スイス・ジュネーブ現地の人々の反応 2021年米ロ首脳会談

By 「ニューヨーク直行便」安部かすみ

レマン湖畔。(c) Kasumi Abe

米ロ首脳会談の取材でせっかくジュネーブを訪れたので、現地の新型コロナウイルスの状況と会談に対する人々の反応も紹介する。

スイスは特に昨年の秋以降、コロナ感染が拡大したが、最近はイスラエルとアメリカに続くワクチン接種率の高さで、17日の時点で7日間平均の陽性率は251人と減少傾向にある。

ジュネーブでは店内や公共交通機関では依然マスクを着用せればならないが、屋外では人々の半分以上がマスクを外していた。ちなみに筆者も「うつさない・うつらない」ためにワクチン接種は済ませており、念には念を入れ、新型コロナの検査も出発前、サミット前日、最終日前日と1週間で3回も受け、すべての結果が陰性だと確認。安心して取材活動に集中することができた。

人気の日本食惣菜店で働くスタッフによると「ジュネーブはパンデミックで半年以上も店が閉まり死んだ街になっていたけれど、最近ワクチンの浸透でやっと活気が戻ってきた」と言った。

パレスチナ出身イギリス育ちで、当地に移住して20年以上になるタクシー運転手マンツールさんによると、パンデミックで飲食店などは大打撃を受けたが、「自分たちは働いて税金を納めると政府から手厚い保護として返ってくる」と不満そうな様子は見られなかった。ただ、観光客はまだ街に戻って来ておらず、早期の観光業復活に期待を寄せた。

世界的に重要なサミットを経済の大打撃を受けた都市で開催するのは、街の復興への重要なトリガーになる一方、会場周辺はテロを警戒し、最高レベルのセキュリティ態勢となった。ステイホームが呼びかけられ、車両やバスの侵入や一般の人々の通行は禁止され、迂回を強いられるなど混乱も見られた。メディアバッジを取得していた筆者でさえ、会談当日、メディアセンターに行くのに相当遠回りをさせられた。

「街の人は、市民生活に支障を来すのは容認できないという気持ちでいる」と話すのは、メディアルームに設置された新型コロナの検査会場で出会った、ドイツ語メディアで働くスイス人記者アナさん。

「空港に近い場所で開催すればいいのに、なぜこんな市内の中心にある会場を選んだのか、まったく理解不能。テロでも起こったらどうなるかと人々は心配していた」とやや強い口調で訴えた。

ただし、他都市もサミットを誘致していた中でジュネーブが選ばれたのは市民として名誉なことだと認め、「不満がありながらも、人々は『受け入れる』という気持ちでこの日を迎えた。ホスト国の私たちにとっても、大切なサミットになったことには変わりない」。

以前ニューヨークの政府機関で働いていたというバーバラさんは、散歩がてらサミット会場となった18世紀のヴィラ「Villa La Grange」を携帯電話で撮影していた。「誘致に成功しこの街に2人のリーダーを迎えることを、市民は誇りに思っている」。

一方でバーバラさんはこのようにも言う。

「ここは本来レマン湖畔に面した市民の憩いの場、グランジュ公園なの。中には素敵なレストランや花園、アクティビティもある。それなのにゲートを閉め、鉄線の柵で市民を外側に追いやった。私たちの人権や自由はどうなる?自国の国益ばかりで何が人権に関する協議よ。世界のリーダーが集まった時、本来なら市民の自由や人権こそ、話すべきではないか」

再開発で整った湖畔の説明もしてもらいながら、しばらく一緒に暮れゆく夕焼け空を眺めた。そして別れ際、笑顔でこのように言ってくれた。「ジュネーブは本来、鉄柵もゲートもない開かれた、自然豊かで美しい街。公園内や湖畔にある噴水の近くを自由に散策して街を存分に楽しんでほしい。また次回ゆっくりいらっしゃい」。

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