コラム【薬剤師養成検討会のとりまとめ案】調剤報酬改定2022への布石を読み解く

【2021.06.18配信】厚生労働省が「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」で進める「とりまとめ」。6月中にも最終稿の公表を目指すが、この「とりまとめ」は公表後に、どのような影響を及ぼすのか? 薬局の資質向上を図る策としては、当然のことながら調剤報酬による政策誘導が考えられる。

そもそもこの検討会は「薬剤師の養成」と「薬剤師の資質向上」の2つの柱があり、実に広範なテーマを議論している。
こうした広範なテーマの“出口”はどこなのかというと、「とりまとめ案」の「おわりに」の項にヒントがある。「おわりに」では以下のように記述している。

“本検討会の検討対象となった薬剤師の養成や資質向上等に関する事項は、薬剤師法や薬機法に基づく制度のほか、学校教育法など薬学教育に関する制度、医療法における医療計画や地域医療介護総合確保基金での対応、医療保険制度や介護保険制度における報酬上の措置など関連制度が密接に関係する。そのため、それら関連制度の検討にあたっては、本検討会での議論を踏まえることが期待される。また、今回の需給推計を含むとりまとめに関しては、需給調査をすべきとの指摘があった社会保障審議会医療部会でも必要に応じて報告・議論することが適当と考える”

薬学部に関することは学校教育法を含め文科省でのテーマにもなるし、地域偏在解消策に関しては地域医療介護総合確保基金での議論にもつなげることが求められる。また社会保障の方針を考える社会保障審議会医療部会でも、このとりまとめに記載の内容が取り上げられることが望ましいといえる。

そして、注目は「医療保険制度や介護保険制度における報酬上の措置」と明記している点だ。つまり、調剤報酬の事項となり得ることを明示している。

では、とりまとめの文言から、どのような調剤報酬上の措置が考えられるのか?
深読みしたい。
以下、“ ”内はとりまとめ案の前提となる「はじめに」の章の文言。【】内はとりまとめ案の「提言」の章の文言。

■薬機法の地域連携薬局や服薬フォローを評価

“法改正により、調剤後の継続的な服薬状況の把握・指導が義務づけられたことも、服用期間中の薬物療法に積極的に関わっていくことを求めたものであり、患者に寄り添った対応が必要である。また、本年8月からは認定薬局(地域連携薬局、専門医療機関連携薬局)制度が施行されるが、医療機関等と連携しながら薬剤師の専門性を発揮していくことが今後期待される。”

この項では、薬機法上の地域連携薬局や専門医療機関連携薬局、そして服薬フォローに対した評価の可能性がうかがえる。
薬機法の規定を調剤報酬に紐づけることに関しては、医療側からも反対意見が根強いが、本来はあるべき医療体制(医薬品供給体制を含め)を実現するための事項であり、政策的にインセンティブは付けることはむしろ自然といえる。認定への労力等を考慮すれば、インセンティブなき推進が現実的に難しい面もあるだろう。

■CDTM深化で薬局の業務を効率化

“地域包括ケアシステムの中で役割を果たすためには、各地域の実情に応じ、他の職種や医療機関等と連携し、それぞれの役割を整理のうえ、患者に対して一元的・継続的な薬物療法を提供することが重要であり、そのためには、医療機関等の業務、他の職種が担う役割についても理解しておくことが必要となる。特に、医療機関との連携に関しては、医療機関における患者の治療状況も含め、医療現場の業務を理解しておくことが必要であり、医療機関における会議・研修等に参加することなどの連携を充実させるための取組が効果的である。また、介護施設や居宅における在宅医療へ関わるために、介護関係施設等との会議・研修等への参加も同様である。”

ここで注目できるのは「医療機関の業務を理解」との文言だ。これまでもCDTM(共同薬物治療管理業務やPBPM(プロトコールに基づく薬物治療管理)の重要性は指摘されてきたが、これらをお互いに深化させること政策が進みそうだ。これらにより、薬局における薬物治療も効率的に行うことにつながる。

ICTの項でも以下の文言がある。
【電子処方箋による処方薬を含む患者情報の共有化、薬剤師業務の質を向上させるための医療機関等との連携方策に取り組むべき。(電子処方箋の早期実現、それにともなう患者情報の活用方策、プロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM)の推進など、医療機関等と連携を進めるべき。)】

■敷地内薬局だけを問題視はしない?

“なお、医療機関の敷地内に薬局が開設されることがあるが、単に同敷地内の医療機関とだけ連携し、当該医療機関の患者の処方箋応需に特化する状況であれば、その医療機関に依存することとなり、地域の医療機関、薬局等と連携しつつ、地域包括ケアシステムの一員として患者・住民を支えていく役割が果たせず、患者本位の医薬分業とはならない。これは医療機関の近くにあるいわゆる門前薬局においても同様である。”

この項では日本薬剤師会が提言している敷地内薬局の問題に触れている。しかし、文末に但し書きがあり、敷地内であろうと門前であろうと、特定の医療機関に依存する運営そのものに問題があるとの認識を示し、敷地内薬局だけを特別視はしない方針に読み取れる。
日本保険薬局協会では集中率で「調剤基本料」に大きな格差を付けることに反対しているが、今後もこの潮流を変えるには厚い壁がありそうだ。

■オンライン資格確認やICT推進を評価

“服薬状況の把握・指導、医療・介護関係者との連携等の業務は、今後 ICTの活用等により、医療の質を向上させつつ、より効率的に行っていくことが必要となる。今後はデータヘルス集中改革プランの進展に伴う電子処方箋やオンライン服薬指導等の取組により、薬剤師が扱う患者情報を含め業務が大きく変わっていくことが予想される。このような動きも踏まえ、ICT を活用した薬剤師の業務を積極的に考えていくことが必要となる。”

