<社説>米ロ首脳の共同声明 中国交え核軍縮推進を

 バイデン米大統領とロシアのプーチン大統領による初の直接会談が16日、実現した。バイデン政権発足後初めてだ。 両氏は、新戦略兵器削減条約(新START)が5年後に失効することを見据え、核軍縮やリスク軽減措置を話し合う「戦略的安定対話」を始めることで合意した。米ロ関係は冷戦後、最悪と言われていただけに、軍縮に向け歩み寄ったことを評価したい。

 元外務省主任分析官の佐藤優氏が19日付本紙で述べているように、両首脳が「軍事衝突、核戦争の脅威を減らす」という目標に合意した意義は大きい。軍拡を推し進めている中国も含めて多国間で協議の枠組みをつくり、核軍縮を推進してほしい。

 首脳会談に至るまで米ロ関係は悪化の一途だった。対米サイバー攻撃疑惑や人権問題など対立点は山積し、今なお予断を許さない。バイデン氏は3月に米テレビのインタビューでプーチン氏を「人殺し」だと思うかと問われ、「そう思う」と答え、波紋を広げた。

 こうした中での直接対話は注目を集めた。両首脳が今回、「核戦争に勝者はなく、決して行われてはならない」との原則を守ると約束したことは重要だ。この原則は、1985年に当時のレーガン米大統領とソ連のゴルバチョフ共産党書記長が共同声明でうたったものだ。ロシア側が再確認を求めていたが、トランプ前米政権が拒否していた。

 米ロの核軍縮枠組みは、トランプ前米政権の下で後退し、風前のともしび状態だったが、政権交代により持ち直した格好だ。2月には、米ロ唯一の核軍縮条約で、戦略核の上限数などを定めた新STARTの5年延長に合意した。

 一方で米ロは、地上配備型の中・短距離核ミサイルの全廃に合意した「中距離核戦略(INF)廃棄条約」を2019年8月に破棄して以降、中・短距離ミサイルの開発に突き進んでいる。

 背景には、それらのミサイルを中心に核軍拡を進めている中国の存在がある。中国は米ロの核軍縮枠組みをよそに軍事力を強化している。米中関係の悪化は、米中の軍拡競争に一層拍車を掛けている。

 中国包囲を狙う米国には、核弾頭を搭載可能な中距離弾道ミサイルを沖縄はじめ日本列島に配備する計画がある。ただでさえ沖縄は広大な米軍基地があるため、米ロや米中が戦争になれば真っ先に狙われる危険がある。それに核ミサイルが加われば核戦争に巻き込まれ、壊滅的打撃を受ける恐れもある。それだけは絶対に避けねばならない。

 プーチン氏は会談後の会見で「米ロは核大国で、世界の戦略的安定に特別な責任を負っている」と強調した。世界の核弾頭の9割を保有する両国は中国を核軍縮の枠組みに参加させる責務がある。一方の中国も、その枠組みに積極的に参加し、東アジアの安全保障環境の安定に貢献する責任がある。

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