第一回「ー復活おじさんの眼その1ー平野悠 東京郊外散歩紀行」

おじさんの眼 復活劇

Rooftop編集部から、「平野さんはロフトの広告塔なんだから、ちゃんと連載を書いてくれなければ困ります!」と宣告があった。 確かに現在、私の主戦場はFacebookになっている。しかも、無条件にお友達承認をしているので2,500名の人たちと繋がってしまっている。でもさ、このRooftopはいつのまにか月刊200万PVを達成しているとのこと。そろそろFacebookもTwitterも飽きが来ているし、編集のアイコ女史に週一回くらいは原稿を送ろうと思う。ただ、コメント欄がないし、ただ書きっぱなしなのは欲求不満だな。 とりあえず出かけてみようと思い、"朝寝坊した休日でもたっぷり楽しめる東京近郊「超小さな旅」という本"とうたわれていた『東京発半日徒歩旅行』を買ってみた。

埼玉県「風影ー顔振り峠ー黒山」

なんとも美しい地名だ。 いいですね。かおふりとうげ。 風変わりなその地名に惹かれて、登山を試みた。なんとなく哀愁を帯びた地名。飯能の先の奥秩父。西武秩父悟野駅へ。 平安時代、義経と弁慶が奥州に逃れるため、顔を振り返り振り返りしながらこの峠を越えたという。明治には幕府軍に味方した渋沢栄一の養子・渋沢平九郎が、飯能で幕府軍の官軍と激突。敗れた平九郎はこの顔振り峠に落ちて行ったそうだ。 平家の落ち武者の集落が点在する山道を1時間半ほど登る。 この地はまだ桜が満開だった。苦労して登った山々は、息を呑むほど絶景だった。 山また山のその谷あいの小道のはずれに一軒宿。 私は聞くともなく遠いヒバリのさえずりに耳を傾けている。 山を越えて石ころだらけの道に立つ。 今日の太陽は私の傷を照らす。 今日の桜は去らない。 雲が切れて見渡す奥秩父の山並み。 右側に川がゆっくり流れている。 コロナ禍の中、1日限りの小さないい旅をした。

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