Vol.11 ソニーがドローンに挑む意義[古賀心太郎のドローンカルチャー原論]

Airpeak S1がついに登場!

いま、このドローン業界をもっとも賑わせているニュースのひとつ、ソニーが発表したAirpeak S1。今年のCESで

吉田憲一郎CEOにより発表

されたこのドローンは、業界で大きな反響を呼び、この半年間、人々の注目を集めてきました。

そして2021年6月10日、ついにそのスペックが明らかにされ、

Airpeak S1

という商品名と、コンセプトムービーが公開されました。ソニーはいつだって、革新的で、洗練され、僕たちの日常をワクワクさせてくれるプロダクトを世に送り出してきました。そのソニーがつくるドローンに、世界中が期待しないわけにはいかないでしょう。

今回は、ソニーがこのドローンを開発した意義を、ひとりのドローンユーザーとして僕なりに考えてみたいと思います。

ソニーの意志を感じるAirpeak S1

2016年初頭にドローン業界で三強メーカーといわれたDJI、Parrot、3D Robotics。2021年現在においては、DJI以外のメーカーは、コンシューマー向けドローン市場からほとんど退いてしまったことは周知の通りです。

もちろん、他にも様々なドローンメーカーは存在しますが、価格帯が非常に高いものや一般消費者向けとは言い難いカスタムメイド的なものなど、DJIの優れたユーザビリティに対抗できるコンシューマー機は少なく、彼らに並ぶメーカーがマーケットに現れることはもうないのだろうかという空気が、業界にはこの数年漂っていました。

断っておきたいのは、DJIの機体に文句があるわけではないということ。むしろ短いサイクルで、ユーザーの予想のさらに上をいく優れた製品を次々と投入してくれるDJIはたいへん素晴らしいのですが、ただ1社がマーケットを支配している寡占状態は、やはり健全な市場とは言えないでしょう。だからこそソニーのドローン市場への登場は、業界全体がさらに活性化するのではないかという期待をもたらしてくれるのです。

Japan Drone展の初日、川西泉執行役員は、講演の中で「AI」「ロボティクス」「センシング」「イメージング」、そして「通信」、ソニーが持つこれら5つのテクノロジーを結集させた結果がこのAirpeak S1だと語りました。

Airpeak S1は、フライトコントローラー、IMU、ESC、モーター、プロペラに至るまでソニーの自社開発です。言わずもがなですが、これを成し遂げることは並大抵のことではありません。長年積み重ねてきた技術に支えられた、ソニーの本気のこだわりを強く感じます。

ドローンというものは、ひとたび故障すれば機体は落下し、場合によっては人命に関わる事故となる大きなリスクを孕むプロダクトです。だからこそ、失敗したときの社会的なインパクトは非常に大きい。操縦ライセンスや機体認証などが導入される今後の法環境からもわかる通り、クルマに近い存在だと言えます。

CESで公開されたソニーが取り組むEV「VISION-S」と並走するAirpeak S1のコンセプトムービーは、これらのプロダクトにまつわるリスクをはね退けるような力強い意志を感じたし、ソニーが社会に対して提示するある種のコミットメントのように僕は受け止めました。

撮影で感じたAirpeak S1の特長

僕は幸運にも、CESで公開された動画に続く、Airpeak S1のコンセプトムービーや機能訴求動画の撮影を担当するという貴重な機会をいただきました。

撮影には開発メンバーも同行し、僕たちの意見を元に現場で細かいチューニングを行ってくれました。ひとつひとつのフィードバックを真摯に受け止めてくれる彼らの姿を頼もしく感じたし、何よりとても楽しそうに開発をしていることが印象的でした。

どんなに小さい気づきでもいいから彼らのサポートをしたいと、自分がいつの間にかそんなふうに考えながら撮影に臨んでいたのも、純粋に技術開発を追求し、良いものを生み出そうとするソニー・スピリットを垣間見たからだと思います。

