踊る2つの小さな星。ハッブル宇宙望遠鏡が観測し続けた褐色矮星の連星の動き

【▲ 3年かけて観測された褐色矮星の連星「Luhman 16」の天球上における見かけの動き(Credit: ESA/Hubble & NASA, L. Bedin et al.)】

こちらの画像、幾つもの光点が連なる不思議な姿の天体が写っているように見えますが、実は3年ほどの間に撮影された12枚の画像を1つに合成したものです。光点の連なりとして写っているのは、南天の「ほ座」(帆座)の方向およそ6.5光年先にある「Luhman(ルーマン)16」です。Luhman 16は、2つの褐色矮星「Luhman 16A」と「Luhman 16B」が互いを公転し合う連星です。

褐色矮星は恒星と惑星の中間にあたる天体で、天の川銀河だけでも数十億個存在すると推定されています。恒星はその中心部で起きる水素の核融合をエネルギー源として輝きますが、褐色矮星は中心部で水素の核融合が起きないので、恒星のように自ら明るく輝くことはありません。Luhman 16は太陽系から比較的近い場所にある天体ですが、2013年になるまで発見されていませんでした。

恒星と褐色矮星の境目となる質量は木星の約75倍(太陽の約7パーセント)、惑星との境目となる質量は木星の約13倍とされていて、Luhman 16AとLuhman 16Bの質量はどちらも木星の30倍前後と推定されています。なお、Luhman 16Aの表面には縞模様が存在するのではないかとする研究成果が2020年に発表されています。

【▲ Luhman 16Aを描いた想像図。左奥に見える赤い点はLuhman 16B(Credit: Caltech/R. Hurt (IPAC))】

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冒頭の画像は地球から観測したLuhman 16AおよびLuhman 16Bの見かけの動きを示していますが、なぜこのような形を描くのでしょうか。まず、天体はそれぞれ独自の速度でいずれかの方向に運動していて、互いの相対的な位置は少しずつ変化しています。そのため、地球から天体の位置を測定すると、各々が長い時間をかけて天球上を移動しているように見えます。この見かけの動きは「固有運動」と呼ばれています。

いっぽう固有運動とは別に、地球から観測した天体は1年周期で天球上に円(楕円)を描くような動きも示します。これは地球が太陽を公転しているために天体の見える方向が日々少しずつ変化することで生じる現象で、「年周視差」と呼ばれています。一般的に、固有運動や年周視差は近距離にある天体ほど大きくなります。

観測される見かけの動きは固有運動によるものが直線年周視差によるものは楕円になりますが、この2つが組み合わさることで「ω(オメガ)」や数字の「3」を描くような動きに見えるのです。Luhman 16の周辺だけを捉えた画像を見ると大きく動いているようにも思えますが、実際の動きは2年間で満月の見かけの直径の約300分の1(約6秒角)とされています。

【▲Luhman 16AとLuhman 16Bの動きを示したアニメーション▲】
(Credit: ESA/Hubble, L. Bedin et al.)

さらに、Luhman 16は連星であるため、地球から観測されるLuhman 16AとLuhman 16Bの位置は公転運動によっても変化します。固有運動と年周視差による見かけの動きに連星の公転による位置の変化が加わることで、時間を空けて撮影した画像を合成すると冒頭のように複雑な光点の連なりになるわけです。

冒頭の画像は「ハッブル」宇宙望遠鏡の「広視野カメラ3(WFC3)」による可視光線と近赤外線の観測データをもとに作成されたもので、欧州宇宙機関(ESA)からハッブル宇宙望遠鏡の今週の一枚「Waltzing dwarfs」(ワルツを踊る(褐色)矮星)として2017年6月5日付で公開されています。

【▲Luhman 16の固有運動(proper motion)、年周視差(annual parallax)、Luhman 16Aと16Bの公転運動による動きを再現したシミュレーションモデル。上段は3つの動きを合わせたもの、下段左は公転運動による動き、下段右は年周視差による動きを示す▲】
(Credit: Luigi R. Bedin (INAF OAPD))

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Image Credit: ESA/Hubble & NASA, L. Bedin et al.
Source: ESA/Hubble / MEDIA INAF
文/松村武宏

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