ポール・マッカートニーとミック・ジャガーは今でも時代の先端を走っている! 2021年 4月16日 ポール・マッカートニーのアルバム「マッカートニー Ⅲ IMAGINED」がデジタルでリリースされた日

ミックとポール、相次いでデジタルリリースした新譜

4月13日、ミック・ジャガーがフー・ファイターズのデイヴ・グロールと制作した新曲「Easy Sleazy」をYou Tubeで突如リリースした。

それから3日後の4月16日、昨年12月に世に出たポール・マッカートニーの宅録盤『マッカートニーⅢ』の曲を様々なアーティストがリメイクしたアルバム『マッカートニーⅢ IMAGINED』がやはり配信でリリースされた。

ポールは今日79回めの誕生日を迎えた。ミックも来月78歳になる。この2人が35年後も第一線で活躍しているなどとは、1986年には到底想像が付かなかった。この年、2人はキャリアに於いて大きなピンチを迎えていたのである。

苦闘した1986年、ポール・マッカートニーとミックジャガーの共通点

拙コラム『ショック!ポール・マッカートニーのアルバムが全米チャート最高30位!?』でも書いたが、1986年のポールの『プレス・トゥ・プレイ』は、彼のキャリアでオリジナルアルバムとしては最低の全米30位に留まった。ポリスやフィル・コリンズのプロデュースで知られる当時の売れっ子ヒュー・パジャムを共同プロデューサーとして起用したが、その80年代的でコンテンポラリーなサウンドは残念ながら受け入れられなかった。

そしてザ・ローリング・ストーンズもこの年『ダーティー・ワーク』をリリースする。しかし前年1985年、ミックが初のソロアルバムをリリースし、7月のライヴエイドでもアメリカ・フィラデルフィアで、ミックはソロで、キース・リチャーズとロン・ウッドはボブ・ディランのサイドでと、別々にステージに立った。バンドの人間関係は上手く行っていず、『ダーティー・ワーク』はキースが主導権を持ってまとめ、MVでもミックとキースの険悪な雰囲気が映し出された。そしてアルバムリリース後、ストーンズがツアーに出ることは無かった。

偶々なのだろうが、1986年はポールにとってもミックにとっても底のような年だったのだ。因みにそこから復活するのが1989年というところも奇しくも一致している。

前代未聞の再構築アルバム「マッカートニーⅢ IMAGINED」

『マッカートニーⅢ IMAGINED』はリミックスアルバムでもカヴァーアルバムでもない。その両面を兼ね備えたアルバムだ。

リミックスしたのはセイント・ヴィンセント、ブラッド・オレンジ、EOB(レディオヘッドのギター、エド・オブライエン)、デーモン・アルバーン(ブラー、ゴリラズ)アンダーソン・パーク、3D RDN(マッシヴ・アタック)。

自ら歌いカヴァーしたのはドミニク・ファイク、ジョシュ・オム(クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ)。

そしてリミックスとカヴァーの中間的な意味合いを持つフィーチャリングはベック、クルアンビン、フィービー・ブリジャーズ。

90年代から2020年代まで幅広いミュージシャンが選ばれた。人選はポール自身だったが、曲の料理法はミュージシャンに委ね、音源が届くまでどんなものになったのか分からなかったそう。初めて聴く時の心境をポールは「クリスマスプレゼントを開けるような気分だった」と述懐している。

そしてその曲順も、『マッカートニーⅢ』とは全く異なるものになった。正に再構築。こんなアルバムが今までにあっただろうか。再構築にポールは “IMAGINED” という言葉をあてたが、前代未聞のこのアルバムに相応しい形容詞だと僕は思う。この言葉には勿論、ポールのかつての盟友の名曲も意識されているのであろうが。

3D RDN「ディープ・ディープ・フィーリング」が繋げた「Ⅱ」と「Ⅲ」

このアルバムで個人的に特に舌を巻いたのはアンダーソン・パークがリミックスした「ホエン・ウィンター・カムズ」である。ポールのオリジナルではアルバム最後を締めるギターの弾き語りだったのが、ピアノとジャンプビート風のドラムスの効いたリズミカルな小洒落たポップスに劇的に変身した。流石はこの4月にブルーノ・マーズとのユニット、シルク・ソニックでシングル全米No.1になった売れっ子だけのことはある。

そしてもう1曲胸を打ったのがアルバム最後の3D RDNリミックスの「ディープ・ディープ・フィーリング」である。『マッカートニーⅢ』でも最長で、賛否が分かれたこの曲に、なんと拙コラム『テクノに大胆アプローチ! 宅録アルバム「マッカートニーⅡ」のブッ飛んだ魅力』でも取り上げた1980年の『マッカートニーⅡ』の「テンポラリー・セクレタリー」がサンプリングされているのである。

『Ⅱ』と『Ⅲ』が、実に40年の時を越えて違和感無く繋がった。この2曲に通底するポールのアヴァンギャルド性すら見えてくる。

マッシヴ・アタック、粋なことをするものである。

『マッカートニーⅢ IMAGINED』は配信から遅れること3カ月、7月23日にボーナストラックを1曲加えCDとLPでリリースされる。いち早く配信でリリースしたのは、やはり若い世代に聴いて欲しかったからではないだろうか。絶えずコンテンポラリーな音楽との接点を保って来たポール。今回、その試みはとてもいい形で実を結んでいると僕は思う。『マッカートニーⅢ』の曲の充実も、現代の音楽状況も分かる1枚で2度おいしいアルバムだ。

『マッカートニーⅢ』は真っ正面から向き合わなくてはならない緊張感を有していたが、『IMAGINED』には、テレワーク時でも流しておける取っつきやすさがある。

You Tubeで新曲公開、今という時をしっかりとつかむミック・ジャガー

ミック・ジャガーwithデイヴ・グロールの「Easy Sleazy」は陰謀論者や反ワクチンを嗤いつつ、新型コロナウイルスのパンデミックからの脱出への希望を歌った曲だ。いつになくパンキッシュなのはミックが表現したいことをそのまま歌にしているゆえんか。

数か月経つと古くなってしまうと、ミックはYou Tubeでの公開を急ぎ、その後この曲は未だフィジカルのみならずサブスクにも出ていない。歌いたいことを歌い、即世に出す。実にロック的であり、更には現代的ではないか。ポールと形は異なれど、ミックも今という時をしっかりとつかんでいる。

マルチプレーヤーであるデイヴ・グロールはポールとの共演歴も何回かある。そして、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのアルバムにデイヴをドラマーとして迎えたり、ゼム・クルックド・ヴァルチャーズというユニットをデイヴと組んだジョシュ・オムは『マッカートニーⅢ IMAGINED』で「ラヴァトリー・リル」をカヴァーしている。

ポールとミックの接点、ここにあり。

すっかり2021年の話になってしまったが、35年前苦闘していたポールとミックが未だに時代の先端で活躍している姿には、こんな時代だから尚のこと励まされてしまう。

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カタリベ: 宮木宣嗣

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