西表島や富士山周辺など、様々なロケーション、天候、シチュエーションで撮影を敢行しました。その撮影の中で感じたAirpeak S1の運動性能は、ひとことで言えば「ワクワク感」です。

例えば、最大速度90km/h、最大傾斜角度55degで飛行できるこの機体の初速は、まるで風を肌で感じるかのような、気持ちのいいダイナミックな映像をもたらしてくれます。空撮で表現したい手法のひとつである疾走感を、十分に満たしてくれる飛行性能です。

機体の回転角速度が最大180deg/sという驚異的な旋回性能を持っているので、感覚的には不可能かと思われる旋回半径で軽々とUターンしてしまうことに、きっと誰もが驚くでしょう。

また個人的には、最大速度を自由に設定できる機能が、撮影現場ではとても便利だと感じています。例えば、風の影響を受けつつ、マニュアル操作で揺らぎのない一定速度をキープするのはとても難しいので、安定した映像を空撮するのにとても重宝します(ドローンをドローンで空撮する際、同速度で並走できるため、この機能に大いに助けられました)。

しかし、何と言っても最大のポイントは、やはりソニーが誇るαシリーズで撮影できること。産業用途も視野に入れているとは言え、Airpeak S1はハイエンドなクリエイティブにおける空撮ユースを第一のターゲットとしています。そして、ここでソニーが提示してくれるのは、圧倒的な空撮映像の美しさです。

マーケットで一般化している、ドローンとカメラが一体型の機種の方が運用面では便利だし、昨今の小型カメラの性能向上は目覚ましいものがあります。正直、カメラをジンバルに搭載するタイプのドローンが、今現在どれだけのコンシューマーに受け入れられるだろうかという懸念を、個人的には持っていました。

しかし、αシリーズと豊富なレンズラインナップを自由に選択し、そこから映し出される美しい映像と写真は、ドローン空撮の素晴らしさを改めて、そして強烈に気付かせてくれました。空を飛んで、鳥の目で世界を見てみたいという純粋な想いで始めたドローン空撮。自分がドローンの映像に魅了された初心を思い出させてくれる、そんな力を秘めているのがAirpeak S1なのです。

近年のドローンによる空撮のトレンドには、様々なトリッキーな手法の競い合いが目立ちますが、ソニーが挑んだのは、奇をてらった映像表現よりも純粋に映像のクオリティを追求し、僕たちに感動をもたらしてくれるドローンをつくることだったのだと思います。

ソニーの文化とAirpeak

「人のやらないことをやる」というのが、創業当時からソニーに脈々を受け継がれている思想だと聞きますが、このAirpeak S1は、まさにこの精神のもとに開発されたプロダクトだと思います。

確かにドローン市場においては、ソニーは完全な後発です。しかし、ドローン市場に君臨する企業に対し、「もはや誰も勝てないのではないか」とも思われるこのマーケットに彗星の如く現れ、そこに堂々と参入する姿勢こそ、ソニーの「人のやらないことをやる」スピリットであると感じました。

開発担当者に伺ったのですが、今ソニーは全社的にコミュニティ形成をとても重要視しているそうです。ドローンは、ハードウェアだけでなく、ソフトウェアと組み合わせて価値を生み出していくものだから、ソニーだけでビジネスを作り上げられるとは考えていない。だからこそ、プロフェッショナルサポーターを募集したり、パートナー企業と力を合わせてビジネスを構築していきたいというメッセージを発信しているといいます。

ウォークマンも、プレイステーションも、AIBOも、いつだってソニー製品は新しいカルチャーを僕たちにもたらしてくれました。時代を象徴するアイコニックなプロダクトとして、人々のライフスタイルに大きく影響を及ぼしてきました。

「Airpeak」という名前には、空(Air)の領域で、ユーザーを最高峰(Peak)へ連れて行きたいという願いが込められてるそうです。ソニーのプロダクトを愛する人々がコミュニティを形作り、カルチャーとなってゆく。Airpeak S1も、きっと新しいカルチャーに繋がっていくのだと、強く確信しています。

© 株式会社プロニュース