浅香唯「セシル」C-Girl とのギャップに萌える昭和末期の名曲 アイドル四天王のひとり浅香唯、時代の転換期にトップに君臨したアイドルたちの軌跡

アイドル四天王のひとり浅香唯、表舞台には遅れて登場

1980年代に登場した多くのアイドルのなかで、80年代後半に活躍した中山美穂、南野陽子、工藤静香、浅香唯の4人は「アイドル四天王」と呼ばれ、昭和の末期に絶大な人気を誇った。

この4人のなかで、最も遅れて表舞台に登場したのが浅香唯である。「夏少女」でデビューしたのは、奇しくも南野陽子や中山美穂と同じ1985年の6月のこと。しかし、デビューして1年半は全く目立たず、レコード売上も奮わない下積み時代が続いた。この点、デビューした年に日本レコード大賞で最優秀新人賞を受賞した中山美穂、デビューから半年足らずで『スケバン刑事Ⅱ』の主役に抜擢された南野陽子、デビュー曲がいきなりオリコン1位を獲得した工藤静香とは対称的である。

そんな浅香唯に日が当たり始めたのは、TVドラマ『スケバン刑事Ⅲ 少女忍法帖伝奇』で主役に抜擢された1986年秋のこと。翌年1月には、主題歌「STAR」がオリコン9位にランクイン。人気に火が付いた。同年9月に発売したシングル「虹のDreamer」は、オリコン1位を記録。ドラマで共演した大西結花、中村由真と結成したユニット「風間三姉妹」名義で発売した「Remember」もオリコン1位となり、トップアイドルへの階段を、遅れを取り戻すかのように駆け上ってゆく。

切ない思いをしっとり歌う浅香唯の代表曲「セシル」

そんな浅香唯の代表曲といえば、化粧品CMのキャンペーンソングとして大ヒットして、「ザ・ベストテン」でも初の1位を獲得した「C-Girl」を挙げる人が多い。しかし私は、その年の秋に発売された「セシル」も、もうひとつの代表曲に推したい。

「C-Girl」に続く秋ソングとして発売された「セシル」は、少しセンチで哀愁が漂うバラードである。当時の私はこの曲を聴き、ノリノリな笑顔で歌うアップテンポの「C-Girl」から一転して、切ない思いをしっとり歌うミディアムテンポの楽曲を出してきたことに驚いた。

浅香唯といえば、セーラー服姿のスケバン、日焼けした夏少女といった、元気で健康的で負けず嫌いの印象があった。そんな少女が物憂げに切ない歌詞を歌うギャップに、たまらない魅力を感じた。ここに来て私も、だいぶ遅れはしたが、浅香唯のファンになったのである。

年齢に関係なく共感、大人心のツボをズバリと突くサビの一節

「セシル」と聞くと、80年代楽曲を聞いて育った世代にとっては、聖子とトシちゃんのCMで知られる「セシルチョコレート」の印象が強い。しかし、この曲で歌われる「セシル」とは、フランスの女流小説家、フランソワーズ・サガンの小説『悲しみよこんにちは』の主人公の名前なのだ。

作詞した麻生圭子によれば、この作品の主人公であるショートカットの少女が浅香唯とオーバーラップしたらしい。私はこの作品を、まさに「セシル」がヒットしていた学生時代に読んだ。確かに、小悪魔的な主人公の少女像は、浅香唯のイメージと重なるようにも見える(そこもまた魅力だ!)。しかし、この曲のテーマは、恋愛感情を超えて彼の心の支えに自分がなりたいという無償の愛。とことんピュアなのだ。

歌詞のなかで印象的なフレーズは、何と言ってもサビである。

 人は大人になるたび 弱くなるよね  ふっと自信を失くして 迷ってしまう  だから友達以上の 愛を捜すの  今夜私がそれに なれればいいのに

「人は大人になるたび弱くなるよね」の一節は、年齢に関係なく共感できる。誰もが年を重ねるたびに、普段は隠している心の中の弱さを抑えきれなくなるからだ。そうした大人心のツボを、浅香唯はこの曲でズバリと突いてくる。これがたまらない。

恋人ではなく「それ」になりたい、C-Girlとのギャップに萌える歌詞

そして、歌詞の中の女性は、あなたの恋人ではなく「それ」になれればいいのにと思う。「それ」とは、単純に歌詞を当てはめれば「友達以上の愛」だが、ここからは単にあなたに好かれたいという利己的な欲望を超えて、あなたの悲しみをなくしたいという高次元の愛を感じる。しかも、相手の男性の悲しみをどうにもできない自分の無力さを痛感している。

この切なさを歌い上げる浅香唯からは、ヨーヨーを飛ばす少女の面影はみじんも感じない。そして、水の中で彼とじゃれ合う「C-Girl」からのギャップに、ただ萌えるのだ。

最後にブレイクした昭和アイドル浅香唯

冒頭にも述べたが、他の四天王と比べてトップアイドルの座に立つのが遅れた浅香唯は、「C-Girl」と「セシル」で一気に追いつき、瞬間風速的には追い越したようにも思える。私自身も、他の3人の曲はかなり聴いていたが、浅香唯の魅力には「セシル」まで気づけなかった。しかし、ファンになってからは一気に惹き込まれた。そんな “にわかファン” の急増も、浅香唯を四天王に押し上げた要因ではなかったか。

しかし、浅香唯のアイドルとしてのピークは短く、昭和の終わりとともに人気も下降する。その意味で浅香唯は、最後にブレイクした昭和アイドルであった。そして、短い絶頂期に生まれた「セシル」は80年代アイドルソングの代表曲のひとつとして、また心が弱くなった時に、聴かれ続けるに違いない。

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※2021年4月20日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 松林建

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