日本株も新型コロナ収束のフェーズ?年後半は治療薬開発がカギ、国内の製薬企業にも注目

コロナ禍が続く中で、東京オリンピック開幕が予定されている7月がやってきます。オリンピック開催を前に、ワクチン接種も本格化し、経済回復の兆しも見えつつあります。

ワクチン接種のスピードは早期の新型コロナの収束、経済活動の正常化の重要なカギとなり、その行方は株式市場にも少なからず影響を与えています。今回は、2021年も折り返し地点となっているこのタイミングで、ワクチン接種と株価の関係性と年後半の相場のポイントを先取りしていきましょう。


ワクチン接種スピードの加速は株価に追い風となるか?

新型コロナ収束の重要なカギとされるワクチン接種ですが、株価にはどう関係しているのでしょうか。日本、アメリカ、ドイツの主要株価指数の推移の比較と日本のワクチン接種回数の関係性を見ていきましょう。

まずは日本のワクチン接種スピードです。2月半ばから医療従事者を対象に新型コロナワクチンの接種を開始しましたが、開始当初のワクチン接種率は低迷の時期が続き、先進諸国から大きく遅れていました。しかし菅首相が5月に早期の1日100万回接種を目標にかかげ、大規模接種会場の稼働も進んだことにより、5月半ば以降は1日当たりの接種回数も急激に増加し、体制整備が進みました。

続いて2021年の世界の主要株価指数の推移を見てみましょう。アメリカのNYダウやドイツDAXは何度か急落があったものの、上昇トレンドを維持し、年初から100営業日が経過した時点で、年初来約12%高で推移しており、6月に入り再度最高値更新を狙う位置につけています。一方で日経平均株価は2月に高値をつけるまで堅調に推移していたものの、3度目の緊急事態宣言が発令された4月から5月にかけては下落が目立ち、年初来ではアメリカ、ドイツと比べると5%以上遅れる形になっています。

株価の値動きには様々な要因が絡んでいますが、先に触れたワクチン接種スピード、並びにそれに伴う将来の経済の先行きの不透明感が少なからず影響していると言えるのではないしょうか。現に、年明けから積極的にワクチン接種を進め、感染抑制に成功したアメリカや欧州各国では、経済指標も急速に改善の兆しを見せています。緊急事態宣言が続き、2四半期連続でGDPマイナス成長が予想されている日本と比べると対照的です。

一方で、日本もワクチン接種回数が増加を見せはじめた5月後半からは株価も持ち直し傾向にあります。今後は接種対象が従来の高齢者から64歳以下に拡大し、普及が広がっていく中では感染抑制、加えて経済の先行きも明るくなるため、株価にとっても追い風材料となっていくことが予想されます。

夏場はオリンピックが絡んだ混乱に注意?

今後はワクチンの普及を背景に楽観視と行きたいところですが、夏場にかけては注意も必要でしょう。新型コロナの行方と政治面の不確実性です。

新型コロナに関しては、やはりオリンピック開催に伴う第5波の発生が心配されます。オリンピックで海外の選手や関係者の入国があることをはじめ、感染力が従来型よりも高いとされるインド変異株の市中感染も広まりつつあります。

また新型コロナの流行は、およそ4か月に1度、感染の山が作られる周期性も見られます。第1波が昨年4月、第2波が昨年8月だったことに加え、2021年に入ってからの動向を振り返っても、年末の流行のピークが1月に作られ、1月~3月にかけての緊急事態宣言による行動抑制をもってしても5月初旬に第4波の感染の山が作られています。今後もワクチン接種が進むとはいえ、行動が活発な64歳以下の接種が道半ばであることや、オリンピック開催があることから、第4波から4カ月ほど経過した8月から9月にかけて感染が再び拡大する可能性は捨てきれないのではないでしょうか。4月から5月後半にかけての感染ピークでは株価も軟調となったことから、引き続き相場を見るにあたり感染動向には注意を向けておくと良いでしょう。

そして、政治面での不確実性もあります。直近の動向を見ると、6月13日に閉幕したG7会合の共同声明で各国首脳からオリンピック開催の支持を得たことをはじめ、オリンピックは開催に向けて進んでいると言えるでしょう。一方で、先に触れたように開催が新型コロナの感染の波を作る要因となる可能性もあります。

無事に開催され閉幕した場合は、今後の経済回復の一歩目として華々しいスタートとなりえます。しかし、仮に感染拡大等につながった場合は再び緊急事態宣言や行動規制が発動され経済活動再開の足かせとなり、内閣支持率悪化を招く可能性も高く、オリンピック開催はハイリスクハイリターンな賭けであることは否めない部分があります。

夏場にかけてはワクチン動向だけでなく、オリンピックに絡む状況の変化にも目を向けるといいかもしれません。

年後半は新型コロナ治療薬の動向に注目か?

ここから3か月は不確実性の高い状況も警戒されますが、例年上昇の可能性が高い秋以降は上昇の期待が持てるかもしれません。昨年秋からの「ワクチン相場」の記憶が新しい方もいるかもしれませんが、今年の後半は「治療薬相場」に期待できるのではないでしょうか。

これまではワクチンによる感染の“予防効果”から相場が急回復・急上昇するフェーズでしたが、ワクチンはあくまで予防です。感染し発症してしまった場合の治療薬の出現は新型コロナの本格的な収束を意味するでしょう。

ワクチンにおいては、日本も開発を進めており、塩野義製薬(4507)が年内納品を目指し国産ワクチンの開発を進めてるものの、海外のファイザー、モデルナ、アストラゼネカなどの製品が主流となっています。しかし治療薬においては、日本の企業も世界と肩を並べる可能性があります。

国内企業では厚労省のコロナ治療薬開発支援補助の対象になっている中外製薬(4519)に注目でしょう。重症者に対する治療薬と重症化前の治療および予防に対する治療薬を開発しており、共に有効性、安全性を検証する第Ⅲ相試験(検証的試験)のフェーズにあります。後者の治療薬に関しては、5月に日本政府の確保に関する合意もしており、薬事承認された場合は国内に速やかに供給される準備も整いつつあります。

そのほかにも、富士フイルム(4901)の子会社が展開し、昨年日本での承認が見送れたものの再度臨床試験を行っているアビガンや、日医工(4541)、帝人(3401)グループの帝人ファーマなども治療薬の開発に着手しています。

治療薬の開発は中止の判断もいくつか出ており、実用化は簡単ではありませんが、もしこれらの治療薬が実用に至れば、日本の製薬セクターを中心に、新型コロナの不安感の払拭の期待から相場全体へのポジティブインパクトとなるのではないでしょうか。

複合的な要因が重なり、先が読めない状態ではありますが、好材料が増えてきているのも事実です。過度な楽観視は禁物ですが、いままでのコロナ動向を警戒しながら過ごす相場は最終局面に来ているかもしれません。

<文・Finatextホールディングス アナリスト 菅原良介>

© 株式会社マネーフォワード