父親の存在感

 実際に聞いたことはないが、「中年男の唄」という古い曲があり、歌詞をたまたま本で目にした。遠藤周作さんがユニークな詞を残している。〈息子よ 俺をバカにすな/ニキビの生えた その面(つら)で〉…。息子さんが生意気盛りだった頃の一作とおぼしい▲〈あんまり俺をナメとると/俺はこのうち 出て行くゾ/出て行くッタラ 出て行くゾ〉。「出て行け」ではなく、なぜ父親の方が「出て行く」のだろう。遠藤さんのエッセーのように何だかおどけている▲息巻いても迫力に欠ける世のお父さんたちにも、歌詞はどこか通じている。あすは「父の日」で「影が薄い」とよくいわれるが、お父さんが迫力ならぬ存在感を示す日になるといい▲日本生命保険のアンケート結果によれば、贈り物をする人が母の日よりも少ない傾向は、例年と変わらない。その訳は「何を買えばよいか分からない」「面倒くさい」が上位という▲気持ちをどう表せばいいんだろう。ちょっと照れくさい。「何を買えばよいか分からない」人にはそんな思いがあるかもしれない▲本紙「きょうの一句」にかつて載った、松田京子さんの作がある。〈父の日や生涯巨人ファンのまま〉。人それぞれ、父親に寄せる思いがある。気持ちをどう形にするか迷う人がいて、昔日の面影をしのぶ人もいる。(徹)

© 株式会社長崎新聞社