ダウン症児の脳の正常発達を乱す遺伝子を大阪大学が発見

大阪大学医学部附属病院の川谷圭司医員、北畠康司准教授らの研究グループは、ゲノム編集技術をヒトiPS細胞に駆使し、ダウン症の知的障害の発症に大きな役割を果たすアストロサイトが異常増殖するメカニズムを明らかにするとともに、その原因遺伝子の同定に成功した。

ヒトの脳組織はほぼ同数の神経細胞とアストロサイトから構成されるが、ダウン症患者の脳組織では、神経細胞が少なく、アストロサイトが通常の2倍以上存在することが分かっている。そのため、その原因を知ることが知的障害の理解と治療法開発につながる。一方、ダウン症候群で見られる多様な合併症は、330個もの遺伝子をもつ21番染色体が通常の2本から3本へと増えること(トリソミー)が原因だが、これまで、その治療法の開発に必要な細胞やマウスなどの実験モデルの作成が困難だった。

研究グループは、新しい遺伝子操作技術として大きな注目を集めているゲノム編集技術をヒトiPS細胞において駆使することにより、21番染色体を自由自在に改変し、ダウン症候群における「疾患モデルiPS細胞」を樹立した。特に神経細胞の維持と病的変化に大きな役割を果たすアストロサイトに注目し、ダウン症細胞モデルをアストロサイト前駆細胞へと誘導して調べることによって、ダウン症候群ではアストロサイトが異常増殖していること、その責任遺伝子がDYRK1AとPIGPの2つであることを見出した。

今回の研究成果は、ダウン症患者の知的障害の解明だけでなく、成人期ダウン症の大きな問題となりつつある認知症の診断・治療にもつながる重要な発見であり、今後のダウン症研究を発展させるきっかけになるとしている。

論文情報:

【Communications Biology】A human isogenic iPSC-derived cell line panel identifies major regulators of aberrant astrocyte proliferation in Down syndrome

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