

 通常国会が閉会した。新型コロナウイルス感染拡大が収まらない中で、国民の命と暮らしを守るため会期を延長して徹底論議すべきだった。 今国会はコロナ対策や東京五輪・パラリンピック開催の可否について討論を尽くさず、改正国民投票法や土地規制法などの重要法案は熟議なく数の力で可決した。一方でLGBT法案は提出を見送った。日本学術会議会員の任命拒否など今国会に引き継がれた問題は解明されなかった。

 国民全体の利益を代表して行政をチェックする責務を立法府が放棄したと批判されても仕方ない。与党のおごりと野党の追及不足は否めない。

 新型コロナウイルスの緊急事態宣言を今月20日で解除した場合、専門家はワクチン接種が進んでいても東京では流行が再拡大し、8月に再び緊急事態宣言が避けられない恐れがあると警鐘を鳴らしている。再拡大に対応するために国会会期を延長すべきではなかったのか。

 党首討論で菅義偉首相は、コロナ対策と東京五輪開催について「国民の命と安全を守るのが私の責務だ。守れなくなったら開かないのは当然だ」と述べた。だが肝心の開催の前提となる判断基準を国会で示さなかった。

 にもかかわらず首相は英国で開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)で各国首脳から開催の支持を取り付けた。「外圧」に頼るような首相の手法は国会軽視であり、本末転倒である。

 改正国民投票法は、投票率の下限を定めず一部憲法違反の可能性が指摘された。与党推薦の参考人に「(衆参とも)熟議になっていないのではないか」と指摘されながら、衆参合わせて十数時間程度の論戦で成立させた。

 自衛隊や米軍基地などの土地利用を規制する法は、会期末ぎりぎりで成立させた。「安全保障」を理由に、思想・良心、集会、表現の自由や財産権を侵害し憲法に抵触する恐れがある。基地と隣り合わせの沖縄は、多くの県民が監視対象になることが懸念される。法案策定に携わった東京財団政策研究所の吉原祥子氏ですら「条文案を読むだけでは、さまざまな臆測が広がる恐れがあることは痛感した」と述べ、熟議を促したほどだ。

 首相肝いりのデジタル改革関連法案も「監視社会」の到来や企業による商業利用、個人情報の保護に多くの懸念を抱えたまま成立した。

 一方、LGBTなど性的少数者への理解増進を図る法案や、太平洋戦争中の空襲による民間人被害者を補償する法案などは提出が見送られた。

 積み残した問題も多い。菅首相の長男が絡んだ総務省接待問題は首相への忖度(そんたく)が解明されなかった。日本学術会議の会員候補任命拒否問題も究明が進まなかった。

 内閣提出法案を「白紙委任」するような審議では国権の最高機関の任を果たしたとは言えない。

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