渋谷駅ホーム移設や秋田新幹線の雪落とし装置 土木学会が学会賞表彰 鉄道関係で10件受賞【コラム】

土木学会賞は表彰者が多数に上るため、表彰状を代表者に手渡した後、全員で記念撮影します。写真左端は土木学会の家田仁会長、左から5人目(後列)がJRTTの浅見均建設部長です(筆者撮影)

毎年5~6月には鉄道関係の表彰が決まります。車両関係では先日、鉄道友の会のブルーリボン賞とローレル賞が発表され、ブルーリボン賞は近畿日本鉄道の80000系「ひのとり」、ローレル賞はJR東日本のE261系とJR東海のN700Sに決まりましたが、今回ご紹介するのは鉄道施設というかプロジェクトを対象にした学会表彰です。

土木学会は、2020年度に完成したプロジェクトを対象にした「令和2年度土木学会賞」を選考し、2021年6月11日、東京・飯田橋のホテルメトロポリタンエドモントで表彰式を開催しました。ここでは、読者諸兄に興味を持っていただけそうな話題を取り上げ、専門用語を極力省いてポイントを紹介します。

会員数4万人のマンモス学会

最初に土木学会の紹介と、学会内での鉄道プロジェクトの立ち位置を。1914年に設立された土木学会は約4万人の会員を擁する、日本最大規模の学会です。学会というと大学や研究機関の研究者が何やら難しい研究や発表をしている印象ですが、実際には企業のエンジニアも数多く参加。土木を研究するのは大学や研究機関、実践するのは企業といったところでしょうか。

土木関係の企業といってもゼネコン(建設会社)、道路、空港、港湾、コンサルタントと千差万別ですが、鉄道は常に土木学会を中心に立ってきました。日本では、明治維新とほぼ同時に鉄道建設がスタート。トンネルを掘削したり、橋を架けたりして線路を敷いてきました。土木技術の進歩と鉄道ネットワークの拡大は、車の両輪のような関係だったはずです。

東京メトロ銀座線渋谷駅のホーム移設に合わせ公共施設を整備

移設前(左)と移設後を並べた東京メトロ銀座線渋谷駅ホーム(画像:土木学会)

前置きが長くなりましたが、ここから学会賞の紹介に移ります。優れたプロジェクトを顕彰する技術賞は全体で36件、そのうち10件を国内外の鉄道関係が占めました(受賞件名などは適宜簡略化しています)。

「渋谷駅東口の銀座線ホーム移設、地下広場・雨水地下貯留施設の整備」は、東京メトロ、東急、JR東日本の鉄道3社の共同事業。メトロ銀座線渋谷駅のホームが移設され、印象もガラリ変わったのは、多くの皆さんが体験済みと思いますが、もう一つのポイントは、地下広場や雨水地下貯留施設といった公共施設を鉄道と一緒に整備した点です。

渋谷駅には4社9路線の鉄道が乗り入れ、東西両側にバスターミナルがあって、1日利用客は約330万人とも。大正時代から開発が進められた結果、乗り換えでまごつく場面があったのは確かで、安全で快適な都市空間の創出、分かりやすい駅づくりを目指して再開発が進められました。

渋谷は地名通り谷形の地形で、プロジェクト3社が力を入れたのが、垂直方向の移動をスムーズにする「アーバン・コア」。例えば、渋谷駅から青山方向に向かう場合、多くの人がお世話になるのが、東急「渋谷ヒカリエ」の長いエスカレーターです。

JR埼京線渋谷駅ホームをJR山手線ホームに横付け

2020年5月29日夜間から6月1日早朝にかけ、埼京線列車を区間運休して進められたJR渋谷駅のホーム移設(画像:土木学会)

渋谷駅絡みではもう一件、JR東日本と関東地方整備局が、JR東日本コンサルタンツなどと共同で手掛けた「JR埼京線のホーム移設」も、同じ技術賞を受賞しました。

山手線と埼京線の渋谷駅は、駅名は同じでも線形の関係で350メートル程度離れていましたが、JR東日本は2回の線路切り替えで埼京線ホームを山手線ホームに横付けしました。埼京線ホームの移設先には全長53メートル、総重量86トンの連絡通路がありましたが、JR東日本は工程を工夫して、列車を運行しながらの工事を実現しました。

JR東京駅で丸の内側と八重洲側の行き来を便利に

JR東日本ではもう一件、「東京駅北通路周辺整備」も選考されました。JR東京駅は、丸の内側と八重洲側の行き来が不便だったりします。東京駅は北側(神田寄り)の改札内と改札外に通路がありますが、それを改良するのがJR東日本のプロジェクトで、線路下で十分なスペースが取りにくい難条件を克服して駅改良に取り組みました。

