全盛期を代表する「秋のIndication」南野陽子はロングヘアーをばっさりカット! アイドル四天王のひとり南野陽子、時代の転換期にトップに君臨したアイドルたちの軌跡

1987年の阪神タイガース、そして飛ぶ鳥を落とす勢いの南野陽子

1987年は、阪神タイガースにとってこれ以上ないほど災難に見舞われた1年だった。開幕前の3月22日に掛布雅之が酒気帯び運転で逮捕されると、その5日後にはランディ・バースもスピード違反により検挙。シーズンに入っても首脳陣同士のいざこさが相次いだり、以前から囁かれていたバースと吉田義男監督の対立が表面化するなど、チーム内に燻っていた火種が一気に燃え盛ったのだ。

肝心の野球でも、つい2年前のフィーバーが嘘のように負けまくり、球団史上ワーストの83敗(勝率 .331)という惨憺たる成績でフィニッシュ。全試合終了後の10月12日には球団内で意見が分かれた吉田監督の去就について、約8時間にも及ぶ緊急役員会の末に解任が正式決定した。空前絶後の猛虎フィーバーを率いた吉田政権は、わずか3年間で完全瓦解したのである。

その座を引き継いだのはお膝元・兵庫県出身の村山実だった。かつては選手兼任監督も務めた “2代目ミスター・タイガース” が、16年ぶりに古巣に帰ってきたわけだ。

一方この頃、テレビの世界では同じ兵庫県出身の、あるアイドルが飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍していた。今や日本が誇る巨大IT企業「電脳雑伎集団」(※1)の社長婦人と言ったほうが通りが良いだろう。そう、南野陽子である。

最盛期の1曲「秋のIndication」アイドルソングらしからぬ変則的構成

阪神のお家騒動が連日スポーツ紙を賑わす最中にリリースされた「秋のIndication」は、ナンノ9枚目のシングルにして4作連続でオリコン1位を獲得。まさに全盛期を代表する1曲といえよう。タイアップした江崎グリコ「セシル コーヒーチョコレート」のCMには本人も出演した。

瀟洒(しょうしゃ)な洋館をバックに、庭園でブラウンのボレロとスカートをひるがえすナンノの姿は清楚でいてエレガンス。同時期のアイドルのなかでも際立つ気品は、兵庫という環境に育まれたものだろうか。商品のキャッチコピー “溶け味、ル・ル・ル” を意識して作られたであろう「♪ ルルルほろ苦い ルルル青春は きっと大切な季節」というサビがCMでは使用されているが、実は原曲ではこのサビは1フレーズしか登場しない。

この曲の特徴は、なんといってもアイドルソングらしからぬ変則的な構成にある。A、A’、A、A’、サビ、A ―― ぱっと見、曲として成立していないようにも思えるが、これを全く違和感なく収めているのが作編曲を担当した萩田光雄の職人技だ。印象的なAメロは同じメロディを短調と長調で反復し、それを繰り返す。まるで秋風に移ろう女心のように。

爽やかな別れ歌、ロングヘアーもばっさりカット!

歌詞をみても、1番では「♪ ひとりで生きてゆける 気がするから 心配はしないでね」と前向きな姿勢が感じ取れるが、2番では一転して「♪ やさしさ思い浮かべ 自信がほら またひとつ後ずさり」と弱気の虫が顔をのぞかせる。

そしてラストでは「♪ さよなら ひとつ越えて 素敵な大人に 少しずつなるために」と、別れを糧にする決意をみせて締めくくるが、この部分は短調なので物悲しさも漂う。きっとこの主人公は、こうして短調と長調を行き来しながらも “素敵な大人” に近づいていくのだろう。

アコースティックギターの音色も相まって、ともすれば陰鬱な未練ソングになってしまいそうな曲調だが、これをナンノが歌うと爽やかな別れ歌に聞こえるから不思議だ。当時の音楽番組の出演映像を見ると、イントロの物憂げな表情と、アウトロで浮かべる笑顔とのコントラストが印象に残る。ここが他のアイドル達とは少し違う、ナンノの “強さ” を表現しているようで、私は好きだ。

また、デビュー当時からのロングヘアーをばっさりカットし、ボブを披露したのもこの歌のリリース時期だ。女性が失恋して髪を切るのはよくある話だが、ちょうど歌の内容にも合っていて非常にいい。

さすがは二代目スケバン刑事、ナンノのムチャぶりと萩田光雄の手腕

しかし驚いたことに、この変則的な楽曲構成を指示したのはナンノ自身だというのだ。「Aメロの中にメジャーとマイナーがある曲を歌いたい」という無茶ぶりで発注したところ、萩田氏が見事にこの曲を作ってきたそうだ。

20歳にして大物アレンジャー相手にこんな要望を出してしまう図太さは大したもの。さすがは二代目スケバン刑事である。

最後に、話を阪神に戻すと、待望の村山監督もダメ虎を立て直すことはできず、6位、5位と低迷した挙句にたった2年でユニフォームを脱ぐことになった。現役時代は迫力あるザトペック投法でONのライバルとして君臨した村山も、さすがにこの成績では “ナンノこれしきっ!”(※2)というわけにはいかなかったのである。

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※1:電脳雑伎集団
銀行を舞台にした人気ドラマ『半沢直樹』で、南野陽子が副社長を務めていたIT企業の名称 ※2:ナンノこれしきっ!
ニッポン放送系列で1986年から1990年にかけて放送された、南野陽子がパーソナリティを務めたラジオ番組『南野陽子 ナンノこれしきっ!』から。

※2020年10月12日に掲載された記事をアップデート

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