オンライン資格確認や電子処方箋をはじめ、薬局だけでなく医療の効率化を図るためには、基盤をつくっていく必要性がある。これらの推進役に薬局も手を挙げることは重要であるため、貢献度に応じた手当てもあるかもしれない。

■「調剤業務」への表現は限定的

“対人業務を充実する一方で、調剤業務の機械化、薬剤師以外の職員による対応等により対物業務の効率化を進めるとともに、医療安全の確保に必要な管理体制等の検討も必要となる。”

【対人業務の充実と対物業務の効率化のためには、薬剤師しかできない業務に取り組むべきであり、それ以外の業務は機械の導入や薬剤師以外の者による対応等を更に進める必要があるが、その際には、医療安全の確保を前提に見直しを検討することが必要である。(例:調剤機器の精度管理などメンテナンス、薬剤師以外の職員に対する研修などによる資質の確保、調剤の内容の多様化への対応、多剤の適切な服用のための一包化などの作業を含めた対応)】

当メディアで「検討会で今後議論される調剤業務の見直しは、調剤効率化や外部委託・40枚規制見直しを提言した規制改革推進会議に端を発している」と報じたが、とりまとめ案の記載は限定的だった。どのような観点で議論が進むのかも、今後の検討会次第になりそうだ。
この項に関しては、調剤報酬に紐づけるというよりは、規制の在り方をどう考えるのかの観点になりそうだ。

■OTCを要件化?

“薬局は民間による運営が大半を占めるが、医療法において医療提供施設とされ、薬機法において医薬品を安定的に供給することが求められている、公的役割を担っている施設である。そのため、その業務を調剤に限ることはあるべき姿ではなく、医薬品の供給拠点としての役割を果たしていく必要がある。(法改正により薬局の定義が改正され、薬局は調剤だけではなく情報提供や薬学的知見に基づく指導の業務を行う場所であるとともに、医薬品の販売業の業務を行う場所であることとされている。)”

“薬局では住民の生活を支えていく取組も必要となる。健康に関する関心・正しい理解、予防・健康づくり(セルフケア)を推進し、症状に応じて適切な市販薬を使用するセルフメディケーションを支援するため、要指導医薬品・一般用医薬品、薬局製剤、衛生材料、介護用品等の提供や必要な情報提供・相談対応等の健康サポート機能の取組が必要である。(例えば、薬剤師による薬の相談会の開催や禁煙相談の実施、健診の受診勧奨や認知症早期発見につなげる取組、医師や保健師と連携した糖尿病予防教室や管理栄養士と連携した栄養相談会の開催など)

この項では、セルフケアやセルフメディケーションが強調されている感を受ける。健保連ではOTCの品揃えを調剤報酬上のかかりつけ薬剤師指導料などの要件にすることによる底上げを提案しており、何らかのインセンティブ化の可能性はあるのではないだろうか。

■コロナや緊急避妊薬への貢献はどう評価する?

“災害時の医薬品供給や衛生管理(避難所等の消毒、感染症対策等の対応等)や学校等での公衆衛生(環境衛生、薬物乱用対策等)、感染症防止対策等への対応も求められる。今は新型コロナウイルス感染症対応、特にワクチンの一連の接種体制への積極的な関与も重要な役割である。(医療機関の薬剤師も同様)”

“また、緊急避妊薬の取扱いにあたっては、現在はオンライン診療に伴う緊急避妊薬の調剤の対応に関する研修が進められているが、薬剤師として女性の健康に関する相談等の適切な対応もできるようにすべきである。”

これらは社会から要請の高まった事項であり、調剤報酬上でどう評価するのかは注目したい。

■地域での薬局同士の連携は難題だけにテコ入れか

“薬局は小規模で薬剤師が少人数の施設が多いが、今後、薬局に求められる役割・業務の充実を考えると、小規模の薬局では単独で全ての役割を担うことが困難になることも考えられる。そのため、地域で求められる薬局・薬剤師サービスを提供する観点から、薬局間で業務を補完するような連携についても考えていく必要がある。”

今後、地域で安定した医薬品供給や過不足ない地域医療医療を構築していくためには薬局同士の連携は不可欠となる。ワクチン接種や緊急避妊薬、在宅医療をみてもそれは顕著だ。セルフケア支援や公衆衛生向上の施策への貢献をするためにも、重要となってくる。
一方で、これまでも無菌調剤や在宅領域で政策を打ってきたにもかかわらず、進んでいない。
発展途上な領域だけに今後、テコ入れが検討される可能性はあるのではないか。

■「脱・調剤」をどう後押しするのかに注目

【(調剤以外の業務) 特に薬局は、要指導医薬品・一般用医薬品の提供も前提に、処方箋に基づかない業務に取り組み、薬事衛生全般にわたっての薬剤師職能の発揮が求められる。(例:健康サポート業務、セルフケアを推進する中でのセルフメディ ケーションを支援する対応、感染症に関して感染防止対策や治療薬・ワクチンの対応、公衆衛生の対応、薬物乱用対策への対応、学校における健康教育など)】

当メディアでも報じてきたように、とどのつまり、焦点は「脱・調剤」である。逆説的ではあるが、調剤報酬という政策を活用して、どう薬局の脱・調剤化に結び付けていくのかが、「調剤報酬改定2022」の要ではないだろうか。

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