東京駅は2015年の「上野東京ライン」開業で、東海道線と東北・常磐線の直通運転が始まったわけですが、JR東日本は上野東京ラインの鉄道と駅改良プロジェクトを一体的に進めました。若干専門的になりますが。駅改良では高架橋の縦はりや中間柱を省くとともに、雨水の排水に配慮した長スパンのけた式構造を採用して、二層高架橋による大規模空間を確保しました。

大釜駅では温水噴射で秋田新幹線の雪落とし

洗車場を思わせる秋田新幹線の雪落とし装置(画像:土木学会)

もう1件だけJR東日本にお付き合いを。田沢湖線で盛岡駅の1駅手前、大釜駅に設置した「秋田新幹線着落雪対策設備」も、技術賞に選ばれました。秋田発東京方面行き上り新幹線は、豪雪地帯の田沢湖線を走って盛岡から東北新幹線に乗り入れますが、問題なのは冬期間。台車に付着した雪氷が新幹線区間内で落下し、設備を損傷するトラブルが散見されます。

従来は盛岡駅ホームに停車中の秋田新幹線車両に付着した雪を、人海戦術で落としていましたが、この方法は何とも非効率。JR東日本が開発したのが台車融雪装置で、約60度に温めた温水を台車形状に応じて直線、扇状、拡散の3タイプのノズルから噴射して雪を落とします。営業線に台車融雪装置を設置するのは、日本で初めてだそうです。

JRTTは富山駅の路面電車南北接続など3件で受賞

鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)は、「富山駅の路面電車南北接続」「九州新幹線諫早トンネル」「神奈川東部方面線羽沢トンネル」の3件で受賞しました。

鉄道ファンの皆さんに関心を持っていただけそうなのが、富山の路面電車南北接続。富山市ではJR富山駅北側に富山ライトレール(現在は富山地方鉄道に統合)、南側に富山地方鉄道富山市内線という路面電車があります。路面電車南北接続は、北陸新幹線開業を機に在来線(JR高山線と、第三セクターのあいの風とやま鉄道)を高架に上げて、高架下でライトレールと地鉄の線路をつなぐプロジェクト。通常、鉄軌道の連続立体交差は踏切除去を目的に事業化されますが、今回は路面電車をつなぐためで、踏切除去を伴わない連立は全国初めてという、いささかマニアックな話題もあります。

続く九州新幹線諫早トンネルは、土被りが小さい、つまり地表から浅い位置に掘削する延長230メートルの西九州新幹線のトンネルです。JRTTはパイプ状の鋼管でトンネル屋根部を形成する、「パイプルーフ工法」を開発・採用しました。

JRTTが手掛けた西九州新幹線諫早トンネル。天井部にパイプがアーチ状に埋め込まれているのが分かります。(画像:土木学会)

神奈川東部方面線羽沢トンネルは、建設中の東急新横浜線のトンネルで、シールドマシンで延長3150メートルを掘削します。シールドトンネルの壁面は通常、セグメントというブロックで構築しますが、JRTTは地質に応じてセグメントとトンネル壁面に直接コンクリートを打ち込む場所打ちライニングを併用。都市部のトンネルも、山岳トンネルと同様の工法で建設できるようにしました。

東京メトロはインドの地下鉄建設で受賞

東京メトロが技術協力したインド・デリーメトロ。ドアが外吊りという点を除けば、日本の地下鉄に似た印象を受けます(画像:土木学会)

ラストになりましたが、今回は海外鉄道プロジェクトで「デリーメトロ都市鉄道建設プロジェクト(インド)」「シンガポール・地下鉄トムソン線226工区」「ベトナム初の地下鉄のシールドトンネル建設」の3件が、技術賞を受賞しました。

このうち東京メトロのほか、本コラムでも取り上げた海外鉄道技術協力協会(JARTS)が参画したのがデリーメトロ。インド人女性が身にまとう裾の長い「サリー」が列車ドアやエスカレーターに巻き込まれるトラブルを防ぐため、ドアレール部分などにブラシ状の「サリーガード」を取り付けて巻き込みを防ぐ、相手国に合わせた鉄道技術というかホスピタリティ(もてなし)の提供です。

個人表彰に触れるスペースはありませんが、お一人だけ、国際貢献賞を受賞した日本コンサルタンツ(JIC)技術本部副本部長の秋山芳弘さんのお名前、記憶のある方がいらっしゃるかもしれません。国鉄からJARTS、JICと40年以上にわたり海外鉄道の技術支援にライフワークとして取り組んできた秋山さんは、本業の傍らで海外鉄道の紹介記事を鉄道誌に執筆。日本と海外の鉄道をつなぐ活動が高く評価されました。

国際貢献賞を受賞したJICの秋山技術本部副本部長(左端)。現在も鉄道業界誌などで精力的に執筆活動を続けます(筆者撮影)

文/写真:上里夏生

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